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それなりに色々とあったけれど、入学から二年は割と平和に過ぎ、私と流は三年生になった。
一年生以来、流とは同じクラスになれてない。
「桜子様!一緒のクラスですわね!」
「え、えぇ、よろしくね円香さん。一緒になれて嬉しいわ」
三年生の教室に入れば、駆け寄ってきた宮下円香さんに、ガシッと手を掴まれ、迫られつつ、二人で再会を喜び合う。
円香さんとのパーソナルスペース問題は、未だ解決に至ってないものの、何となく一番気が合うんだよね。
そんな彼女一年生から三年生まで全部同じクラス!
やった!
……円香さんがアニメ『キミ☆らぶ』の中で、星野宮桜子の最も目立つ取り巻きだった現実からは、目を背けております。
いや、最初は距離を取ろうとしたんだよ?
でも、円香さんは星野宮家とかなり取引のある家のご令嬢。
遥か昔はお公家、明治以降はご華族様だった星野宮家の、無数にある分家の中で、特に力の強い三家は『三宮家』と称されていた。
順に篠宮・雨宮・宮下家である。
その中の宮下家のご令嬢が、こちらの宮下円香さんなのだ。
血が薄くなり、分家とはほとんど縁が潰えた今も、この三家はビジネスにおいて、依然星野宮家に追従する形をとっている。
円香さんは言わないけど、たぶん私と仲良くするように両親に言い聞かされてるだろうし……。
それを思うと、無下にできない。
旧桜子の件を省いて、そんなお膳立についての苦しい胸の内を流に吐露すれば、
『んー、仲良くしてみて、合わなければその時に考えればいいんじゃないかな』
と、彼はアッサリのたまった。
それをそのまま実行してしまう私も私。
だってだって、常識人で紳士な流が言うんだもん。
その結果、なんだかんだ、権力による後押し友人が一番の仲良し。
あれ、なんだか視界が揺らいできたよ。
「¿Como te llama?」
「Me llamo Sakurako Hoshinomiya.」
ブエノスタルデス!
学校が終わり家に帰れば、今日はスペイン語のお時間です。
英語と語順は一緒だけど、発音のし易さはスペイン語が勝る。
ローマ字そのままの読みは、日本人には非常に優しい。
5歳の時から数えて、もう5年も頑張ってる英語が未だに日常会話レベルの私。
正直、伸び悩みを感じていた。
そんな悩みを流に漏らせば、複数の言語を学ぶと、それぞれの理解も進むとの助言。
全面的に紳士を信用している私は今、英語の他に、スペイン語と中国語も習っている。
言語人口TOP3から安易に選択したけど、中々に良い感じだ。
「……はい、今日はここまで。お疲れ様、桜子さん」
「はい、ありがとうございます、先生」
スペイン語の先生は40代の女性の方で、スペイン人と中国人のハーフのイサベル先生。
ずっと日本にいたため日本語もペラペラ。
つまりトリリンガル。すごい!
スペイン語の前の一時間、私はこの先生から中国語も習っている。
語学習得の野望として、英語と中国語をビジネスレベルにまで。
スペイン語も日常会話くらいで、できればその他フランス語やマイナーな言語も、挨拶できるくらいにはしたいかな〜、なんて。
語学計画だけで、私のキャパシティを既に超えかけているのが目下の悩み。
欲張りすぎ?
でもでもでもでも、心配なのだ。
やれることは全てやり尽くさないと不安が消えないんだよ。
あの時に突き立てられた刃物の感触を、私は忘れていない。




