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私は今5歳らしい。
ということが目が覚めてから一週間経って分かったことです。
やったね、一歩前進!
どうして分かったかと言うと、昨日の昼食後、お母様と一緒に(お父様は会社で、
春兄様は学校だ。)リビングでのんびりしてた時に、確かめる術がピッカーン!と思い浮かんだのだ。
「ねぇ、お母様。春兄さまはどこ?一緒にあそびたいの!」
「あら、桜子さん。お兄様は今小学校ですから、お母様と遊びましょうね」
「しょうがっこう?」
「えぇ、桜子さんも、もう少し大きくなったら通うんですよ。」
「大きくっていつ?あした?あさって?正かくに知りたいの!」
「そうねぇ、あと2年くらいかしら。」
「そっかぁ。」
よっしゃ。
もう一回言わせてもらう。
よっしゃ。
小学校入学まであと2年ってことは、私は今5歳だ。
家族写真と同じ見た目なのも頷ける。あれをとったのは今年だもの。
でも一応確認を……
「桜子がまだ5さいだから、小学校には行けないのね。」
「そうですよ。でも、あっという間。すぐに行けますからね。」
「うん、楽しみしてるわ!」
ニコニコと私が笑えばお母様もニコニコ。
熱に倒れていた娘が元気になって、さらに普通に戻ったことがとても嬉しいらしい。
いつもおっとり微笑んでいるお母様が、さらに五割増しでニコニコだ。
実は、私のあの良く言えば大人びた、率直に言えば気色の悪い丁寧言葉は家族に大不評だった。
お父様は誰かに何か言われたのかい?と心配するし、
お母様は反抗期かしら、と右往左往。
唯一理由というか、私の言い訳を聞いていた春兄様だけは落ち着いて、両親に説明してたけど。
二人は納得したものの、家族には元の話し方にするように、と私に口を酸っぱくして行ってきた。
私の決意は中々固く、というかもとの話し方を知らないので、両親の要求を突っぱねてみたものの。
結局は春兄様にまで反対されて渋々家族への丁寧な口調は中止。
私はもうなるようになーれ、と桜子が子供の頃にしてそうな話し方を想像して話してみた。
どうやらそれで当たりだったらしく、家族3人が胸をなでおろしていた。
やるじゃん、私。
兎にも角にも、私は星野宮桜子五歳として、三回目の人生をリスタートしたわけだ。
三度目の正直として、今回はできるだけ長生きがしたい、と強く思う。
だって西野美優の時も17歳くらいまでしか記憶ないし、旧桜子ちゃんに至っては、18歳で刺殺。
しかも今の私は星野宮桜子幼児。
つまり、このままアニメのストーリーに沿って行けば、13年後には再びの刺殺。
長寿国日本において何たる短命さ。
さすがに切な過ぎるでしょう。
と、言うわけで、もはや長生きが人生の目標。
生き甲斐、と言ってもいいくらい。
二回目の旧桜子の人生も、もう少し早く西野美優の記憶を思い出してたら何か違ったのかもしれないのに
……。
まぁ後悔しても始まらないし、今回の新桜子の人生を精一杯生きることにする。
そのためにはまず、自分に身に降りかかる危険を把握しなければいけない。
私に、星野宮桜子に降りかかる危険。
そう、『断罪』と『刺殺エンド』である。
さてそもそも、私が生まれ変わった世界、『キミ☆らぶ』とは、主人公であるヒロイン、木村桃花とそのお相手、京極会長のラブストーリーを主軸としたアニメだ。
話の流れは至ってありきたり。
身体は弱いけれど、明るく前向きな庶民派ヒロインの木村桃花が、アニメの舞台であるお金持ち学園、蓬莱学園高等科に特待生として入学するところから物語は始まる。
庶民と上流階級の間に横たわる、価値観や常識の差に戸惑いつつも、彼女は持ち前の明るさと根性で、学園の人気者たちと友情や、時に恋情を育んでいく。
そして、学園中の憧れ、京極生徒会長と恋に落ちるのだ。
しかし、桃花と同じく、京極会長に恋する悪役令嬢、星野宮桜子からのイジメや身分の差、家族の反対等々、数々の試練が二人には降りかかる。
しかし彼女は主人公。
持ち前の明るさと頑張り、そして少しの運で、最後、二人は結ばれるのだ。
そんな王道シンデレラストーリーが主軸なものの、出てくるキャラ達がみんな魅力的なのと、中々に凝った展開が面白くて、アニメ『キミ☆らぶ』は凄まじい人気を誇った。
その人気に後押しされて乙女ゲーム版が制作されたほどに。
そんな『キミ☆らぶ』乙女ゲーム版では、アニメのメインヒーロー、京極会長の他に、
ヒロインの友人等であった、春夏秋冬の『四季』を司るイケメンキャラ4人、計5人が攻略キャラとして設定されていた。
各攻略キャラのルートでは、アニメでは語られていなかった物語の裏側や、各キャラの詳細を知ることが出来るらしく、かなり好評だったみたい。
ちなみに、この『らしい』、『みたい』、と言うのは単純に、西野美優はゲームを始めたばかりで死んだみたいで、友達に聞いたことだけしか知らないのだ。
あぁ、色んな意味で、悔やまれる。
一番好きだった京極会長ルートですらクリアできなかったなんて!
