最弱クラス?
今回より視点が一人称視点です。
まだ慣れておらず少し違和感があるかもしれませんが、温かい目で見守っていただければ幸いです。
「はぁ……はぁ……!」
息を切らし、黒く少し長い髪を揺らして町中を走る。
周りの人の視線が気にならないといえば嘘になるけれど、今はそんなことよりも……!
「急がなくっちゃ……!」
待ち合わせに遅れることは、星原家において万死に値する。
両親が残した我が家のルールの一つ。
物騒なルールだけれど、相手を待たせちゃダメってことはよくわかる。
……でもさ。
「今回ばっかりは間に合うわけがないと思うんだよぉぉぉ!」
デジタル時計の数字が22時に切り替わった。
「……で、滅茶苦茶急いだけど遅れちゃったと。」
呆れたような声音で、姉さんがため息を吐く。
「……はい。」
そんなわけで。
酒場にて地べたに正座で反省中です。
そんな様子の僕を、少しかわいそうに思ったのか、さーちゃんが口を開く。
「ま、まあまあ。ゆーくんにだってミスの一つや二つ、ありますよ。現に今の今まで遅刻なんてしたこと、なかったでしょ?」
「うっ……まあ、そうだけど。」
「えっ!?一度もないんすか?」
さーちゃんの言葉に、少し気まずそうな顔になる姉さん。
そして驚くナン君
……あ、そっか。
「姉さん、遅刻魔「さぁっ!この話は終わりにしましょ!ね?ね?」……もぉ。」
僕の言葉に無理矢理大声でかぶせて聞こえなくする姉さん。
自分の都合の悪い話になるとすぐに話をそらすんだから……。
ちょっと冷や汗をかきながらニコニコ笑顔を浮かべる姉さんを、ジト目で睨みつつ椅子に座る。
「……さて、じゃあ昨日話せなかったことを話しましょうか。ね、ゆーくん。」
「うん、わかったよ、さーちゃん。」
そうやって、僕は昨日の三人と別れた後のことについて、できる限り詳細に話した。
ライムのこと。ランのこと。僕のユニーククラス、「飼育師」に関する現状でわかる情報すべて。
そして……僕のこの世界で初めての死因となった神聖騎士のこと。
「……ユウ、それってつまり、神聖騎士ってボス二体にひとりで挑もうとしたってことか?」
話を聞き終えたナン君が質問してくる。
その質問にうなずき、答えを返す。
「うん、勝てると思ったわけじゃないんだけど、弱らせて逃げるくらいならできるかな〜って思って。」
「……まあ、その判断が普通だわな。……つーか、そのボス強すぎじゃね?ただの鍔迫り合いで即死とか普通はありえねーと思うんだけど。」
「……うーん、それはレベル差が開きすぎてたっていうのが大きいって、僕は思うなぁ……。……って、どうしたの?さーちゃん、姉さん。さっきから一言も喋ってないけど。」
二人にそう聞くと、俯いてブツブツと独り言をして考え込んでいたサキが顔を上げた。
「ゆーくん、ここでそのラン君とライムちゃん……だっけ?……は、召喚できる?」
ほえ?それって……
「この場で?」
「うん。今、この場で。」
ええっ……。
ランから極力街中での召喚は禁止されてるんだけどな……。
どうしよう、ラン、ライム。
(……うーん、人の目が無いところなら問題ないんだけど……)
(この酒場も、人の目が多いですからね……)
……だよねぇ。どうしようか?
「うーんとね、さーちゃん。できる限り人目のないところがいいって二匹とも言ってるんだけど……」
「人目のないところ?……うーん。」
僕の言葉に少し悩む素振りを見せるさーちゃん。
……人の目のないところなんて、街中には……って!
「そっか!あるじゃん!人目のつかないところ!」
「おわっ!?びっくりした……。いきなり大声出すなよ……。」
「あ、ごめん、ナン君。」
「んで?人目のつかないところって?」
「ああ、うん。ほぼ100%人目のつかないところが一つあるよ。」
「……どこだよそれ?」
「うん、それはね……」
自信満々のドヤ顔で答える。
「シャルさんの武具店だよ!」
「ああ〜」
納得したように頷くナン君。
「……一応あそこは、個別室が使えるっていう意味では人目はないけど……、いつでも使えるってわけじゃないと思うよ……?」
そう言って苦笑するさーちゃん。
ありゃ?そうなんだ。んー、でもほかの選択肢って無いんだよね……。
「……あの部屋なら大丈夫よ。あそこの個別室は私がいえばすぐにでも使わせてくれるわ。」
そこでようやく、ずっと考え込んでいた姉さんがようやく言葉を発した。
「よし、ならすぐに移動しよ!」
そう言って立ち上がる僕。
それに釣られて、さーちゃんとナン君も立ち上がる。
「……姉さん?どしたの?」
未だに考え事している姉さんに声をかけると、すぐに気づいて立ち上がる。
「うぇっ?……い、いや、なんでもないわ。いきましょうか。」
若干声が裏返ってたけど、大丈夫かな……?
そんなことを思いつつ、僕らはシャルさんの武具店へ向けて移動を始めた。
(……武器を持てなくて、戦闘スキルもなく、配下に出来るモンスターも、召喚士や噂に聞くユニーククラスの一つである契約者の劣化……。街中でモンスターを呼び出せることにメリットはほぼ感じられないし、そして謎のモンスターとの意思疎通……。)
そこまで情報をまとめ、カノンは空を仰ぐ。
今日も空は晴れ渡り、見渡す限りの青空である。
(……テイマーって、相当厄介なクラスなんじゃ……。)
少女の頭に浮かんだ考えは、やがて現実となる。
しかし、今はカノンしかそのことに気づけていなかったのだった……。