第一章 第五話 ~三者三様~
今回のお話はずいぶん長くなってしまいました。それでも読んでいただければ嬉しいです。
……区切りが、区切りが無かったんですよ……
~午前8時5分 第一の街 教会にて~
《ユウ視点》
……また、ここに来ちゃったか………
これで、二回目。
この世界で、二度目の死。
ここに来るということは、負けたってこと。
己の力を過信したということ。
そして……僕が弱いことの証明。
今思えば、思い上がっていたんだろう。
ランは日を重ねる毎にどんどん強くなり。
ライムもランほどではないが力をつけ始め。
大半の敵に対処できるようになって。
それを、僕の強さと勘違いして。
……そして、負けた。
正直、完敗だった。片腕をまともに使えない相手に、いともたやすく切り刻まれて、僕を信じて戦ってくれたランも、傷つく結果になってしまった。
……思い上がっていた。僕は、弱いままだ。
この子達の強さも把握できず、自分が何も変わっていなかったことに全く気がつかなかった。
僕は……今も変わらず、『最弱』だ。
そう思い、無力な自分に苛立つ。
そして、胸に芽生えた感情に気がついた。
……僕は、今、なんて思った?
「……悔しい……の?僕は?」
思わず自問自答する。
そうして理解した。
僕はまだ、腐ってない。
僕はまだ、諦めてない。
僕はまだ、負けを認めちゃいないっ!
僕は……僕は…………!
「あいつに……勝ちたい!」
強く……ならなきゃ。
胸を張って、この子達の主だと言えるように。
僕を信頼してくれるこの子達を、裏切らないために。
そして何よりも……僕自身に、嘘をつかないために!
『ユウ様。少し、あなたは勘違いをしています。』
不意に。
僕の胸に、ライムの透き通る美しい声が響いた。
『あなたが弱いことなんて、私達は知っています。』
……流石にはっきり言われると傷つくなぁ。
『あなたがヘタレで、人見知りで、寂しがりなことも知っています。』
…………珍しく、ライムが僕の悪口を言ってる。
普段はユウ様ユウ様って、ずっと優しい言葉をかけてくれるのに……
最近ちょっと、まるでお母さんだなとか思ったこともあったけど。
『そして、何よりも……あなたが優しいことを知っています。優しくて、いつも私たちのことを気にかけていて、笑顔が素敵で、裏表のない、私たちの大好きなユウ様であることを。』
「……ライム。」
『……そんなユウ様だから、私達はここまで着いてきたのです。そんなユウ様だから、守りたいと思うのです。あなたの笑顔を、いつも見たいと、そう思うのです。』
……なんだろう。
反抗期を過ぎた娘から、今までありがとうって感謝のメッセージを受けている気分だ。
……すごく、嬉しい。
『ユウ様、一人で強くなる必要なんてありません。あなただけが強くなってしまったら、私達がいる必要がなくなります。』
……そうだ。
僕だけが強くなっても仕方ない。僕だけじゃなく……
「『みんなで強くなりましょう』」
二人で声を重ねる。
そうだよ。だって僕達は。
「僕達は、一つなんだから。」
僕のその呟きに、ライムが頷いてくれた気がした。
きっと、今寝ているランも、同じだろう。
……さて。じゃあ、ここからは。
『どうやって強くなるか』を、主として考えなくちゃね。
《ギン視点》
「……クソッ!」
胸中に渦巻く苛立ちを込めて、白い柱を殴る。
悔しい。負けたことが。
己の不甲斐なさに、反吐が出そうになる。
そして、何よりも思ったことを、ギンは口にした。
「あそこで負けちゃ……俺がいる意味がなくなっちまうじゃねぇか……!」
パーティープレイができない俺が。
仲間を傷つけてしまう俺が。
勝つこと以外で、何の役にも立てない俺が……
俺を頼ってくれた、妹を。
俺のことを信じてくれたユウを。
……守れなくちゃ、俺がいる意味なんてねぇ……!
「……あの〜、ギンさん?」
……情けねぇ。
《最恐》なんて言われて、パーティーすら組ませてもらえず。
ようやく見つかった俺の『仲間』を。
守ることすらできないなんて……何が最恐だ。
……ユニーククラスが選ばれたプレイヤー?
