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短歌は青春⁉︎

作者: 石川 kosk

理系な私ですが、頑張ってみました。

「んで、みんなを集めて何をする気なんだ?」


 カズキは、幼馴染みのタケルと同様に幼馴染みのマミ、タケルの妹のサオリの3人を俺の家に集めていた。カズキはこの4人の中ではリーダー的存在。何かする時は必ずカズキが声をかける。

 それにしても不思議だ。というのは、いつもは何をするとか言ってくれるのだが、今日は「お楽しみだ」とか言って教えてくれなかったのだ。


「フフッ、聞いて驚け! 今日は日本文化を体験しようと思ってな、みんなで短歌を詠もうという事にしたのだ!」


「うわっ、先に言ってくれよー」


 胸を張って言い張ったカズキに俺が嫌そうな顔をしてそう言うとカズキは胸を張ったまま


「短歌とか詠むぞ。とか言うと逃げるだろぉ?」


「まぁ、確かに参加したくはないが……」


「けどさ! 以外と面白いかもよ⁉︎」


 マミが横から口を出してきた。マミは案外乗り気なのか……理系なのに。


「お兄ちゃん、マジないですが、しょうがない。カズキって誰よ、チ◯カス野郎。」


 サオリも短歌で俺の参加を促してくる。


「お? サオリちゃんも乗り気なのかぁ! 短歌で答えてくれるとはなぁ!」


 自分に対する悪口を言われているのには気付いていないおバカなカズキは嬉しそうな顔をしている。

 サオリはそんなカズキがマゾだと思ったらしく、スススッと俺の陰に隠れた。


「じゃあ、詠むか……じゃあ、カズキからマミ、サオリ、俺の順な」


「おうよ! 俺の短歌の腕をとくと見るがよい!」


カズキは少し目を閉じて考えてから、


「お姉さんーーあなたのパンツ ーー 見せてくれーーちなみに俺はーーシマパンですよ」


「……」


「……」


「……」


「どうだっ! 素晴らしすぎて声も出ないのか?」


「いや……お前、才能のカケラもないな」


 俺がそう言うと毒舌なサオリも


「あるとすれば、変態の才能ですね。刑務所に入ってください」


 と半眼をカズキに向けながら言っている。


「ちょっと、私には合わないかな……」


 友達想いのマミでさえも額に汗を滲ませている。散々言われたカズキだが、表情を変えることはなかった。そして豪快に笑いながら、手を腰に当てて


「ハハハッ! 俺の短歌が素晴らしいからといってヤキモチを妬いているのだろう? 感情は裏返しに出るものだからなっ!」


「お前、すげぇよ……そのポジティブさ……」


 俺とサオリとマミは完全に引いてしまったが、仕切り直すようにマミが切り出した。


「えっと、次はわたしだね。うーん」


 顎に人差し指を当てて首を傾げながら、少しの間考えると


「サマリウムーージスプロシウムーールテチウムーーイッテルビウムはーーランタノイドさ」


「?」


 なんか、今マミが呪文を唱えたんだが……と思って俺はサオリの方に顔を向けるとサオリも頭の上にハテナマークを浮かべている。

 だが、マミは達成感溢れる清々しい顔をして「ふぅ〜」と息を吐いている。


「おい、マミ。流石にやりたくないからって適当な言葉を並べるのはダメだと思うのだが……」


「適当?」


 やっぱり意味の分からなかったらしいカズキがマミに注意するが、マミはキョトンとしている。


「えっと、分からなかった? ……サマリウムは原子番号62、原子量150.4。ジスプロシウムは原子番号66、原子量162.5。ルテチウムは原子番号71、原子量175.0。イッテルビウムは原子番号70、原子量173.1で、最後のランタノイドっていうのは原子番号57から71までの元素の事で、ちなみにランタノイドっていうのは……」


「もういいから、分かったよ。短歌になってるんだね!」


 まるで暗号のような言葉を聞くのに耐えきれなくなった俺は目を輝かせて話を続けようとするマミを止める。そしてそのままサオリに顔を向けて、


「次はサオリ。次はお前の番だな」


 俺がサオリにそう言うと、サオリはコクリと頷いた。


「お魚屋ーー関東平野ーー洋服屋ーーわんぱく坊やーーかかってこいや」


 意味がわからない、というかそもそも短歌に意味がない。


「……サオリ、ただ五七五七七に並べりゃいいってわけじゃないんだぞ……」


 俺はサオリに注意するが、サオリはこっちを向いて困った顔をしてきた。


「だって……〜や、ってすれば上手く聞こえるって聞いたんだもん……」


「いやだからって……かかってこいや、はないだろう」


「お兄ちゃん……だめだった?」


 目をウルウルしてくるサオリに俺はすぐに折れてしまう。


「…………いや? 大丈夫だよ」


 俺の言い分はサオリのキュンキュン攻撃によって撃破され、サオリの単語連発歌も短歌として通ってしまった。


「タケル、お前やっぱりシスコンだよな」


「タケル、シスコンだね」


 俺のあっさり様に幼馴染みの2人に同じ事を言われてしまうが、知ってるぞ。カズキが学校の階段の下にずっと立って、女子生徒のパンツを見ようとしてるの。それに。マミも、人間でもアレだが、何故かトンボの交尾の動画を毎日5回は見ているの、知ってるぞ。

 だが、ここでそれを言うと友情に亀裂が入り兼ねないから言わないが……


「じゃあ最後は俺だな」


 そう俺が言うと他の3人が目をキラキラさせている。何を期待しているのかはわからないが……ずっと見られているのも嫌なので、


「お前達、そんな顔して、俺見るな。なんだか少し、恥ずかしいから」


「タケルのが一番つまんないな……」


「え? 俺まだ言っt……」


 俺は反論する途中、気付いた。さっきの発言が五七五七七になっている事に。


「タケルの存在もつまらないという事ね」


「お兄ちゃん、下手」


「ちょっと待って⁉︎ さっきのは短歌じゃ……」


 サオリまでが半眼で俺を見つめている。少し前にカズキに向けられていたものと同じ視線だ。


「なんか、空気が冷めたから解散だ。じゃ、またな〜」


 とカズキが言いながら俺の家を後にするとそれに続いてマミも「じゃあね」とだけ言って帰ってしまう。


「私も自分の部屋に戻る」


 と言ってサオリもこのスペースから消え、俺だけが残された。

そしてポツーンと子犬のように座ったままの俺は一言、


「残されたーー犬はひとりでーー鳴くけれどーー心の声はーー人に届かず」


 窓の外では庭木がざわざわと揺れていた。


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