第二話
「希望」の対義語は「現実」
「はぁ〜・・・・・」
城山がいるのはこの村の中心街。デパートなどないがそれなりににぎやかだ。
「十五万・・・・15万・・・・じゅうごまん・・・・」
城山はいわゆるフリーターだ。孝和の店でバイトしているが、なにしろ店長があれだ。
時給は安く一、二時間しか働かせてもらえない。
「あぁくそう!」
やけになって近くの石を思いっきり蹴った。今彼は、唯一あるコンビニのバイトで食べている状態だ。
そんな人生的に負け犬の城山が歩いていると、道の真ん中に人だかりがあった。
当然ろくなことではない。
「おりゃぁぁぁ!」
ガシャン!と言うガラスの割れる音。この村周辺にいる山賊、兼チンピラグループの
「アルティメット・クレーンズ」が暴れていた。
「てめぇよぉ、ろくにパシリもできないのかよ!」
下っ端らしき人物がリーダーらしき人物に殴られている。さっきの音は殴られた下っ端が店の窓にぶつかって割れた音だった。
「ペプシNEX買ってこいっていってさぁ、コカ・コーラかって来たぐらいならまだ大目に見るよ。お前新入りだしよぉ。けどさぁ、醤油って何だよ!あからさまにねらってんじゃねぇか!どこ行けば間違うんだよ!どこ買いに行ったんだよ!」
気の毒そうに見ていた野次馬や迷惑そうな店の主人が必死で笑いをこらえる。
「ふざけんなよ!おれをなめてんのか!」
「なめてません!ほら、フタ開いてないでしょ・・」
「醤油じゃねぇぇぇぇぇ!!!!」
その瞬間ブッと吹き出す声が聞こえた。城山だ。
一斉に視線が城山に集まる。
「あん?・・・・なに笑ってんだよてめぇよぉ!!」
自分の失態に気づいた城山。しかしもう後の祭り、胸ぐらをつかまれる。
「ごごごごごごごごめんなさい違うんです。あの下っ端が笑えて・・・」
「かんけぇねぇ!やるぞてめぇら!」
その声で数人の山賊が城山を取り囲む・・・・・
もちろん。ギタギタのボコボコ
気を失うまで殴られると、ぼろ布のように道に捨てられた・・・・・
「お〜い、しっかりしろ!」
独特のダミ声で城山は目を覚ました。
「こ・・こ・・・は?」
目の前にある白い天井。体を起こすとまだ痛みが残っていた。
「お、気がついたか。」
天井と同じく真っ白の壁。どうやら病院のようだ。
そして城山の横にいる肩幅の広い男。
「だいじょぶか?道に倒れてたんだぞ?」
どうやらこの横も縦も広いダミ声の男が助けてくれたようだ。
「あ・・・ありがとうございます・・・助けてくれて・・・」
「いいって。それよりなにがあったんだ?」
そうして城山はさっきのいきさつと自分の境遇を話した。途中で思わず涙が出た。
「・・・・・・・」
男はしばらく考え込むとおもむろに口を開いた。
「あんた・・・よかったら俺のとこで働かないか?」
一瞬城山は理解ができなかった。そんな都合よく仕事があるなど考えられなかった。
「えええええ!い・・いいんですか!?そんな・・・・」
「ああ。ちょうど人手は足りなかったんだ。「マツケン座」って知ってるだろ?」
最近できたばかりの旅の一座である。今度この村で公演がある予定だ。
「知ってます・・・あ、でも俺、運動神経無いですし・・・」
「大丈夫だって。演劇とかもやるし裏方の仕事もある。それにすぐ慣れるって。」
それなら、と城山は決心した。どうせ仕事も無い上、なにより命の恩人に恩返しがしたいと思った。
「お願いします!」
力強く言った。
「よし!決まりだ!君、名前は?」
「城山竹人っす。」
「俺は松原健。マツケンでいい。とりあえず今日は休め。」
そうは言われたが、体の痛みも徐々に消え、なにより治療費をかけたくなかったので家に戻った。
もし、この時城山が一晩病院にいたら
もし、マツケンが城山を見つけなかったら
もし、城山がボコられなければ
もし、山賊が暴れなければ
もし、城山があの道を通らなかったら
もし、山賊を警戒して慎重に自宅に帰らなかったら
彼が
それに気づくことはなかっただろう
だが
偶然に偶然が重なり
「ん?なんだ?あれ。」
人はそれを運命と呼ぶらしい
つづく