そんなわけねぇ……これじゃまるで……
「ギンさん!」
「……ッ!」
いきなり大きな声で名前を呼ばれて、心臓が飛び出そうになる。
声がした方向を向くと、頬をふくらませたユウが立っていた。
「……なんだ、ユウ。びっくりさせんなよ……」
「ギンさんが反応してくれないからですよ!」
「……ああ。悪かったな。考え事をしてた。」
「…………そうですか。……とりあえず、ユズを迎えに行きますか?」
俺の様子を察してか、そう聞いてくるユウ。
……その優しさに、ズキリと胸が痛む。
それを表には出さないように努め、話に乗っかる。
「そうだな。あいつは死なずにすんだのか?」
「はい。あの子の目的は僕達でしたし。ユズは今町に帰っているとのことです。」
「……そうか。」
そう返事して、歩き出す。
その後ろをついてきてくれるユウ。
……そんなユウが、俺のことを失望してるんじゃないかと不安になる。
…………やっぱり聞くべきだよな。
「なあ、ユウ。」
「なんですか?ギンさん。」
意を決して、聞こうと声を出そうとした、その時。
「……あっれ〜?もしかしてギン?こんなところで何してんのォ〜?」
久方ぶりに聞いた声が、ギンの心を揺さぶった。
「……お前は…………」
振り向いた先にいる相手を睨みつける。
「カリヤ……!」
名を呼ぶと、そいつは汚い顔をもっと醜くして笑った。
《ユウ視点》
ギンさんがすごい形相で睨んでる……
というか殺気が思いっきり漏れだしてるよ……
「……ええっと、お知り合いですか?」
ギンさんにそう聞いてみる。
しかし、その問に答えたのはギンではなくカリヤとさきほど呼ばれたプレイヤーだった。
「……ええ!それはもう!とってもお世話になりましたよォ?そこのギンには。」
……少々、というかかなり気持ち悪い顔で、肯定するカリヤ。
…………運営さん、このキャラメイキングは悪意がありすぎないかな……?
そう思えるほどカリヤさんの見た目はものすごく気持ち悪かった。
例えるなら、オークが一番近い。
というかオークよりも醜悪で、オークが可愛く見えてくるほど気色悪い。
既に哀れみすら感じるそのキャラが、そのキャラに似合いすぎるウザイことこの上ない声でしゃべる。
「……キミィ。そこのキミィ。」
「…………あ、僕のことですか?」
「そうに決まっているじゃないか〜。キミは、無理やりギンとパーティーを組まされているんだろう?そうだろう?」
「……?」
……ああ、質問されてるのか。あまりに気持ち悪すぎて何を言ってるのか話半分で聞いてたから気がつかなかった。
「いや、そういうわけじゃないですよ。僕が組みたいから組んでいるだけです。」
「……ほォ?こいつの事情を知ってもかい?」
「…………事情?」
……事情って、何のことだろう?狂化スキルのことかな?
僕の返答に、また笑顔を歪ませるカリヤ。
「やァっぱァりィ!知らないんだねぇ!そりゃそうか!知ってればパーティーなんて組むはずが無いもんねェ!」
すごく喜んでいるみたいだ。気持ち悪い。
……そこまで問題になる事情があったのかな?
「なら、僕が教えてあげるよォ!こいつは、『最恐』と名高いプレイヤー、ギンはねェ!ベータテスト時代、レイドボスと戦っている時に仲間を全員皆殺しにしたんだよォ!死体をボリボリ貪り食う姿は、まさに人外そのもの!しかも、あろうことかずっとユニーククラスであることを、そしてそんなスキルを持っていることを隠していた!」
ギンが悔しそうに歯を食いしばっている。
こころなしか、泣きそうにも見える。
……なんとなく事情が見えてきた。
「つまり、ギンさんの背負っている借金って……」
「あァ、そこまで話していたのかい?……お察しの通り、僕達への慰謝料だよォ!レイドメンバー、23人へのねぇ!中には深く傷ついた子もいて、かわいそうだったなァ!なァ!」
だから、あんな莫大な金額の借金を……
でも、それでも多過ぎる気がするけれど……
「キミも、こいつとパーティーを組むのはよした方がいいよォ?こいつに頭からボリボリ食われちゃうよォ?こいつはァ、人外なんだからさァ!!」
「……ッ!」
ギンさん……そんな泣きそうな顔しないでよ……
あいつ、思いっきりブーメラン刺さってるから……
あいつの方がよっぽと人外だからさ……見た目。
「だいたいさァ〜ユニーククラスがパーティーを組めると、誰かと仲良く出来ると思うのが間違いなんだよォ。こいつはァ……ユニーククラスの奴らはァ!一生一人でやってればいいんだよォ!」
「……」
すごい煽ってくるなぁ……
街中だと戦えないし、外に出て殺したらまた悪名が広がっちゃう。
だから、こいつは言いたい放題言えるわけね……
……でもねぇ。
そろそろ、僕も我慢の限界なんだよねぇ……?
キレても……いいよねぇ?
