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たまに行くならこんな異世界〜厨二設定を考えといて良かった〜

自分が異世界に転移するならこんなんが良いな〜、という回です。

 異世界に行くに当たって一つだけ能力を与えると言われた。条件は極端に強力なものはダメらしい。どれ程の能力が〝極端〟で〝強力〟なのか分からないが、そこについての説明は無かった。


 私は良く考えた挙句に無属性魔法を使えるという何とも厨二設定な能力を望んだ。


 小説サイトを愛読する私の考える無属性魔法とは、魔力をそのまんま力に変える魔法で、身体能力を上げたり、射出して遠当ての様に遠距離攻撃したり、時には自然治癒力を引き上げて傷付いた体を癒すという便利過ぎる能力。


 ちょっと欲張り過ぎたか? 内心焦って目を閉じるがスンナリ了承された。どうやら〝極端に強力〟では無いらしい。逆算すると、それ位の能力は良く有る世界なのだろうか?心配性の私が目を開けて尋ねようとすると、そこは見た事も無い草原だった。


 だだっ広い草原は腰丈の草がそよぎ、晴天の空には雲一つ無い。


 信じられない光景に周囲を見回すと、体が軽い事に気付く。凄く違和感があるのは、私が持病によって足を悪くしていたのに足の痛みが一切無い事。更にメタボ体型だった腹はスマートに変わり、ガリガリというよりは締まっていて程よく筋肉が付いている。服の上からでも腹筋の割れたポコポコが分かるほどと言えば大体想像して頂けようか。


 身長はそれ程変わっていないらしい、元々日本人にしては大きい方で180センチ強はあった。この世界の平均は分からないが、重力が同じ位だから極端な違いは無いだろうと思う。尤も魔法などという物が存在する世界に自分の常識が通用すると思う程の楽観主義ではないつもりだが。


 腰の重みに手をやれば、見た事も無い剣が下がっていた。単純にワクワクする、私だって昔は男の子だったのだ。オモチャの剣の一本や二本持って友達とチャンバラごっこで遊んだものだ。

 懐かしい思い出に口元を緩めつつ剣の柄に手を延ばすと、


『私はスピーキング・ソードのREC、様々な戦士の記憶が記録されています。主人である貴方の脳にダイレクトに働きかけて、最適な戦術を指南いたします』


 便利なオプションが付いたものだ、この世界はそんなに厳しい世界なのだろうか?

 引き抜いた剣は丁度片腕と同じ刃長の諸刃の直剣で、身幅のある頑強な作りは素っ気なくもバランスが良い。カウンターバランスを取る銀の頭を持つ柄は片手剣にしては少し長い物だった。


 剣を鞘に戻し体を見ると、丈夫そうというだけが取り柄のゴワゴワとした黄土色の生地で膝当ての付いたズボンの上に、これまた丈夫そうな麻の肌着と紅茶染めの様な淡い色合いの長袖。

 そこにもうひとつのオプションとして革で出来た濃い茶色の胴鎧を装備していた。


 肩掛けカバンが有るので中を見ると、何かの革で作られた立派な水袋の他は、焼き固められたビスケットがビッシリと詰まっていた。何とも素っ気ないカバンの中身にフッと笑いが零れる、カバンにビスケットを入れた事はあるが、裸のビスケットで満杯の謂わばビスケット・バッグは初めて見た。


 他には何かないかと思いズボンのポケットを探ると右のポケットから金色の硬貨が一枚、左のポケットからは銀色の硬貨が十枚出てきた。


 中々便利なオプションだなと納得する、取り敢えず当面は餓死する心配は無さそうだ。


 RECに触れて『どこ行こ?』と念じても何も返事が無い。そうかこれは双方向では無く一方的に戦術指南してくれるのかもしれないと思い至る。

 さっきの話によるとスピーキング・ソードと言っていたし、トーキング・ソードとは言って無かったな、と一人で納得した。


 さて、そうなるとどうしよう。行く当てもないし、見渡す限り腰丈の草原が続いており、視界には遠くの森の他に何も見えない。

 そこで私は誰も居ないのを良い事に、無属性魔法を試す事にした。だって魔法ですよ、使えるなら頼もしい事この上ない。


 まず魔法をどう使うか分からないながらに精神集中する事にした。以前からの癖で、集中したい時は呼吸に集中する事にしている。鼻から吸った息をへそ下に集め、今度はゆっくり上げて長く吐くイメージ。

