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旧桜子の初恋の歴史は長い。

幼い頃のパーティーで、京極会長と初めて会った瞬間から、その恋は始まった。

そして高校が一緒になり、姿を見られる時間が長くなったことで、旧桜子のその想いは爆発する。

いや、暴発する。


だからつまりは、小学校と中学校では京極会長の影に怯える必要はないのだ。

少なくとも、学校の中では。







「大丈夫、桜子。緊張してるの?」

「うぇぁっ、だ、大丈夫よ!」


教室の前で立ち尽くす私の隣から、流が顔を覗き込んでくる。

そんな彼に首を縦に振ることでアピール。


流はそう?とちょっと心配そう。




「な、流こそ、緊張しているのではなくて?」

「ぼくはあまり。幼稚園と、特に変わらないだろうから」

「そ、う。流は幼稚園に通ってたんだものね」



流は頷いてから、スッと左手を私に差し出した。



「行こうか桜子」

「えぇ」


その手をとって、二人で一緒に教室に足を踏み入れる。

今日、私は三度目の小学生になりました。






白金学園(しろがねがくえん )初等科。

私と流が通う学校は、もちろん、小中一貫の由緒正しいお金持ち私立校。

京極会長は、別の似たようなお金持ち私立校に入学したことだろう。

まだ三度目の人生で、顔を合わせたことはないけれど。




幼稚園に通ってなかった私は、流以外の同世代と初めて交流を持つことになる。

正直、緊張で胃袋が口から出そうだった。



だがしかし、そこは私も周りも6歳児。

数日もすれば、すっかり慣れる。

一ヶ月も経った今では、お友達も何人か出来た。

薄い記憶によれば、何かと旧桜子の後ろにいつも控えていた子達だけども。



 …………仕方ないじゃない!家同士の関係もあるんだもの!旧桜子の流れに沿っちゃうしかないじゃない!







 休み時間は、そんな仲良しの4、5人くらいで、お喋りだ。



「桜子様は休日、何をなさっているのですか?」

「休日?日にもよるけれど、(たまには)本を読んだり、(発表会前は)好きなバイオリンを弾いたりしてるわ」



お友達の質問に、副音声アリアリで微笑めば、ふいに、円香まどかさんが口を開いた。



「そういえば桜子様はバイオリンがとてもお上手とお聞きしましたの!」

「あら、誰から?」

「従兄弟です。桜子様が通っていらっしゃる教室に、通っているんです。発表会で桜子様の演奏された別れの曲が素晴らしかったって。あぁ、私も是非、お聞きしたかったですわ!」

「そ、そう。ありがとう。」



勢い込んだ言葉とズイっと乗り出された身体に、思わず数センチ下がってパーソナルスペースを確保。

そんな私に気づかずに、きゃいきゃいと話し続ける、色んな意味で勢いのある彼女は、宮下家の円香みやしたまどかさんだ。

今のところ、グループで一番よく話すお友達。



それにしても『別れの曲』……ん~、あ、ついこの前の発表会のことか。

死ぬほど練習したもんなぁ。

お金持ちのご子息令嬢が多く通う、音楽教室の発表会。今のうちに星野宮家の評判を上げておかねばと必死だったよ。




「嬉しいわ。でも、まだまだなの」


優雅に見える様に、と意識した笑みを浮かべて、謙遜。

まぁそんなこと、と言い募る周りの子達も、微笑みで躱す。



 あの星野宮家の娘が謙虚。

 なんて印象の良いギャップ。



 て、まぁ、旧桜子なら確実にあの決め台詞を言っていただろうけど。

 『当たり前でしょう、私は星野宮家長女、星野宮桜子ですのよ!』なーんてね。







 そんないつもの会話の流れで、円香さんがニコニコと口を開いた。


「……そう言えば、私、この前のパーティーで京極(きょうごく)紫苑(しおん)様にお会いしましたの!」


 ぐぶほっっっ!!!

 

 突然円香さんの口から飛び出した名前に不意を突かれて、驚きで目の玉が転げ落ちそうになる。

 慌てて右手で両まぶたを抑えた。


 ふぅ、セーフ。



「まぁ、あの京極様に!」

「お羨ましいわ!」

「何処のパーティーですの?」


 一緒に席を囲んでいた友人たちはそんな私の挙動には気づかず、キャピキャピと一気に色めいた。

 あれよあれよと言う間に、話の中心は京極会長へ。



「もう本当に素敵で、あの方の周りだけ輝いて見えたわ。」

「京極さまは本当にお美しいものね。あの金髪の御髪。」

「フランス人のお母様から受け継がれたとか。」

「ご挨拶した私を見て、綺麗なドレスですね、って優しく微笑んでくださったの!」

「きゃーーー!さすがは円香さん!」

「いえいえ、そうは言っても、うちの宮下家なんて、ご挨拶だけで精一杯。桜子様だったら気兼ねなくお話もできるのでしょうけど……」



 円香さんのその言葉で、みんなの視線が一気に私に集中した。



 て、いやいやいや!私に話を振らないで!

 慌てるのを表情に出さないよう、あら何の事かしらスマイルを頑張る私に、「桜子様はお美しいし、京極家と親交のある星野宮家のご令嬢ですものねぇ」とご令嬢達は頷き合って、期待のこもった目を向けてくる。



 やめて!




「わ、私、まだ京極さまとお会いしたことはないわ!パーティーにはあまり出席していないものだから……」

「え、そうなのですか?」


 星野宮の桜子様が?と、みんながパチクリと目を瞬かせる。



 が、しかしそうなのだ。

 私はパーティーに出席しないようにしている。

 両親に、知らない人がいる所に行きたくないわ!なんて、桜子の得意技である我儘を言ってね。




 「えぇ、だから京極様とは全くご縁がないの」


 だから私が京極様に興味があるなんて思わないで!京極会長の魅力を語らないで! 

 見目麗しいのは知ってるから!

 だって目の前で、断罪されたからね。バッサリザックリされたからね。

 もはや影すら踏みたくない。

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