突然の…
翌日私はなんと昼過ぎに目を覚ました。
昨日の激走がよっぽどこたえたんだろうなぁ。あんなに命がけで走った事なんて、当たり前だけどこれまでの人生で一度たりともないし。
まぁ、今日は外に出る気もないし、一食減らせたと思えばいいか。
昨日の夜も怖過ぎて外に出られず、お魚達は刺身にしていただいた。この異世界にきてフルーツ以外を生で食べたのは初めてだけど、普通においしかったし、カミソリが意外に役立つ事も分かって一安心だ。
体中の傷や打撲も起き抜けから痛いし、お風呂に入ってサッパリしてからご飯にしよう。歯磨きしながらそんな事をぼんやり考え、お風呂を沸かした。
痛みに顔をしかめながらも全身を洗い、お湯に身を沈めながら本日の入浴剤を吟味する。
カンカンに入った大容量入浴剤は道しるべとしての重大任務があるから使いたくない。もう既に一缶は使い切って、カンカンは鍋に利用されてるくらいだから、無駄使いなんか出来ないし。
そんな訳で、特別な日用の戴き物の入浴剤からチョイスする。
あ……これ、いいな。
桜の香り。
懐かしさに胸がキュンとなる。
親元から離れてもホームシックにもならなかった図太い私でも、人の姿すら見当たらず、二度と日本に戻れないかも知れないこの状況では、郷愁の念が起こるらしい。
仄かに香る桜の香りを楽しみながら、まったりとお湯を楽しむ。
その時だった。
突然、ユニットバスの扉が開いた。
「佐々木さん?いるの?」
一瞬覗いた顔と、バチっと目が合う。
「うわっ!?なんで風呂!?ごっゴメン!」
「ダメっ!!閉めないで!!」
慌てて扉を閉めようとするのを必死で止める。日本に戻れる千載一遇のチャンスを逃してなるものか!
「お願い!お願い、閉めないで!!」
「な…なんで…」
怪訝な顔で思わず振り返った顔に、私は衝撃を受けた。
「有田君!?」
ちょっといいな、と思っていた同僚の有田君。なぜここに?
そして有田君も唖然としていた。
「なんで、風呂に刺身…?」
洗面スペースには昨日の残り物の刺身と、今日食べる予定だったカニっぽいの達が入った洗濯ネットがある。そして洗濯機用スチール収納からは乾燥中の植物達もぶら下かっている。
……ヤバい、私、完全に変な人だ。
ほんと、泣ける。
「取り敢えずお風呂から出るから…悪いんだけどリビングで待っててくれるかな。…扉は絶対に!閉めないで」