四つ目のパーティ
廃都グラネダが遺跡ではなく迷宮と呼ばれるのには理由がある。この廃都が冒険者の手によって攻略されるようになって、早五十年。この間に、瓦礫と小さな廃墟の場所はほとんど探索された。残っているのは入口の見つからない地下空間と、中の魔物が強すぎて誰も手を出さない廃都中央の城だけだ。
だけだ、という表現は正しくないのかもしれない。廃都において瓦礫と廃墟が占める範囲は、広大だと言われている地下空間が比率を下げて、二割もないはずだからだ。五十年かけて残り八割、それも、奥深くへ続く入口がまだ見つかっていない、前人未到の地下空間と、魔物が強力すぎて人の立ち入ってよい場所ではないと言われる城内部が残っている。少々厄介な魔物がひしめいているだけの地上なんて、いくら探索したところで物の足しにはならないのかもしれない。
つまり結局のところ、廃都の探索すべき部分のほとんどは広大な地下ということになる。ゆえに迷宮なのだ。もっと言えば、廃都は地下迷宮として価値を認められているのだ。
そして今、ついに最新部まで続いているかもしれない地下空間への入口を見つけた冒険者パーティがいる。
「これは……。もしかして、当たりなんじゃないか?」
レザーアーマーを服の下に着込み、短剣を体中の随所に取り付けた身軽な格好をした男、バグマウという名の盗賊が仲間たちに向き直って言った。
彼はたった今、瓦礫の中へ意図的に隠したと見られる隠し階段を見つけ出した。
「センス・マナ。……イミテーターが化けているようなこともないみたいですね。魔法の反応があるのは、リットの弓とアルテの装飾品だけです」
この迷宮を探索するときの基本。建物や閉ざされた空間に入るときはこまめにイミテーターを探す。という手順を果たした魔術師、ヨーゼフがその結果をみんなに伝えた。
「じゃあ、潜る?」
盗賊のバグマウよりさらに身軽な格好をした少年狩人、リットが弓と矢を握り締めながら、まだ幼さの残る声で誰にともなく確認した。
「いや、今日は一旦帰ろうか。地下に潜るには非常食が心もとない。一日英気を養って、それからもう一度ここに来るんだ」
パーティのリーダー、魔法剣士アルテが妙に艶かしい声色で言った。彼女は普段から妙な色気を出している。危なっかしい人だが、腕っ節の強さが小グラネダに知れ渡っていて、彼女に迂闊に手を出す人間はいない。
「じゃあ、地図に記しておくから、階段を瓦礫で隠し直しておいてくれ」
バグマウのしわがれた声が静かに響く。
と、この瞬間、パーティ全員に緊張感が漂い始めた。妙な静けさの中に、各々が何かの気配を感じ取ったのだ。
「囲まれていますね」
ヨーゼフが手にした杖をギュッと握り締め、肉厚のローブを揺らした。攻撃魔法を使うため、ローブが邪魔にならないよう体勢を整えたのだ。
「じゃあいつも通り、俺とおっさんが攪乱だよね」
リットが魔法の弓を構えた。この弓はつい先日、迷宮の瓦礫の上に引っ掛かっているのを見つけた。放った矢が透明になるという不意打ち向きの良い弓で、リットのお気に入りになっている。
「話している暇はない! 来るぞ!」
言い終わる前にバグマウが駆け出した。同時にリットも別方向に走って位置を取る。
現れたのはマルバスばかり。八方からわらわらと。マルバスは単体であれば詠唱の隙を狙えるが、複数となると互いに守り合うようになるので非常に与し難い相手となる。
「ヨーゼフ! マルバスだけだ! 雷か氷の呪文を使いな!」
リーダーのアルテが魔術師のヨーゼフに指示を出し、彼を守るように魔物たちを牽制する。
バグマウが、詠唱する個体を守ろうとするマルバスの集まった地帯に突っ込み、短剣で切りつけたり蹴ったりする。全てが大振りで、攻撃が次の攻撃への布石となるように流れる動き。そんな無茶苦茶な戦い方を続ければ当然次第に隙が大きくなるが、そこをリットが援護する。そうやって敵を仕留めずとも散らす。そして守りががら空きになった魔法を詠唱している個体をリットが射抜くという連携。リット自身はマルバスたちの縦横無尽に駆けて来る動きに完全に対応し、紙一重で牙を避け、靴の先に仕込んだナイフで手傷を負わせる。また、魔法を詠唱する個体がいればバグマウと連携して仕留める。これを繰り返して敵の数を減らしている。
