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朝起きても桜子幼児バージョンだった。
どうやら今の状況が現実であると認めなければいけないみたい。
辛い。
ため息をつきつつ、ベッドを抜け出して顔を洗い、着替えようとクローゼットを開けるとそこには沢山の洋服が。
うっわー!うっわー!懐かしい!
思わず歓声を上げる。
何せ、高校三年だった旧桜子の記憶が新しいものだから、小さい頃に着てた服なんてもう思い出の彼方だったんだよね。
あ、この白いスカート家族で軽井沢に行った時に着てたのだ!
こっちの紺色のワンピースお気に入りだったんだよ。身体が大きくなって着れなくなった時悲しすぎて泣いたもん。
そうそう、そしたらお母様が良く似たワンピースをオーダーメイドで購入してくれたんだっけ。
あ、この帽子は風で飛ばされて庭の木に引っかかっちゃって泣いてたら、春兄様がとってくれたんだっけ。あの時は10歳くらいでまだ仲悪くなかったもの。
京極会長ずくしですっかり忘れてたけど、やっぱり思い出の物を見ると色々と思い出してくる。
こういうことが起こるからやっぱり私が旧桜子だったのは現実みたい。
コンコン、と扉がノックされた。
「はい。」
返事をすればひょっこりと顔を出したのは春兄様。
ちょうど思い出してたとこだったから思わず帽子を手にとって春兄様に見せる。
「春兄様、これご覧になって。昔、」
……ってあれ?
あのハプニングってもう起こってるのかな?それとも今より未来?
なんせ自分の今の正確な年齢が分からないのだから、知りようがない。
春兄様に聞いてみてもしまだ起こってなかったら今度こそ確実に病院だ。
やばい。
私を見ている春兄様に、曖昧にヘラっと笑う。
その間に帽子はクローゼットへ逆戻り。
「な、なんでもないです。勘違いでしたわ。」
春兄様は困惑した表情だ。
あれ、なんかバレた?
「桜子、」
「は、春兄様ど、うかなさったのですか?」
動揺で声が揺れる。
私誤魔化すの下手過ぎ!
ツカツカと、春兄様が私に近づいた。思わずのけぞる。なになに。
「桜子、」
ガシッと肩を掴まれた。
「昨日から何でそんなに他人行儀に話すの?本当に病院行かなくて平気?」
…………。
あ、そっちか。
思わずホッとしてしまう。
あ、でも病院は勘弁願いたい。普通にしないと。普通に。
でもあれ、この年頃の時私どんな話し方してたっけ?
……覚えてない。覚えてるわけない!
アニメにも出てこないし、話し方の記憶なんて京極会長と話す時の、「〜ですわ」、とか、
あのアニメの決め台詞「私を誰だと思ってますの?星野宮家長女、星野宮桜子ですのよ!」とかしかない。
でも今これを言うわけにはいかないし〜
仕方ない。私は腹を括った。
「だ、大丈夫よ、春兄さま。」
「でも…」
「春兄さま、私だっていつまでも子どもじゃないわ。話しかただってれでぃーらしくしますの。」
肩を掴んでいる春兄様の手を若干無理矢理外す。
ピシッと背筋を伸ばして立った。
「春兄さま、これから桜子は立派なれでぃーになるため頑張るって決めたのです。ですからちょっと変でも大目に見てくださいな。」
妹の奇天烈な言動に、春兄様は目を大きく見開き固まっている。
とても綺麗なお顔をしている春兄様は、そういう表情でも綺麗なまま。
なんて羨ましい。
「…そっか。分かった、応援してるね。」
「ありがとうございます。もうそろそろ朝食ですよね?私着替えますわ。」
「うん、先行ってるからゆっくり来なね。」
春兄様は少し遠い目をしながらも優しく笑うと、私の頭を撫でて出て行った。
ふぅ。何とか誤魔化せた?
ちょっと春兄様眉が寄ってたから怪しまれてたかな?
とはいえこれ以上何もできることはないし、それよりも朝ごはんたーべよっ。