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嫌な日ほど、早く来る。

あっという間に迎えた常盤家主催のパーティー、当日。




朝からヘアサロンで髪をセットして、買ってもらったドレスを着る。

何だかんだ言っても、やっぱりドレスアップは乙女の憧れ。

ヘアサロンのフィッティングルームの大きな姿見の前に立つ。


うんうん、可愛く出来てる出来てる!




クルンッと鏡の前で一回転。

両手を上げてはい、ポー【ガチャ】

扉を開けた姿勢で固まる春兄様と、鏡越しに目が合った。

道端でツチノコと遭遇したかのような、唖然とした表情が目に焼きつく

黙って手を下ろした。




「……ごめんノックしても返事がなかったから、倒れてないかと思って」

「それはご心配をおかけして……」


鏡に背を向けてゆっくり振り返る。

目が合えば、春兄様はさっきの表情を素早く消し去り、そのお美しいお顔に微笑みを浮かべた。



「そろそろ時間だから、行こうか」



見なかったことにしましたね、春兄様。



「はい、行きましょう」


もちろん速攻でそれに乗る。

私達は気の合う兄妹なのだ。


そのまま送迎の車に乗り、エスコート役の春兄様と共に会場の前に降り立つ。



さぁ、ここからは戦場だ。









どっどっどっどっ


と、心臓が激しい音を立てる。

口の中はカラカラに乾いて、背筋を冷たい汗が流れた。

思わず隣の春兄様の腕をギュッと掴む。




「桜子?」


不思議そうに私を見た春兄様に強張った微笑みを返しながら、先を歩く両親の背を追う。

カチコチに固まりそうになる身体を叱咤して、明子大叔母様のお教え通り、しずしずと優雅に歩く。

大丈夫、完璧なはずだ。


だって私は星野宮家長女、星野宮桜子なんだもの。





「こんばんは、京極さん。」


お父様の呼びかけに、振り返る京極家の当主。

そしてその隣にいる息子、紫苑もワンテンポ遅れて振り返る。

ふわり、と動きに合わせて金色の髪が靡くのが、目に焼き付いた。




どっどっど、どどどっどどどどどどどど


私の心臓は最高潮に走り出し、もう誰にも止められない。

私の恐怖はただ一つ。

恋に落ちないか、ただそれだけだ。






 振り返った京極会長、もとい京極紫苑は、金色の髪と白い肌に、輝かんばかりの美麗な顔立ち。

その瞳はまるで、エメラルドをはめ込んだかのような透き通った翠色みどりいろだ。

記憶の通り、童話に出てくる白馬の王子様の容姿、そのままだった。



 でも、記憶の中よりもだいぶあどけない。

 て、当たり前か。

 一番新しい記憶はあの婚約披露パーティーで、お互い高校三年生だったし。

西野美優の記憶にはそもそも、アニメが始まる高校生の姿しかない。

 そして今の私達は小学三年生。

 幼いに決まってるよね。





 「こんばんは、紫苑くん」

 「ご無沙汰してます、春雪さん」


 面識があるらしい春兄様と京極紫苑が、にこやかに挨拶を交わす。


 「こちらは妹の桜子です。桜子、京極家の紫苑くんにご挨拶を」


 京極紫苑の視線が春兄様から私にシフトする。

 私は表面上、にこやかに微笑みながらも、祈りにも似た気持ちで、その姿を視界に入れる。



 私と京極紫苑の視線が、交錯した。





 「お初にお目にかかります。星野宮桜子でございます」

 「こんばんは、京極紫苑です。素敵なドレスですね」


 京極紫苑が微笑んだ。

 思わずクラリとくる、そんな高貴な美しさがある。

 旧桜子はこの微笑に、一発で仕留められたんだっけ。

さすがはメインヒーロー。




 「嬉しいですわ、ありがとうございます。」


 まぁ私は無難に、でも素っ気なくならないように、細心の注意を払って返すのに忙しくて、見とれてる暇がないけどね!

 


 メインヒーロー京極紫苑は、その見た目そのままに、誰にでも優しく丁寧な対応をする、正統派王子キャラだった。

 今、目の前の彼も、幼いながらも記憶のまま。

 その態度がどれだけの令嬢を魅了したか計り知れない。

 罪作りめ。

 旧桜子の恋狂いをどうしてくれる。



 でも、丁寧で物腰柔らかな9歳を改めて目にすると、なんかちょっと不気味だったり。

 何か裏がありそうで怖いような、なーんて偏見?


 あ、でもスーパー小学生な春兄様を考えると、メインヒーローだし、これくらいで普通なのかな。

 …………判断がつかない。






 「では紫苑くん、僕たちはこれで失礼するね。」

 「はい、これからもよろしくお願いします、春雪さん。話せて楽しかったよ、桜子さん」

 「私も楽しかったですわ、京極様」


 軽い会話の後、簡単な挨拶をして、京極紫苑も私たちも、お互い次の挨拶相手の元へ。

 恐怖していたわりに、アッサリ終わった初対面。

なんだか拍子抜け。

 そして安堵からか、ドッと身体が重くなる。





 「桜子、大丈夫?」


気疲れが顔に出ていたのか、隣を歩く春兄様が気遣うように顔を覗き込んだ。

 はぁ、何だか無性に甘えを言いたくなっちゃう。

そんな私は悪役令嬢。



「喉が渇いたの。オレンジジュースを飲みに連れて行ってくれる?」

 

役割を全うしてやれ、と開き直って素直に我侭を口にすれば、春兄様はアッサリと頷いた。


え、挨拶途中なのに、いいの?

私はともかく春兄様は跡取りなのに。



我が侭を言ってはみたものの戸惑う私とは裏腹に、さ前を歩くお父様とお母様に声をかけて、言葉巧みにスンナリ許可をもぎ取る。

さすがは春兄様。

そして私に腕を差し出して、会場の飲み物が置いてある方へ先導してくれた。


 私はその腕に捕まるように、ゆっくりと歩きながら、さっきの京極紫苑との会話思い返してみる。



 ……うん、無難だったよね。

 特に記憶に残るようなことも言ってないし、どこにでもいる普通のご令嬢だったはず。

 そして、何より重要なこと。

 私は京極紫苑を好きになってない。

 


好きに、なってない!


 

 確かに、目がチカチカするレベルで素敵な見た目だったけど、特にキュンッと胸が高鳴るだとか、忘れられない!とかなかった。

さすがの私も、刺殺の原因に一目ぼれをするほど、能天気じゃなかったみたい。

 まぁ、私は高校生の記憶があるのに、相手はまだ9歳の子供だしね。

 




 ふぃぃぃー。はあぁぁぁぁぁぁぁ。


 なんだなんだ、心配して損したよ。

 案ずるより産むが易しってホントだね。




 よし京極紫苑を狙う役は他のご令嬢にお譲りして、私は残りのパーティーを楽しむとしますか。

 せっかくドレスアップして来たんだもんね。

 京極紫苑のせいで全然周りが見えてなかったから、綺麗に飾り付けられた会場もあまり見てないし。

 あ、あんな所に流を発見!

 ワルツにでも誘おうかな?

 オレンジジュースを飲んだら、話しかけにいこーっと。




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