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食事会自体は和やかに進んだ。



 なんせお父様同士は気心が知れた友人で、お母様同士もそこその親しいお知り合い。

 スマートな気遣いのできるスーパー小学生の春兄様と、穏やかで優しい紳士(ジェントルメン)の流。


 問題が起きようがない。


 私が旧桜子のような残念お嬢様のままだったら何かしでかしたかもしれないけど、前世の西野美優の記憶のお陰でそれもない。



 食事が終わる頃には、私も省吾おじ様と呼ぶくらいには馴染んでいた。

 こんな可愛らしい娘が欲しかったと、とても好評です。

 やだ、自分の魅力が恐ろしいわ。



 そんなこんなで初の食事会は完璧。

 何事も平和が一番。








 食事の後は、これまた庭の見下ろせる二階の応接室に移動して、優雅にティータイム。


 両親と春兄様はコーヒーや紅茶を嗜んでいらっしゃるけど、私と流はさすがにオレンジジュース。

 ちなみに有機栽培で作られたオレンジのストレートだ。

 ん〜美味しい。

 西野美優の時によく飲んでいた濃縮還元とはもはや別物。

 あれはあれで好きだったけど。今でもたまに飲みたくなる。




 窓際の席でお庭を見下ろしながらお母様と奥様はお喋りをしている。


 「星野宮家のお庭は本当に素敵ね。薔薇がこんなに美しく咲き乱れていて。」

 「まぁ、ありがとうございます。私が、薔薇が好きなもので……。そう言えば、常盤家のお庭は、とても見事な枯山水だとお聞きしましたわ。」

 「えぇ。でも、彼山水なんて殺風景でしょう?女としてはやはり、星野宮家のような明るい彩のお庭に憧れるわ。」

 「まぁそんな……。私の様に趣味に走らず、常盤家の伝統を守っていらっしゃるのでしょう?ご尊敬しますわ。」


お母様がおっとりと微笑んだ。

物腰柔らかで、誰にでも丁寧に接するお母様と、キャリアウーマン風のチャキチャキとした流の母は相性が良いみたい。

 フレイバーティーを飲みながら、お庭の事や好きなお花のお話しで盛り上がっている。

お上品なお茶会に相応しい、品のある内容。

西野美優のお母さんがご近所の人と、お煎餅片手に噂話をしていた、三時のお茶とはだいぶ違うのね。

その隣でおやつの醤油煎餅を齧っていたのが懐かしいなぁ。





 一方、お父様と省吾おじ様はテーブルを挟んでチェスをされている。

 春兄様はお父様の隣に座って興味深げにその盤を見て、たまに感心したように頷く。

 そんな春兄様とお父様を挟んで反対側に私も座って覗き見た。



 ……ん〜、正直、よく分かんない。



 チェス自体は最近春兄様に教えてもらって、ようやく駒の動かし方が分かるようになった。

 でも勝負はまだ全然だ。


 春兄様はお父様に物心ついた頃から教えてもらったそうで、たまに二人で遊んでいる。

 幼児の遊びがチェスなんてさすがは星野宮家、というわけでなく、単純にお父様がチェス好きなのが大きい。

 お父様は前に夕食の席で、春雪には才能があるかもしれない、と嬉しそうに言っていたっけ。


 ちなみに私が好きな駒はクイーンだ。最強過ぎる。





 ふと気になって、視線をチェス盤から上げて、省吾様の隣に座る流を見た。

 ……うん。


 飽きてる。あれは完璧に飽きてる。



 流はチェス盤にボンヤリ視線を向けているものの、時たまお母様達の方を振り向いたりもぞもぞ座り直したりしている。

 まだ5歳なことを考えると、飽きた〜と騒いで走り回ったりしないで、大人しくチェスを観戦する(ふりをしている)ところは、さすがは常盤家のご子息。

 もしかしたらチェスをプレイしたことがないのかもしれない。

 だとしたら辛いだろうな〜。

動かし方を知ってる私ですら展開が分からないから若干つまらないのに。

 文句も言わずに大人な対応をしているところはさすが流。

 それに気づいてる私がどうにかしてあげるべきかもしれない。他の遊びに誘うとかね。




 ……ん〜、でも、なぁ。


 正直迷う。

 だって、そうすると流と仲良くなっちゃうもの。旧桜子と同じように。

 それって旧桜子の流れに沿っちゃってる。

 あの原作の展開に行き着いちゃうなんてことたなったら目も当てられないよ。

 だから流とお友達になるというのはやっぱりハイリスクな気がしてちょっと及び腰だ。


 いくらお友達が欲しくとも。




 でもそこには私だけじゃなくて、(ホシノミヤ)で有名なスーパー小学生がいたのを忘れていた。


 「桜子、流くんにお庭をご案内してあげたら。せっかく同い歳なんだから。」


 うおうっ!

 その言葉に油断してた私は肩を揺らす。

 春兄様を見れば、少し悪戯っぽい笑みを浮かべている。

 恐らく私が飽きかけていたことと、流の様子に気づいてたんだろう。

 でも春兄様、有難いですが今日だけはちょっと余計なお気遣いですのよ!

 その笑顔はチャーミングで素敵だけど!



 「え、あ、でも、流さまは女の私がお話し相手ではつまらないのでは…」

 「ぜひ、お願いします。桜子さんとお話したいと思ってたんだ。」



 うおう。

 まさかの本人からの援護射撃。

 ふわっと笑う流なのに目の奥は笑ってない。この暇で辛い状況から逃げ出せるなら何だってしてやる、って必死さが見え隠れ。

 私をダシに使ったな。


 困った私が隣のお父様を見上げれば、期待に反して、いいね行ってくるといいよとのこと。

 省吾おじ様も、息子をよろしくね、なんて。


 窓の方からお母様達の良いわね〜、とはしゃぐ声が聞こえた。

 何を期待されているのか、桜子、さっぱり分かりませんわ。



 ……これなんて四面楚歌。


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