アルテはパーティ全体の状況を常に把握して、必要があれば指示や援護をする。必要がなければ魔術師のヨーゼフを守っている。
今も詠唱しているヨーゼフへ、牙をむき出しに飛びかかってきたマルバスを横から蹴飛ばし、同時に他の個体に、愛用の刀身が短いブロードソードの鋒を向けて牽制している。
「アイスニードル!」
ヨーゼフの呪文が固まった三匹のマルバスを襲った。それらは詠唱を始めていて、速度の遅い攻撃でも十分に当たった。三匹の獅子の頭、腹、腕がそれぞれ消し飛ぶ。
「もうちょっとで半分だ! 気を抜くなよ!」
アルテは戦闘中、常に仲間を気遣っていた。辛そうにしていれば、時には本人より早く察知し、何かしら手を打つ。だからこそ彼らは彼女をリーダーとして認め、ついていく。パーティとして機能する。
「ふん! はあ!!」
バグマウが切れ味の悪くなってきた短剣を捨て、拳による肉弾戦を開始した。小気味良くステップを踏むようなスタイルではなく、足を止めて打ち合うような消耗戦仕様だ。魔物、それも獣型を相手にするには随分と分が悪い戦法だ。
このスタイルは、かつてバグマウが闘技場で、血が盛大に流れる闘いを見世物にしていた頃に身につけた戦い方だ。そういう場所で人気を得るためには、自身の流血も必要だった。
「あんたは武器をケチるな!」
そしてアルテが補助魔法を飛ばす。バグマウのレザーアーマーをはじめとする衣服や靴、額当てなどといった身につけているもの全般が装飾品として動きを阻害しない柔軟性を保ったまま、外部からの衝撃に非常に強くなる。
これがあるからバグマウは無茶ができる。そうでなければ、体中に身につけた予備の武器を使うだろう。
魔法剣士とは、魔法を使う剣士のことをいうのではない。魔法を物や人に直接かける技術がある者を指していうのだ。無論戦わない者もいるからして、そうした場合は当然剣士とは言わず、エンチャンターなどと呼ばれたりする。どちらにせよ魔法の職人として誉れ高い人種なのだ。
「バグマウばっかずるいよなー」
リットがぼやきつつもマルバスをまた一匹見えざる矢で射抜いた。
「ヨーゼフは魔法中止! あとは魔力を温存して杖でも振り回してな!」
「了解!」
そして三十近いマルバスの群れが殲滅された。
「いや~。儲けたねえ」
酒場にマルバスの頭の換金を頼み、それなりに懐が潤った四人がその場で気分よく小宴会を始めた。
アルテはジャラジャラと鳴る茶巾を耳で楽しんでいた。
「こうやって美味いメシと酒が食えるのも、リーダーのお陰様ってことで!」
「かんぱーい!」
バグマウは街に戻るたび、リーダーのアルテを持ち上げている。人間関係というのはこうしてお互いに気遣い合うことで円滑な状態を築ける。ということで、彼は太鼓持ちを厭わない。
「さあ、あんたら、明後日からは地下迷宮の探索に入るんだからね! 目一杯飲んで食って、精気を養いなよ!」
アルテがわざと声を張り上げて言った。が、パーティの面々は顔をしかめたり、不思議そうな表情になる。
ここは冒険者の酒場。当然たむろしているのは冒険者ばかりだ。つまり、廃都グラネダを探索する同業者にしてライバルたち。情報の交換や協力して探索することはあるものの、現在誰もが我先にと血眼になって探しているのが地下迷宮。その入口を見つけたと大声で言う。
言ったのはアルテ率いる熟練冒険者パーティだ。信憑性は高いと誰もが考える。これで注目されないわけがない。
「ちょっと、姐さん……」
「おいおい、あんたらついに地下迷宮への入口を見つけたってか!」
と、リットがアルテに注意しようとして、隣のテーブルで飲んでいた男に言葉を被せられた。
「そうだよ。これでうちの組合が迷宮一番乗りだね!」
アルテが酒場の中を見渡して、宣言した。冒険者たちが沸き立つ。
「マジかよ!」
「マジさ、マジ」
自分たちのリーダーの意図がわからず、三人は周囲の勢いに負けて縮こまってしまった。
