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とりあえず冷静になることにした。
うん、慌ててたら分かるものも見落としちゃうかもだし、なにより、今の私の状
況は慌てて良くなるわけでもなさそうだ。
寝かしつけられたベットの上で身を起こす。
ベッド脇の小さな棚の上にある、可愛い白ウサギのぬいぐるみと目が合った。
あ、これ春兄様が前にプレゼントしてくれたやつだ。大人しく寝てなくてごめんなさい春兄様。
私はベッドからそろっと抜け出し、部屋の隅にある勉強机に座った。
適当なノートを取り出し鉛筆を持つ。私はそんなに頭が良くないから、紙に書き出さないと上手く整理できないタイプだ。少なくとも西野美優は。
まず、記憶ついて。
平凡な西野美優の記憶がある。
物心つくころから高校二年生くらいまで。お父さんとお母さん、お兄ちゃんと妹も憶えてる。
さらにその時ハマっていたアニメ、『きみ☆ラブ』についてもバッチリ。
乙女ゲーム化されたのを購入して途中までプレイした。もちろん一番最初に狙った攻略キャラは京極会長だった。
そして、これはすごーく認めたくないけど、星野宮桜子の記憶もある。これはちょっと不完全。小さい頃〜殺された高校三年までの記憶があるんだけど、所々曖昧。
正直大半が京極会長とのことばかり。
桜子、京極会長のこと大好き過ぎでしょう。
つまり私は、
西野美優の17年間の記憶+星野宮桜子の18年間の記憶(ほぼ京極会長)があるわけだ。
そして順番的には、西野美優→星野宮桜子。
これはつまり、
西野美優が生まれ変わって星野宮桜子になったってこと?
ま、まぁ、百歩譲って、生まれ変わるってこと自体はまだいいとする。
譲れないけど、いいとする。
だけれど、だ。
星野宮桜子っていうのは、西野美優にとってアニメのキャラ。
いやいやいや
あり得ないでしょう。二次元だよ?
これはあれかな。西野美優が見てる夢かな。
大好きなアニメの登場人物に夢の中でなりきっちゃってる的な?
なぜよりにもよって悪役令嬢なの、とは思うけど。
だがしかしここで問題が発生する。
私の意識的に、私イコール誰か、という話になると、かなりややこしいことになっているのだ。
まぁ、私=西野美優、というのは違和感がないのは当たり前なんだけど、なんと、私は星野宮桜子だ、という認識もあるのだ。
……私って二次元を現実だと思い込んじゃう痛い子だったの?
だけどあんまりにも意識も記憶も鮮明すぎる。
西野美優も星野宮桜子も。
そして今、私の姿は星野宮桜子で、しかも幼児。
単純に、時系列で考えるなら、西野美優が死んで星野宮桜子に生まれ変わったけ
ど殺されて、何故か幼児に逆戻り?
ちょっと人生が波乱万丈過ぎやしませんか。
ここまでノートに書いてボンヤリと眺めた。
上手く記憶を整理したとしても、西野美優に戻れる気がしない。
だとしたら、割り切って二度目の星野宮桜子の人生を生きるべきなのか。
一回目の桜子の人生をつらつら思い浮かべてみる。
…………。
うん、ろくな生き方してないよね。
我ながら愚かすぎて可哀想になるくらいだ。
恋に生きるってのもよいけどさ、一回目の……旧桜子の場合はそれに異常に執着し過ぎてる。
過ぎたるは及ばざるが如し。
何事もほどほどじゃないと!
とはいえ、恋に狂った先が殺害なんてちょっと酷くない?
アニメでは最後の断罪のシーンを最後に、その後の桜子については書かれてなかった。
でも、没落したとはいえ、その後一切登場しないことを考えると、アニメでも元々
殺される設定だったのかもしれない。
いくら悪役とはいえ、自分を好きだった女性が殺されたのに、京極会長はよく平然とヒロインとハッピーエンドを迎えられたよね。
ヒロインもいくら自分を苛めてたとはいえ、以下同文。
私は書いたノートのページを破って、勉強机の引き出しの中の、漢和辞典の中に挟んだ。
ここなら見つかるまい。
と、同時にため息が出る。
なんやかんやで取り敢えず生きていることは素晴らしいけれど、三回目?の人生、
刺されて死ぬ最期だけは勘弁だ。
だって、ものすっごーく、痛かったもの。
どうにかして生き残る道を探らないと。