第一章 第一話 ~二週間~
アヴァロン・ゲート・オンラインの公式サービス開始から、二週間が経過した。
大半のプレイヤーが、各々の好みに合うグループに所属して、レベル上げを頑張る中……
「……はぁ。弱ったなぁ……。」
ため息を吐く少年がいた。
そう、紛れもない僕、星原優だ。
シャルさんの店を飛び出した一件以来、僕はひたすらソロプレイで頑張った。
それはもう、ソロプレイで行ける限界を通り越すぐらい頑張った。
プレイヤースキルもなく、さして情報通でもない僕が、この二週間ずっとレベリングをつまずいたりすることなく続けれたのは、ひとえにライムとランのおかげだと思う。
二人がいなきゃ僕は攻撃すらできないし。
ああ、二匹って言った方がいいのかな。
なんにせよ、二匹には感謝してもしきれないくらい莫大な恩が出来てしまったわけなんです。
まあ、このことを二匹に言ったら「そんな!僕達はユウの役に立ちたいだけだから気にしないで!」とか、「私はユウ様のためにあるのです。ユウ様は全く気にせず私を使ってください。さあ、さあ!」って言われたんだけど。
いつかは恩返ししないとなって思いながら、二匹を拝み倒したくなる今日このごろです。
……さて、本題に移ろう。
で、今僕が困ってる理由なんだけど、実は……
「人数制限」
これなんです。
具体的にいうと、僕のこれから受けたいストーリークエスト、「涅槃の沼地を調査せよ」ってクエストの受注条件が、「魔女ウィスプの討伐」と、「レベル24以上」、そして、「三人以上」なわけで。
ウィスプの討伐は、しないとこの涅槃の沼地マップが開放されないから、クリア済みで。
レベルも、昨日頑張ってあげて24になってるからクリア済み。
……そんなわけで。
三人以上ってところでつまづいております。
本当なら、野良で集めてしまって行くっていうのもいいんだけれど、僕のクラスがそれの邪魔をするんだよね。
そう、僕はユニーククラス。それも、最弱の。
クラスを一般的なクラスの召喚士と偽っても、その召喚士に必要なスキル構成がないから一瞬でバレちゃうと思うし、ぶっちゃけこのテイマーってクラスはソロ向けなんだよね……。
本当に、器用貧乏って言葉が良く似合うクラスだと思う。
さてさて、話が脱線したのでもどそう。
てなわけで、パーティーを組もうにも組めないんだ。
ナン君に頼もうとも思ったんだけど、ナン君はまだレベルが全然足りてないみたいだし、さーちゃんや姉さんとも連絡がつかないし。
そんなわけで、ここで詰んでるわけです。
酒場で深くうなだれる。
どうしようか……。とりあえずレベリングして、さーちゃんや姉さんと連絡が取れるのを待つべきかな……?
でもなんとなく、姉さんが「手を貸すな」って命令してそうな気がするんだよね。
姉さんのことに関する直感は、姉さんに振り回され続けてきた経験でよく当たる。
それに、さーちゃんが出ないのはどう考えてもおかしい。
さーちゃんなら、かけてきたことがわかったならノータイムでかけ直してくるはず。だから、かけ直してこないってことは多分……
ナン君を待つにしても、ずいぶんと時間がかかっちゃうし……
「とりあえず、レベリング行きますか。」
そう呟いて、立ち上がる。
すると、周りの視線が僕の方へ集まる。
何故か最近、人の視線をよく集める。
目立つようなことも特にしてるつもりは無いし、独り言には気をつけてるから視線を集める理由もないんだけど……。
まあ、こういうのは気にしたら負けかな。
「よし、今日も頑張ろう!」
そう言って気合を入れる。
頭の中に、二人の「おー!」って声が響いて少し癒されたりしたのは余談だ。
涅槃の沼地である程度レベル上げをして、そろそろログインの制限時間が一時間を切ったのでラストスパートをかけようと思っていた時だった。洞窟を見つけたのは。
「……うん?」
洞窟の奥から微かに聞こえる戦闘音。
具体的にいうと、グチャっとかメキッとかそういうちょっとえぐい音。
「……ちょっと入ってみようかな。」
なんとなくそんな気分になった。
僕がゆっくりと洞窟へ足を踏み入れると、後からランがついてきてくれる。
ちなみにライムは現在僕の中でお休み中である。
「うーん、ちょっとくらいね、ラン。」
『そうだね。明かりつける?』
「うーん、まだいいかな。」
そんなやりとりをしながら、階段を降りていく。
一段降りるごとに、近づいてくる破砕音。
そして濃くなっていく血なまぐさい匂い。
……少しは慣れたとはいえ、やっぱりちょっとキツイかも。