「ちょっと、地図だしな」
アルテがバグマウに手のひらを差し出す。そしてさっさと出せ、と催促するようにその腕を数度しならせた。
「いいんですかい……」
バグマウはしぶしぶ懐から地図を取り出し、アルテに渡す。
群がってきたギャラリーに、アルテは地図を広げて見せて隠し階段のあった場所を教えた。冒険者たちが押しのけ合ってアルテたちの地図を食い入るように見る。そして自分たちの地図に場所を書き込んだり、そこがどうなっているのかアルテから聞き出したりしていた。アルテはそれらの声に、いちいち答え、情報を広めていった。
小一時間。騒ぎが随分収まって、アルテたちは宿に戻るところだった。
「それで、どうしてあんな風に隠し階段のことを広めたりしたんですか?」
三人の思っていたことをヨーゼフが代表して聞く。一時間も放ったらかしにされていれば、流石によく考える時間はあった。落ち着いてみると、落ち着くまでもないことだがアルテがあんなことを考えなしにするわけがない。
「あたしはさあ、あの隠し階段は当たりだと思ってるのよ」
少し視線を高めに持っていきながら、アルテがいつものように艶かしく言った。
「そんでもってさあ、あの隠し階段を見つけたのは、あたしたちが最初じゃないともね、思っているのよ」
後ろを歩く三人に振り返った。アルテはそのまま後ろ向きに歩き続ける。
「隠すように瓦礫が積んであったんだから、僕たちが初めてじゃないと思うのは当然ですね。それで?」
「最初じゃないなら以前に見つけた奴らはどうなった?」
ヨーゼフの先を促す言葉に重なるタイミングでアルテは言葉を続けた。
「入った先で死んだか、入らなかった」
リットが挙手して答えた。
「どうしたかは知らないけど、危険っぽいでしょ? だからね、あいつらを試金石にするのよ。本当に地下深くまで続いているなら一番乗りで行く必要はないわ。だってあたしたちの目的は迷宮の地下を完全攻略することだもの」
彼らはもともと、二つのパーティだった。バグマウとリットの小金稼ぎを目的としたパーティ。そしてグラネダ帝国が滅んだ理由を解き明かすために迷宮を探索するヨーゼフとアルテ。
バグマウたちが迷宮で窮地に陥っているところを偶然アルテたちが助け、バグマウたちが恩返しにとアルテたちの探索を手伝い始め、その時々でアルテたちの判断力や戦闘力を目の当たりにしたのがパーティ統合に繋がった形だった。
ようするにバグマウとリットは、アルテたちの迷宮での働き振りを見て、ついていけば二人で迷宮を探索するより稼げると思ったのだ。
確かに一番乗りで地下に潜れば価値のある品を見つけて稼げる確率も高いだろう。しかし、そのために高いリスクを負わなければならなくなるのはアルテたちにとって喜ばしくない。
たとえアルテの勘が外れていて、稼ぐチャンスを失ってもそれはそれでいいのだ。小金を稼ぐならマルバスを狩ればいい。刹那主義的なところのある他の多くの冒険者たちと違って、アルテとヨーゼフは目的を果たしたその先にしか興味はなかった。
「じゃあ、多分明日あの地下に潜っていく奴らが持って帰った情報を手に入れてから俺たちは迷宮にいくのか?」
「そうよ」
最終的に、アルテたちについて行った方が稼げると判断したバグマウとリットだが、やはりこうも惜しげなく稼げるかもしれないチャンスをフイにされると面白くはないようだった。二人は不満をあまり顔に出さないように努力した。
翌日、アルテたちに隠し階段の場所を教えられた冒険者たちのパーティの一つが、その場所にいた。
「この辺だな。確か瓦礫を積んで隠してあるって話だったが……」
そう言って一人の男が辺りの瓦礫を観察しはじめた。彼の仲間もそれに倣う。
彼らとて何も考えずにここへ来たわけではない。アルテという女は儲かりうる情報をただで惜しげもなく振舞うような間抜けではない。それ相応の理由があるはずなのはわかっていた。
ただからかわれたということはないだろう。そんな無駄をして周りの顰蹙を買うほど馬鹿ではない。ではまっとうな理由はあるか?