 呼吸に意識を持って行く事で雑念を払う、良く言われるセンタリングと呼ばれる精神集中法を数回繰り返した時、へそ下=丹田に集まった意識が力を持って全身を駆け巡った。


 無属性魔法による身体能力強化はこうして呆気なく発動した。一度発動したエンジンの様に、力が後から後から湧いてくる感じ。更には何でも出来る様な全能感に包まれるという副作用があるらしい、私はテンション高く剣を抜き、メチャクチャに振り回した。

 失敗したのは、この体の元々のポテンシャルが分からないのに身体能力強化を掛けたため、比較検討が出来なかった事である。が、感覚的には相当強化されるらしい。


 五感が冴え渡り、今まで認識していなかった周囲の状況が手に取る様に分かる。羽根のように軽く感じる体は、しかし確かな重量を伴い地面を揺らす。


 と、その時遠くの草原から生き物の気配を感じた。聴覚を集中させると、聞こえてくるのは荒い息遣いの何者かが数体、腰丈の草原に潜んで草を掻き分けながらジワジワとこちらに近づいてくる。


 咄嗟にRECを構えると脳に直接無属性魔法を飛ばして攻撃するイメージが伝わってきた。

 その感覚を頼りに、再度丹田に集めた魔力を左手指先に集めて飛ばす。

 手裏剣の様に射出された魔力塊はイメージ通りに真っ直ぐ飛ぶと、一つの気配に命中した。


「ギャイン!」


 悲鳴と共にのたうち回る何者か、命中の確かな手応えを感じると、もう一体にも狙いを定める。が、仲間がやられた事により明らかに気配を変えた集団は全力疾走に切り替えて此方に向かってきた。

 その数5体。焦った私は集中を切らして魔力塊を外してしまう。


 再びRECの伝えてくる戦術を元に、今度は可能な限り、身体能力を上げるために魔力を練る。

 腹の底から沸き立つ様に力が溢れ、ビビって萎縮したテンションが再び危ない程に跳ね上がる。

 RECを中段に構えて軽く握りを確かめると、指示通りに剣にも魔力を行き渡らせた。


 その時、先頭を走る何者かが飛びかかってきた。その動きはRECによって先読みされており、体を躱すと同時に無防備な腹に剣を突きいれる。


 だが、次の瞬間左右同時に飛びかかってきた獣に左腕と胸を噛みつかれる。喉笛を狙ってきた一体は何とか鎧で防いだが、腕は思い切り噛みつかれ、激痛が走った。


 馬鹿でかい犬の様な、しかし犬にはあり得ない巨大な剣歯を持ち、前足なども筋肉質で倍程太い。

 そんなバケモノが地面に引き倒そうと首を捻じって鼻息荒く狂ったように暴れる。


 私はその時点で頭が真っ白になり、絶望感に支配されていた。だが、その内面とは裏腹にRECが伝える最善策を実行する体。


 生命の危機に爆発する様に沸き立つ魔力が全身を巡り、RECを突き立てて腕に噛み付いたお化け犬の首を刎ねた。


 左腕に残る化け物の頭を無視して、再度喉笛を狙って突進してくるもう一匹の鼻面に丹田から直接放った魔力塊をぶち当てると、カウンター気味に当たった化け物の頭が爆ぜた。


 だが、そこで急激に力が抜け始める。慣らし運転もそこそこに爆発的に消費した魔力が底を突いたのだ。


『あっ、だめだ』


 噛み付き、振り回してくる犬達を最後の情景に、情けない思考と共に視界が真っ白になる。俺は異世界に来て直ぐ、魔力を使い切って気絶してしまったーー




 力無く倒れる男に群がる二頭のブラッド・ドッグ、その一頭の頭部を風を切った矢が貫いた。小さな鏃を持つ極短い矢は、しかしその見た目に反して硬い頭蓋骨を貫き、纏った風刃で脳をズタズタに引き裂く。その様子を見たもう一匹のブラッド・ドッグは、跳ね退く様に距離を置くと、射出元を睨み付け、


