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目を開ければ見慣れた天井だった。

あれ?ここは……。

寝ていたベッドの上で身体を起こせばそこはやっぱり見慣れた部屋。



白を基調とした室内。家具やカーテンはヨーロピアンテイストで統一されている。端にあるキャビネットの上には家族写真が飾られている。

父と母と兄、そして、ドレスを着た星野宮桜子。5歳の時に撮った家族写真だ。

ベッドの上でそっと服の裾をめくってお腹を見る。

ペタペタと鳩尾部分を触ってみるが、穴は開いてないし、怪我の様子もなくツルツルした白い肌だ。



あれあれあれ?


そろりとベッドから降りてみる。

ってうぉっ

なんか思った感じと違ってつんのめってしまった。

あれ、ベッド変わった?なんか高くなった気が…視界もなんか変な感じ……。




そのまま部屋を横切ろうとして、右端にある大きな全身鏡が目に入った。

正確には、そこに映る自分の姿を。



え。



「ええええぇぇぇぇぇええええええ!!!」




思わず叫ぶ。絶叫。

え、え?んんんん?おおおお?




バタンッと急に音がして誰かが部屋に飛びこんできた。




「桜子っ?!」


ビックリしながらも目を向ければそこにいたのは春兄様。

違和感。果てしなく違和感。




「桜子、大丈夫?何があったの?」


春兄様はそのまま近づいて来て、私の前にかがむ。

背が小さな私に目線を合わせるように。



「あ、え…う」


色々驚きすぎて上手く声が出ない私に、春兄様が眉間にシワを寄せてペタペタと私の頬や肩を触る。




「熱は下がってるみたいだけどね……」


いやいやいや熱とかそんなんじゃなくて、




「何で春兄さまが、私を心配なさるのですか?」


春兄様は、は? と首を傾げた。

でも、そう、そうなのだ。



だって春兄様は私を嫌ってる。

よく私に厳しい言葉を浴びせてきたし、刺される前らへんはお互い、最低限しか言葉を交わさなかった。

恋に狂って暴走する妹を見る春兄様の目はかなり冷たかったし。


私は大好きだったお兄様の態度に傷ついて、余計に京極会長を追いかけた。彼に振り向いて

もらえれば、春兄様も優しく祝福してくれるんじゃ、なーんて思って。

何という悪循環。




あぁ、でもそう言えば、私が小学生くらいまではこんな感じだったっけ。

何だかんだ、妹として気にかけてくれたり、遊んでくれたりしてた。

中学生になっても、少し距離は出来たものの、暴走までは行っていなかった仄かな片思いを、温かく見守っていてくれたりはしていたような……。

て、まぁ高校で恋狂いしてからの冷たい態度が印象的過ぎて、あまり憶えてないけどね。




そこまで考えて目の前の春兄様を見れば、眉間にしわをよせて難しい顔をしてい

た。




「春兄さま?どうかなさいました?」

「どうって……」


ん?なになに?



「桜子、病院へ行くよ」

「え、何故ですか?」

「急にそんな他人行儀な話し方になるなんて……熱のせいで錯乱してるとしか思えない。病院で検査しよう。お父さん!お母さん!」



春兄様は両親を呼びながら部屋から急ぎ足で出て行ってしまう。

私はそれに掛ける声を見つけられず呆然と見送る。

熱?錯乱?

いや、なんか色々混乱はしてるけど。

錯乱ってそんな狂人みたいな。




『娘の仇だ。』




不意に蘇ってくる言葉。

あの狂人となった男性。私のせいで狂った気の毒な人。

彼の目は真っ赤だった。泣き腫らしたように。


「……」


私は全身鏡の前に立った。


ペタペタペタペタペタペタ

自分の顔や体を触る。

ギュムッ

つねってみる。う、痛い。




「夢……じゃない」


そう言えば、鏡の中の私の口も同じように動いた。



「生きて、る」


そう、私は生きていた。

身体は特に痛いところはないし、さっき確認したように鳩尾に刺された跡もない。

錯乱なんてもちろんなく、頭はスッキリしていて、

むしろ清々しいくらい。

胸に手を当てれば、ドクドクドクと規則正しい心臓の音。



ほんとに生きてる。死んでない。

なんの問題もなく健康体!

あ、いや、たった一つを除いては。



「小さい。」



そう、小さいのだ。圧倒的に。

何がって、全てが。

身長も手足も、体の全てが、記憶にあるものよりかなり小さくなっている。


キツくみえがちな顔もなんだかちょっと角がない感じであどけない、気がする。

パッと見、あのキャビネットの上の家族写真と同じくらいに見える。推定5歳。

え?あれどういうこと?

訳がわからない。本当に分からない。



待て待て待て。

私の名前は星野宮桜子。



え、いや、待て待て待て。

星野宮桜子は『きみ☆ラブ』の中の悪役令嬢の名前だ。

現実の人間じゃない!



私は西野美優だ。そう、そのはず。

平々凡々なサラリーマン家庭の長女。

兄と妹がいて五人家族。

普通に公立の小学校、中学校に通って、これまた近所の公立高校へ。

それで、それで……。

て、あれ、途中から記憶がない。高2くらいまではあるんだけど。



んん?いやほんとに、この状況はなんなの。




あの後、病院に連れてこうとする両親と春兄様を必死でなだめた。

ちょっと寝ぼけてただけなの〜なんて風に何度も繰り返し、渋々ながらも引き下

がった家族にホッと胸を撫で下ろす。



 いや、だって病院なんかで前世の記憶が……、とかここはアニメの世界なの!だなんて言った瞬間、精神病院行きだ。隔離されちゃう。

 そのため私は出来る限りニコニコと元気一杯に振る舞った。

 両親は忙しいのもあってか、今日はちゃんと大人しくしているのよ?と私に言って頭を撫でると部屋を出て行った。



 問題は春兄様。

私の記憶、というか一回死んだ?星野宮桜子の記憶によると春兄様は桜子にかなり冷たい。

 まぁ、あんな我儘で高飛車で恋に狂って暴走する妹がいたらあんな態度を取りたくなるのは分かるけど。




 なのに何故かとっても心配する春兄様。

 本当に大丈夫?熱はない?いたいところは?我慢してない?


 質問のオンパレード。


 いやいや大丈夫だよ、春兄様。記憶以外は。

 春兄様は心配そうに私の目を覗き込んだり、額に手を当てたり、頭を撫でたり、ぎゅっと抱き着いてきたり、ん?

 私があまりにも大丈夫だと自信たっぷりに言ったのもあって最後には引き下がってくれたけど。



 でも私の手を引いてベッドまで連れて行って、ほらちゃんと寝てなくちゃと寝かしつける。大人しく横になった私に満足そうに頷いて、何かあったら呼ぶんだよ?と言い含め、掛け布団ぽんぽんと叩くと部屋を出て行った。



 …………。



 「……っ!」




 イケメン!見た感じ8歳くらいなのにイケメン!顔だけじゃなく行動までイケメン!兄とはいえトキメクんですけど!いや、桜子の兄か。

 優しくて大事にしてくれて行動もスマートで……完璧!

 あれは将来が楽しみだな〜。

……なんてことは今はどうでも良い。今この状況について考えないと。

何で若返ってるのか。

殺された記憶は何なのか。

いや、それよりもなによりも、西野美優わたしはどこへ行ったの?


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