アルテたちはこの奥に危険な何か、おそらくは見たこともないような魔物を発見でもしたのだ。つまり、酒場にいた他の冒険者たちを露払いにするつもり。そのようなところだと当たりを付けた。彼らは明確に危険を承知でここへ来たのだった。
彼らはここへ一番乗りでやってきたが、このあとも続々と他の冒険者がやってくるだろうと思っていた。それは確かに本当のこととなるのだが、彼らは後続が来る前にその隠し階段の奥を探索しきれると踏んだのだ。ハイリスクハイリターン。それこそが冒険者のあるべき姿だとでも言うように。
「こっちだ。本当にあったぜ!」
一人が瓦礫をどかしながら声をかけた。
「手伝う」
狭い場所で、同時に作業が出来たのは二人だけだった。いくつも重ねられた瓦礫を全てどかし、そこには取っ手の付いた開き戸が現れた。
「おい、念のため魔力チェックしておくぞ」
そう言って、彼らのリーダーが背嚢から魔石を取り出した。
「センス・マナ! ……何もなし、っと」
彼らのパーティに魔術師はいないが、それを補う道具は存在していた。少し値は張るが、そこら中に潜むイミテーターたちに何の対策もしないのは、命知らずを通り越してただの馬鹿だ。
「早起きしてきた甲斐があったってもんだぜ。隠されたままだったってことは、俺たちが最初だ」
言いながら隠し階段の入口を開け、六人の男たちが現れた階段を下りていった。
「深いな。松明が保つといいが……」
先頭で進む男が呟いた。
「時々は魔石を使ってイミテーターを探せよ」
彼らのリーダーが促す。
コツコツと、一段一段を慎重に下っていく冒険者たち。後続に追いつかれないかという焦りがあったし、前人未到かもしれない場所への恐怖や不安もあった。何しろ実力的に街のトップクラスであるアルテたちのパーティが発見した地下空間だ。その本物っぽさが彼らを普段より神経質にさせた。
「……これまでに発見された地下空間では、地上では見ないような魔物の発見例も多い。特にアンデットだな。四日前に俺たちとは別の酒場の組合の連中が、誰も知らないような魔物の死体を持って帰って話台になってたろ」
一人が気を紛らわせるために話し始めた。
「それって人型で全身真っ白な奴のことだろ? 俺見たぜ。すげえ肉がブヨブヨしてたんだよな」
「新種の魔物なら国が報奨金をだしてくれるんだろ? いいよなあ、殺せる程度の新種なんて」
「まだ新種かどうか分かんねえんだろ?」
「街の誰も知らなかったんだ。新種登録されんのも時間の問題だろ」
「今度あいつらが普段入り浸ってる酒場にたかりに行こうぜ」
緊張を紛らわせるために緊張を失っていく者たち。彼らにその報いが来たる時は近い。
「おっと、階段は下りきったようだな。……帰りがしんどそうだ」
先頭の男が階段を下りきった先で仲間たちを待つ。
「寒いなあ」
階段の幅よりいくらか広い通路になっていて、空気がとても冷たかった。水が凍るほどではないが、手が悴んで動かしにくくなる程度には寒い。
「じゃあ、さっさと進もう」
外の瓦礫や下ってきた階段とは材質の違う石畳の壁。見た目にスベスベとしていて、足音も少し響く感じになっていた。
「別れ道か」
リーダーが止まるように言った。
今は地下深くにいて、自分たちが持っている松明以外に光原はないはずだった。しかし、左に伸びる道の先がほのかに明るかった。