「ユウ、行くぞ。」
震え混じりのその声で、どうやって目の前のオークモドキを殺してやろうかと考えていた思考から、現実に引き戻される。
「……そうですね。」
ギンさんのその声に従い、歩き出す。
「あァ!ギン!今日の午後七時だからねぇ?支払期限。別に来なくてもいいけどねェ?」
後ろから聞こえるその声を無視して、ユズのいる場所へ歩き出す。
唇を噛み締めて歩くギンさんに、声をかけることはできなかった。
~午前8時20分 第八の街 ポータル~
《ユウ視点》
「よっ、と。」
第一の街のポータルで転移して、周りを見渡す。
そういえば待ち合わせ場所も時間も決めてなかったな……
待たせてしまってたら怖いなぁ……
女性を待たせると何を要求されるかわからないから……
「……ユウ、さっきの話だが」
「ギンさん、僕は別にあなたが化物だろうがなんだろうが気にはしません。」
申し訳なさそうな声で話してくるギンさんの声を遮るように、僕は宣言しておく。
「ユズ、待たせてますし、早く行きましょ?」
そう言って、歩き出す僕の背中をゆっくりと追いかけるギン。
出会った時の高圧的だったギンさんからは想像出来ないほど、その姿は惨めに見えた。
~同時刻 第八の街の酒場にて~
《ユズ視点》
「……遅い。」
兄さん達、どこで油を売っているんだか……
期限までもう猶予はないというのに……
まあ、兄さんとユウはデスペナルティのせいで三時間のステータス減少してますし、帰ってきてもすぐに動けるわけじゃないけれど……
「……はぁ。」
思わずため息が出る。
私、あの時から何も変わってない。
ただ守られるだけの、弱々しい存在。
変わる気があったのかと聞かれると、少し微妙だけれど、今もこうして前と変わらず仲間に守られてばかり。
「僧侶だから、仕方ないけれど、やっぱりなんだか……」
自分だけ死なずにすむというのは、やはり申し訳ない。
こうして待つのも、私に対する罰なのかもしれないわね。
そんなことを思っていると、酒場のドアが開く。
ユウ達かと思って視線を向けて……すぐに目を逸らした。
しかし、入ってきた相手は目ざとく私を見つけて、話しかけてくる。
「あら、久しぶりね。ユズさん。お金は溜まったかしら?」
「……お金の事ばっかり話してると、不細工になるらしいですよ、『お姫様』。」
「あら、あなたもその名前で呼んでくれるようになるなんて、どういう心境の変化かしら?」
「……イヤミですよ。分かりなさいよ、クソ女……」
自分のことを姫だと思ってるとか、やっぱり凄いわこいつ……いろんな意味で。
「あら?借金まみれのあなたにクソ女扱いはされたくないですわよ〜?」
そう言って、「オ〜ホッホッホ」と奇妙な笑い声を上げる。
キャラになりきってるわねぇ……この子。
いや、この子の場合はリアルでもこんな感じだからなりきりではないのかしら……?
まあ、ちょっとアレな子であるのは変わりないわね……
「貴様!我らが姫に向かってなんだその目は!」
「そうだそうだ!」
……類は友を呼ぶ?こいつらも相当やばいわね。こんなのが姫とか目の腐ってるんじゃ……
「やめなさい、二人とも。この女にそんなことを求めても無駄よ。他人の彼氏を奪った借金まみれの女なんだから。」
「流石です姫。こんな下賎なものに対しても、声をかけてやるなど……それに比べ私は……!」
「うふふ、ベルベルト、顔を上げなさい?あなたは何も悪くないわ……悪いのはそこの女よ。」
「……そうですね。姫、励ましてくださって感謝します。」
そう言って顔を上げて、私を睨みつける騎士さん。
……なかなか洗脳されてるわね。
かわいそうに……
「……で、何か用ですか?期限の時間まではまだ時間があるでしょう?」
「一応確認として来てあげただけですわ。わかってるならよろしいんでしてよ?……まあ、払わなくてもいいですわよ?」
……払わなかったら、あっちでもこっちでも腹いせするくせに……
「……はいはい。七時に第一の街の噴水前ですね。あなたこそちゃんと来るんですよ。」
「ふふっ、用意できるといいですわねぇ?まあ、払えなければこちらの世界にも向こうの世界にも居場所がなくなるだけですけど♪」
せいぜい頑張るのでしてよ、と言葉を残して、クソ女は騎士たちを引き連れて出ていった。
……どうしたものか。
あと残り10時間、ログイン制限も考えると6時間と少しかしら。
その時間で残り金額の700万を稼ぐのは……かなり厳しい。
……もう、諦めてしまおうか。
そう思うと、なんだか胸が苦しくなってくる。
結局、私は……友達が欲しかっただけなのだ。
そして、人選をミスしてしまった。
あの女を選ばずにいれば、今頃私は……
そんなことを思っていると、何故か涙が溢れてきた。
そんな時だった。ようやくユウと兄さんが入ってきたのは。
あとがきを書き忘れていた作者、一兄さんです。
最近になって、自分のアカウントネームが123(いちにいさん)と読めるんだなと気が付きました。
というか今までよく気が付かなかったなぁ……と。思ったりしてます。
さてさて。GW連続投稿も今回のお話で終了です。
土曜日と日曜日の間にずいぶんストックが出来ていたので、わりと楽でした。
次にするとしたら、夏休みのお盆あたりでしょうか……
では、今回はここら辺で♪