まぁ、西野美優が死んでしまった以上、どうしようもないんだけどね。
そんな攻略キャラ5人だけれど、当たり前の様に桜子の断罪や刺殺エンドに関わっている。
細かいところはゲーム版をプレイ出来てないから分からないけど、春兄様を除く4人は、あの婚約パーティーの場面で、桜子の前に立ちはだかっていた。
中でも京極会長は、旧桜子の恋狂いの直接の原因。つまりは刺殺エンドに直結の人物。
怖過ぎる。
ちなみに、その他のキャラは、アニメに出てきた設定と断罪に関わっていた事実、は分かっているけど、それ以外は正直、さっぱり。
なんたって、旧桜子の記憶は、京極会長以外薄いのだ。
ふとした拍子に少し思い出し足りもするけれど、今のところ断片的過ぎて使い物にならない。
そして、繰り返しになりますが、ゲーム版はプレイできてないので、各キャラの裏話とかは分かっておりません。
単純に、京極会長や私を刺した狂人、原因の娘を避ければいいのかな、と思いたいけど、乙女ゲーム版の裏話を無視するのは、後が怖過ぎる。
アニメの舞台、蓬莱学園高等科に入学しなければ、話は早いんだろうけど、通うことがステータスなあの学園に、星野宮家長女が通わないわけにはいかないだろうし…………。
ちょっと人生の難易度、高すぎやしませんか。
とは言え、とは言えだ。
ここで諦められる潔さがあるのなら、二度も生まれ変わってはいないでしょう。
そうでしょう。
私は生き残りのための計画を立てることにした。
目標は長生き。
手段は問わず。
あんまり多いと忘れちゃうからざっくり三本柱でね!
①ヒロインを応援する
②主要キャラには関わらない
③桜子ハイスペック作戦
この世界がアニメの通りなら、ヒロイン、木村桃花は主人公。
つまり主人公の進む道こそ、これ正道なり。
取りあえずそれを応援しておけば何とかなるよね? って感じで決めた①の作戦。
ノリで決めた割に、中々核心をついてる気がする。
ふっふっふ、さすがは私。
だがしかし、次の②で早くも問題が発生する。
私が関わりたくない主要キャラ、特に京極会長をはじめとするイケメン達は、なんとそろいもそろって名家の出なのだ。
跡取りで無いとはいえ、星野宮家の長女である私が、一切関わらずに済むはずがない。
むしろ良好な関係を築くべき相手。
うむ。
物凄くかかわり合いたくないけど、でも仕方がないので、少し変更することにした。
②目指せ良き知人!イケメン達とは無難な関係を保つ。
パーティーでご挨拶するだけの顔見知り、無難を目指すことにします。
さてさて最後、③桜子ハイスペック作戦。
やっぱり、ゲームであれ、人生であれ、何事もクリアするためには、欠点をなくし、使える長所を増やすのが王道だと思うのだ。
しかも私は星野宮家長女。優秀であればそれだけ、周りの家々も味方に付いてくれることだろう。
その点、星野宮桜子はとっても手の入れ甲斐のあるキャラであるというのが、私の見立てだ。
なんせ、アニメでもゲームでも、名家の長女でお金持ちで地位と財産を兼ね備えていながら、本人は至って残念な設定だった。
お金にものを言わせやりたい放題。貧乏な人間を見下し、自分が世界一素敵な女であると自負している。
しかし、彼女が自身のスペックで何かに秀でているという描写はなかった。
いやむしろ、彼女は運動も、勉強も、その他の才能も特に秀でていないロースペック。
優秀で天才設定な兄に比べて何もなく、選民意識とプライドだけが高い残念令嬢なのだ。
さらに見た目はライバルキャラらしく綺麗なものの、性格が悪そうな、つり上がった猫目。ストレートの黒髪さっと払って、真っ赤な唇を意地悪そうに歪めているのがデフォルト。
華奢で庇護欲を掻き立てられるヒロインと比べて、どちらかというと、色っぽい見た目だ。
京極会長の気をひくために、パーティーで露出の高いドレスを着ていたこともある。
いや、アニメで見た時も自分で鏡を見た時も似合ってはいたよ?
でも流石にあれは良家の令嬢としての慎みがなかったと今は思う。
旧桜子の時に来たことを思うと、完全な黒歴史だ。
深く考えてみれば、内面の自信のなさをお金と令嬢のプライドで補っていたような。
というわけで、新桜子の方向性としては
①ヒロインを応援する
②目指せ良き知人!イケメン達と無難な関係を保つ。
③桜子、ハイスペック作戦
で最終決定。
題して、『掴み取れ老衰!計画』である。
何をすればあの未来を回避できるのか分からない今、やれることはすべてやってやるぞ。
さて、取り敢えず護身術は習おう。
特にナイフ相手でも戦えるくらいのがいい。
あと、勉強もちゃんとして、たとえ家が潰されても、何とか職にありつけるようにしよう。
掴み取れ、老衰!