食料を探しに
こうして武器っぽい杖っぽい物を手に入れて、ついに私は扉を出る決意を固めた。
振り返り、愛するユニットバスを名残り惜しげに見つめて心の中で「絶対に戻って来るから…!」と誓う。
そして、私はドアノブに手をかけた。
ドアノブに手をかけたまま、一歩踏み出す。足下からは枯れ葉が踏みしめられる音が密やかに聞こえてきた。とりあえず、いきなり獣が襲ってきたり…なんて事はないみたいだ。
少しだけホッとしてキョロキョロと周囲を見回した私は…
「げぇっ!?」
驚愕でカエルが潰れたような声をあげてしまった。
壁がない。
森の中にドアだけが浮いているように見える。
なんだこの見た目。
なんか見た事ある…あれだ。どこでも○アだ、これ。まぁ見た目に反して私の希望の所には連れて行ってくれる気ないみたいだけどね。
ユニットバスごと異世界に来たと思ってたけど、この感じじゃこの扉が何かの拍子に異世界に繋がっちゃった、って事かも知れない。
だとしたら、扉を閉めた途端に本当に扉が消えてしまうかも知れない。そんな恐怖にかられ、扉が閉まらないように歯止め代わりのシャンプーボトルを置くことにした。
ホントなる早で帰ってこよう。扉様の気まぐれで消えられたりしたら目もあてられないし。
扉を振り返り振り返り、消えない事を確認しながら私はやっと森の中を進み始める。
ちなみに私の右手には今、大容量入浴剤『ピュアローズの香り』が握られている。サバイバルには何の役にも立たないとディスったりしたけど、土下座で謝りたい気分だ。
愛しのユニットバスを出てから、確実に帰れるように入浴剤を振り撒きながら歩いて来た。振り返れば目にも鮮やかな蛍光ピンクの線。
さながら赤い糸のように伸びているこの線の先にユニットバスがあると思うと、安心感が半端ない。正に命綱。しかも香りがいいし。
そんな安心感の中で漸く私は森の中をじっくり観察し、食料を探し始めた。
どれくらいの時間がたったかは分からない。私の採取用バケツの中には、僅かばかりの木の実と怪しい草っぽい物、キノコっぽい物が入っている。
正直どれが食べられる物かなんてさっぱりわからない。仕方なく齧られた跡がある植物をいくつか拾って、それに似た物を中心に集めてみたんだけど…食べられるのかなぁ…。
凄く凄くお腹が空いてるけど、食べられるか怪しい物にチャレンジするのは水とトイレがある場所が望ましい。