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星野宮桜子5歳に逆戻りしてから早3ヶ月。
特に何か変わるわけでもなく、5歳児にしては違和感のある行動をして怪しまれ
るテンプレすら起こらず、習い事以外はのんびりと毎日を過ごしている。
はっきり言って5歳児の生活なんてたかが知れてるんだよねー。
私は幼稚園には行っていないから一緒に遊ぶお友達もいないし。
必然的に家で家族とのんびりしてるか習い事をするくらいしかない。
子供は遊ぶのが仕事って言うけれど、お父様は仕事だし、春兄様は学校。
そして唯一、昼間お暇なお母様は、しょっちゅうお金持ち有閑マダムとのお茶会だなんだで家にいない。
星野宮家としてそういう社交は大切だから仕方ないけどね。
まぁだから、間違えて難しい言葉使っちゃった〜とか、大人びた行動しちゃったどうしよう!とかボロを出すところがないし、まず相手がいない。
あれ、なんか寂し……。
あーあー、お友達欲しいなぁ。
お互いのお家に行きっこできる小さな頃からの幼馴染。
西野美優の時は保育園に通ってたからその友達で事足りたんだけどね。
旧桜子はどうだったかなぁ。
中学の時には確実に取り巻きがいたって覚えがあるから、それまでには友達?ができると思うけど。
でも中学入学するまでぼっちなんて嫌だ。
んー、あんまり旧桜子の小さい頃の記憶ないんだよね。
西野美優の人格が強いのかな?
その上思い出してから日が経つにつれどんどん忘れて行っちゃってる気がする。
記憶を思い出した反動なら良いんだけど、桜子の記憶力が良かった覚えがないから怖い。
5歳からこんなに忘れっぽいなんて、将来が怖過ぎる!
あの、若年性アルツハイマーとか、ならないよね?
脳を鍛えたるためにパズルとか始めた方がいいかなぁ。
なーんて事を考えていた私に転機が来た。
「お父さんのご友人?」
夕食の席で出た話題に春兄様が聞き返せば、お父様は優しそうな笑顔で頷いた。
「そうだよ。私の学生時代からの友人でね。来月の土曜に我が家で、あちらのご家族と食事会でもしようという話になったんだ。」
「あら、良いですわねぇ。省吾さんと奥様にも、またお会いしたいと思っておりましたの」
お母様が少し弾んだ声を出す。
お父さまのご友人とその奥さまに会ったことがあるらしく、楽しみみたいだ。
「ご子息お二人のうち、下の子は幼くていらっしゃれないらしいけれどね。でも、ご長男とご両親のご家族3人で、とのことだよ。」
お父様はお母様にそう微笑むと、私の方を見た。
「桜子、ご長男は桜子と同い年だからね。楽しみにしていなさい。」
にっこり笑うお父様。
お父様は丸い眼鏡をかけてて学者然とした風貌だ。
目は細くて決して美形ではないし、背も小さめで線も細くて小柄。
でもその神経質そうな見た目に反して穏やかで優しい人だ。
たおやかなお母様と、穏やかなお父様の組み合わせは娘の私からみてもベストカップル!
実際結婚10年は経っているらしい今でも、とっても仲が良いし。
淡い色身の和服が似合うわ美人なお母様と並ぶと、お父様の容姿がちょっと平凡
過ぎて、存在がかすんじゃわないかなぁ、とは思うけど。
星野宮桜子と春雪の見た目が整っているのはお母様の遺伝子なのかな。
て、さすがにちょっと失礼かな。
まぁ何はともあれ、そんなお優しいお父様のご友人家族との食事会。楽しみだ。
同い年の子に会えるっていうのもかなーり楽しみ!
なんたって初友達ゲットのチャンスだもんね。
「はい、お父さま。楽しみにしてるわ。」
私は笑ってそう答えてから鴨のテリーヌを頬張った。