『ユウ、無理そうなら引き返しても……』
ランがそう言ってくれるけど、「大丈夫。」と微笑む。
そして目の前に目を向けると、おそらくモンスターの死骸だったものが散乱していた。
この世界において、普通は死骸なんてお目にかかれない。
武器や魔法を使って倒すと、相手はポリゴンとなって消える。
だから、こんなふうに死骸が残るのは珍しい。
死骸を残す方法は二つ。
一つはモンスター同士の戦いの時。
これはプレイヤーに使役されているモンスターはカウントされない。
よって、僕達もそれにはカウントされない。
要するに、野良モンスターが縄張り争いなんかで戦う時はそうなる。
大半の死骸はこのパターンで生まれる。
そして二つ目。
このパターンは限りなく少ない。
理由は簡単。無意味に等しいから。
こんな手段をとるくらいなら武器を握ればいいし、魔法を使えばいい。
この世界に存在する『ほとんどの』クラスは武器、もしくは魔法を最低限使えるのでこんなことをする意味が無い。
……この手段をとる可能性があるとすれば、武器が壊れたか、もしくは……
「僕と同じ、ユニーククラスの時だけ。」
そう、二つ目の可能性。それは……
素手で戦った時だけ。
武器を持てないという特性を持っているのは、僕だけじゃないかもしれない。
そんな期待を胸に宿し、僕は歩みを進める。
「……ねぇ、ラン。……あれ、やばそうじゃない?」
『そうだね。あの様子だと、大方捨て身でも始める気じゃないかな?』
目に入ってきた状況を考えて、明らかに追い詰められている銀髪の少女と男性。
暗がりでわかりづらいけれど、その表情には明らかに焦燥感が滲み出ている。
「……ラン、行こう。」
『待って、ユウ。ここで君が戦えばあの人達は、気づくと思うよ?君のクラスに。』
「……でも、見殺しにはできないよ!行こう!」
そう言って走り出す。
ランが後ろでやれやれとため息を吐きながらついてきてくれるのがわかる。
……ラン、心配してくれてありがとう。そして、ついてきてくれてありがとう。
『……どういたしまして。まあ、意味はなかったけど。』
そんなやりとりをしながら、階段をかけ降りる。
「大丈夫ですかっ!?」
二人にそう声をかける。
すると銀髪の少女はビクりと肩を震わせ、恐る恐る振り向き、銀髪の青年の方はギロリとこちらに振り返って睨む。
その視線を意識せず、階段をゆっくりと降りていく。
見えてきたのは大量の蟻の集団。
その蟻たちのキチキチという鳴き声に、背筋を震わせる。
「うわぁ……流石に気持ち悪い……この数の蟻はちょっと……」
思わずそう呟いてしまう。……散らかされた死骸のせいでなおさら気持ち悪い……。
『……そんなこと言ってる場合じゃないでしょ〜。』
いや、まあそうなんだけどさ。なんか生理的に受け付けないというかなんというか……。
……まあ、気持ち悪がっててもしょうがないか。
「……うん、まあ、やりますか、ラン。」
そう言ってまた歩みを進める。
「……お前、それ、どういうつもりだぁ……?」
疲弊しきっている青年の隣を通り過ぎようとした時、そんなことを言われた。
どういうつもり……?どういうつもりって何のことだろ?
「?……よくわかりませんが、話は後にしてください。」
とりあえずそう言っておく。
まあ、話は後でもできるし。
……今は目の前の気色悪い虫達を駆除することに全意識を向けよう。
「ラン、『焼き払え』」
ランにそう命じる。
焼き払えって一言命じれば、それで全部済む……はず。
『了解、ユウ。』
そう言って、ランは口を開く。
命じた魔法は『炎竜の弾丸』
巨大な太陽のような火の玉が出現する。
この二週間で、ランの使える魔法は大幅に増えた。
全属性の竜魔法を完全に使いこなせるランは、現状だとうちの最強のアタッカーだ。
ちなみにライムも一つだけランの火力を超える可能性のある能力を習得してるんだけど、それはまた今度。
また話が脱線したけれど、何にせよランは並大抵の魔術師プレイヤーでは歯が立たないほど強くなった。
まあ火力が高いわけじゃないから一撃必殺というよりは範囲殲滅型なんだけども。
「あれは……なんだよ……」
そう呟いた銀髪の青年の方を向いて、微笑む。
『ユウ〜、殲滅完了したよ。ドロップ品、確認したら?』
それは後でね。今はこの二人を街へ送り返してあげる方が先決だと思う。時間もあと三十分しかない。
「……え〜っと、……帰りましょうか。」
はにかんで笑った少年の背後には、もう蟻の軍団は跡形もなく、焼け跡すら残っていなかった。