「ヴゥゥゥ〜ッ」


 と威嚇する。だが、その奥に光る双眸を見ると、急に怖気づいたのか、獲物に気を惹かれつつも渋々逃げ出した。




 ーー目覚めると、とてもあったかい物に包まれている事に気が付く。


『ヤバイ! やられるっ!』


 犬に噛み付かれるのを避けようと仰け反った私は、柔らかい壁に頭をぶつけて、ポヨンと跳ね返った。何かゴムの様な素材で出来た壁なんだろうか? 暗闇の中で手触りを確かめていると、


「起きた?」


 物憂げな女性の声、そちらに目を向けると、仄かな光が室内を照らし出した。その不思議な蛍光色を覗き込むと、


「ヒカリダケ、森の小さな妖精」


 先ほどの声が教えてくれる。光に照らし出されたのは、床に座り込む華奢な少女だった。


「君は?」


 少女の銀髪に気をとられながら尋ねる。薄明かりにも分かる程の整った顔立ち、その肌は自ら発光しているかの様に真っ白だった。


「私は……シズィ」


 そう言って銀髪を掻き上げると、その下から尖った耳が現れた。


『この娘エルフか!』


 ある種の感動が沸き立つのを抑えて、


「君が助けてくれたの?」


 自分の体を見ると、傷の痛みも消えており、食い破られた服も縫製されている。


「赤犬達追っ払った、後はこの子がやった」


 そう言って床を撫でる。と、くすぐったそうに部屋全体が揺れる。なんとこの部屋自体が妖精の一種らしい。


「ありがとう! 恩に着ます」


 思わず握手を求めるが、その手をやんわりと止められると、


「私達にはやるべき事がある、恩では無く協力を」


 そう言って床に置かれたRECを指さした。


『これはどうやら一筋縄では行かないらしい』


 そう思いながらも冒険心が刺激されて、思わず口角が上がってしまう。目の前のRECを掴むと、シズィに差し出して、


「協力を!」


 誓いを立てると、片膝をついて腰ベルトに装備した。その時、


 〝警告! 遠方から複数の敵意が接近中〟


 RECからの警告にシズィを見ると、分かっているとばかりに頷いた。


「私の守護精霊は風、奴らの臭い風は良く分かる」


 そう言うと、矢筒と短弓を担ぎ、床に手をつきボソリと呟く。


 次の瞬間、今まで建物の様に感じていたものが、あっという間に形を変えて、少女の左手に収束すると、絡みつく様な手甲になった。


 驚く私に、


「自分を守れ、ヒカリダケをよろしく」


 そう言って夜の森にスッと消えてしまった。


 〝ヨロシク、私ヒカリダケ。ヒーちゃんって呼んでもいいわよ〟


 肩口を見ると、仄かに光る小さな女の子がいた。先程の光るキノコか、頭に帽子の様な傘をかぶっている。その可愛らしさを愛でる間も無く、


「よろしく」


 と言って周囲の闇を見回す。真っ暗な森に明確な敵意が潜むかと思うと、思わず萎縮してしまいそうだ。異世界に来てからの急展開に多少混乱しつつも、ここはやるしか無い! と気合を入れて腰の長剣RECを引き抜いて一振りした。


 すぐにRECから明確な指示が送られて来る。


『今度こそ失敗しない!』


 丹田に意識を向けると、始動する魔力エンジン。それをアイドリング状態にキープすると、左手の大木に向けて走り出した。




 -----The End-----

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