「確実に何かあるな」
誰も返事をせず、頷きもしなかったが、それは肯定の空気だった。
「危険を恐るならグラネダで冒険者なんてやっちゃいねえ」
誰かが言った。
「……そうだな。行こう」
望みは薄かったが、この時、誰かが気づいていれば彼らは助かったかもしれなかった。聞き覚えのない声が響いたことに、彼らは誰も気がつかなかった。
仕方がなかった。彼らはすでに敵の術中に嵌っていたのだ。冷たい空気とともに、眠気を誘う魔法の霧が立ち込めていたことに気がつかなかった。
緊張感を意図的に薄れさせた報いだった。普段ならイミテーターを警戒して辺りの魔力を探っていただろう。そうすれば危機を回避できたかもしれなかった。しかし、それを怠った。事前にリーダーが注意していたにも関わらず、言った彼自身でさえ忘れていた。
眠気でぼやけた頭に別の魔の手が伸びる。彼らを夢現の曖昧な状態にし、いつしか肌寒ささえ忘れさせ、起きていながら心地よい世界に浸らせた。
彼らはすでに、魔物の手によって催眠状態に落ちっていたのだ。
そして淡く光る通路の奥へ向かって歩き、背後から忍び寄る魔物に気づくこともなく、ひとりひとり、静かに姿を消していった。
ミストストーカー。霧状の魔物。動きが遅く、聖なる炎で霧を蒸発させるしか倒す方法のない面倒な魔物として知られているが、人のいる場所には滅多に出現せず、よって知名度自体はかなり低い。この魔物は自身を構成する霧の一部を、吸った者の眠気を誘う霧に変化させて広く散布することができ、そうして眠らせた獲物を本体がゆっくりと包み込む。そして相手を死者の世界に直接送り込んでしまうと言われているが、真偽のほどは定かではない。はっきりとしているのは、この魔物に包み込まれたものは跡形もなく消え去ってしまうということだけだ。
なお、聖なる炎とは、神の力を借りておこす火のことで、ごく一部の神官にしか扱うことのできない貴重な魔法だ。この火は生き物への害意を持たないアンデットを穏やかに天へ返すことができる。
「なんだこれ」
先頭を歩くリーダーが、彼だけが光る壁のもとへたどり着いた。
なんの変哲もない石壁だった。ただ、蛍のような、しかし実体はどこにもない光がふよふよと壁際に浮かんでいた。彼は知らなかったが、この光こそが魔物だった。
ウィル・オー・ウィスプ。光の精霊とも、死者の魂とも呼ばれる意思のない霊体。ただ彼らは生き物の気配を感じると、その精神を微睡ませ、自身のもとへおびき寄せる。そしてこの魔物の姿を見続けると、魂が吸い取られていってしまうのだ。ただし、この能力は威力が弱く、精神が参っていたり、意識がはっきり覚醒していないような者でなければ効果が出ない。
唐突に、光を見つめる彼の瞳から光が消える。同時に、ウィル・オー・ウィスプを構成する光が一つ増えた。
冒険者のリーダーの体が操り糸を切った人形のように崩れ落ち、衝撃でその肉体は塵となって散っていった。
ミストストーカーとウィル・オー・ウィスプによる偶然の連携。ミストストーカーだけでは、歩いている誰かが眠れば倒れる音で周りの者が異変に気づくだろう。ウィル・オー・ウィスプだけではなかなか獲物を微睡ませることができない。
こうした不条理も、ほんのちょっとした気配りで退散させることができたはずだった。怠ったのは彼らの過失である。