それは誤解だ!!!!
よりにもよって、有田君に見られたくはなかった…。
心で号泣しながら、髪のタオルドライも適当に切り上げて簡単に身仕度を整えると、トボトボとリビングに向かう。
日本に帰って来れたのは死ぬ程嬉しいけど、有田君にうまく説明できる気がしない。…ていうか、ほんとなんで有田君が私なんかの家にいるんだろう。
もう会えないかもと思っていただけに、顔が見れただけでも幸せなんだけど…でも。でもさ?
現行犯逮捕されたような絶望的な気分でリビングに入ったら、有田君がまたもや驚愕の表情を見せた。
「何!?どうしたの、その傷!」
体中についた傷を見て「なんで放ったらかしてんの!?救急箱どこ!?」と大慌てな有田君を、私はなんだか不思議な気持ちで見ていた。
明るくて賑やかだけど、会議みたいなシメるべき時はしっかりと落ち着いた受け答えができる。自分よりもずっとしっかりしていると思っていた有田君が慌てふためいているのが、ちょっと面白い。
「うわっ…爪まで剥がれてる…!なんでこんな…」
何度目かの「なんでこんな」を呟いた時、有田君の手が何か思い当たったようにピタリと止まった。
「まさか…」
ギギギギギギ…と、錆び付いた音が聞こえそうなくらいぎこちなく私から離れた有田君は、水をかけられた猫みたいにしょんぼりしてしまった。
「その…俺、ゴメン。無神経だった。触られて気持ち悪くなかったか?」
「大丈夫…だけど」
そりゃビックリはしたけどね。
と思いつつ、有田君のあまりの変わりように、一体何に思い当たってしまったのかとぼんやり考える。
有田君は言い訳のように「何日も無断欠勤しているから皆心配している」「同期の方が悩みも話しやすいだろうと俺が派遣された」というような事を小さな声で説明してくれているけど…。
なんだこの違和感。
有田君からヒシヒシと感じる、申し訳なさそうな、痛々しいものを見るような気配。
……ん?
ちょっと待て。
「違う!!!」
思わず絶叫した。
そりゃ会社を何日も無断欠勤したよ。全身痣だらけの傷だらけだよ。普通じゃつかない 傷だと思うよ。でもね!
「襲われてないっっ!!」
蛇には襲われたけど、そもそも人間に会ってないから! むしろ会いたかったぐらいだから!
あんまりな誤解に悔しくなって、気が付けば有田君にこれまでのあれやこれやの顛末を、事細かに語っていた。