神聖騎士との対面
少し日が暮れ始めた頃、始まりの森の中での二人の女性プレイヤーの喧嘩は、ようやく終わりを迎えた。
二人とも息もたえだえになりながら、少し不満を残しているのかムスッとした表情のまま、話し出す。
「……さて、随分とおそくなったけれど、ユウを探さないとね。」
「うん。早くしないとゆーくんのことだからまたなにかやらかすだろうし。」
「そうっすね……。なにか場所に心当たりはあるっすか?」
ナンのその質問に、サキとカノンは考え込む。
そして、サキはなにか思いついたのか、顔を急に上げて目を輝かせる。
「そうだよ!こんな時のための神頼みだよ!」
「……待ちなさい。サキ。今までろくなことがなかったじゃない。神頼み。」
「こ、今回は当たるよ!絶対!」
「……その根拠はあるの?」
「なんとなく!じゃ、いっくよー!」
応答を待たずにお祓い棒を振るサキ。
カノンが制止の声をかけようとし、ナンが少し身構える。
しかし、それももう遅い。
空に巨大な魔法陣が形成され。
何重にもその魔法陣が展開し。
三人が呆気に取られた瞬間。
始まりの森の中に、巨大な極太レーザービームが打ち込まれた。
周囲の木々が根こそぎ破壊され、三人は淡く白い光になって消えさり。
残されたのは、かなり巨大なクレーターだけであった。
一方その頃。
ユウとラン、そしてライムは洞窟の中でのんびりと過ごしていた。
その時間が、その場にいた一人と二匹にとっては、幸せな時間であった。
されど、そんな時間が永遠と続くはずもなく。
一体のモンスターによって、その時間は消しさられる。
そのモンスターと戦うことによって、一人と二匹にどんな結果をもたらすか。
この時はまだ、誰も知らない。
『主様!』
最初に反応したのは、ランだった。
ランは一瞬でユウの膝から飛び降りて、戦闘態勢に入る。
そんなランの行動に、驚きつつも同じく身構えるスライムとついていけないユウ。
しかし、そんなユウでも否応なくわかってしまった。
洞穴の奥に出現した、あまりに強大な気配に。
『ら、ラン。あれ、何?』
ユウが指さしたその先には。
始まりの森の三体のレアモンスターのうちの一体。
このゲームの中でも最強クラスの強さを誇り、βテスト時には幾人ものプレイヤーを葬った。
神聖騎士という名前のモンスターが、いた。
神聖騎士が、その手に持っている大きな白い剣を振り下ろす。
それを直感で感知し、急いで回避にうつったラン。
少し遅れて、ユウもギリギリ回避する。
ユウの膝を掠ったその一撃は、ユウのHPバーから2割以上も削り取っていく。
それに目を丸くしつつ、どうにかしてこの場から逃げる策を考えるユウ。
そんなユウに、ランから声が飛ぶ。
『主様!僕が囮になるからそのすきに逃げて!』
その言葉に、ユウが言い返す。
「ダメだよ!そんなの!ラン、こっちに」
こい、と言おうとしたその瞬間。
ランの体に白い刃が通る。
神聖騎士の剣は、振り下ろされた直後のはず……、と思っていたユウ。
しかし、その見込みが甘かった。
「……嘘でしょ?」
ユウが思わずつぶやくと同時に、ランがユウの左手の紋章に吸い込まれるように消える。
ライムは、ユウの頭の上でプルリと震えた。
ユウの目の前には、二体目の神聖騎士が出現していた。