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素振りをしてたら異世界転移!

 朝起きて日課の素振りをする男、冬にも関わらずその体からは湯気のような汗が揮発している。

 毎朝六時から三十分、夏も冬も欠かす事なく毎日黙々とバットを振り続ける。だがこの男は特段野球自体をする訳では無い、ただ単に素振りを趣味としていた。

 そんな奇特な男の趣味も、長年積み重ねたイメージトレーニングの賜物か、目の端にピッチャーの幻影がハッキリと認識出来る程にまで極まっていた。


 股の内側に張りを持たせる感覚を保ちつつ、腰を軽く落とす。引き手側は何時でも始動できる様に柔らかく、押し手側の体側には壁を作る様なイメージ。体重を支える軸足の親指は地面を掴む感覚で、前方の足は靴底が見える程捻りを加えていた。


 〝ピッチャー振りかぶって、投げた! 150キロストレート〟


 球の軌道予測に合わせてバットの位置を少し上げつつ、ノーステップで前方の足を踏み込む。体の軸を意識しつつ、引き手を始動させた。レベルスイングを目指しつつも、位置エネルギーの加速を加える為に、引き手の初動は真下に向けられ、自然とややダウンスイング気味となる。ヘッドスピードが乗る頃には、綺麗な軸が生み出す運動エネルギーが更なる加速とパワーを生み出す。

 唸りをあげる剛速球がストライクゾーンギリギリ、外角高目に伸び上がる様に迫ってくる。それに合わせて肘を少し伸ばすと、まるで示し合わせたかの様に幻の球へとドンピシャのタイミングで、バットが吸い込まれて行く。あらゆるエネルギーを一点に込め、弾かれる様に思い切り振った時、


 〝ゴギンッ!〟


 変な手応えを受けると、巨大な何物かが吹っ飛んで行った。


 フォロースイングをしながらよく見ると、カッ飛ばしたのは巨大な生物の頭。横を見ると、首を無くした巨大なトカゲの胴体が、盛大に赤い血を噴き出しながら崩れ落ちた。

 その返り血を浴び続けて呆然とする俺の後ろで、


「やった〜! 魔人の召喚に成功したわよ! これでレッドドラゴン討伐成功ね!」


 オッパイの大きな姐ちゃんが、跳びはねながら手を叩いて喜んでいる。ぶるんぶるん揺れるおっぱいをしばらくボンヤリ眺めていたが、ふと我に返って、


「おい、おっぱい! こりゃ〜いったいどないなっとんじゃ!」


 跳ねるおっぱいにメンチを切りながら問い正した。


「お、おっぱい!?」


 それを聞いて驚愕する女、その後ろから毛むくじゃらの男が、


「お主喋れるのか?」


 グイッと身を乗り出して尋ねて来る。恰幅の良いそいつは、まるで時代劇の剣豪の様に、風格のある大剣と鎧を身につけていた。


「人間に向かって喋れるかとは何だ? ああ〜ん? ケンカ売ってんのか? 剣豪!」


 剣豪風の男に向かってメンチを切ると、血みどろのバットで相手の胸をグリグリと押す。その所業に怒りというより呆れた顔で、ドラゴンの返り血まみれのワシを見下ろしてきた。この身長差、ムカつく!


「まあまあまあ」


 その後ろからザビエル禿げの親父がやって来て間に入った。


「当方のとんだ勘違いでして、この魔法使いが魔人召喚の儀式を行って呼び出されたのが貴方様という訳でございます。私はウサン教神官のクサイと申します」


 うさんくさい、語るに落ちる奴だな、家にも偶に宗教の勧誘がやって来ては、パンフレットなんぞを置いて行きやがる。あれ後で捨てるの面倒臭いんだよな。

 名前の通り、胡散臭い物を見る目でザビエル禿げの頭部にメンチを切っていると、


「あ、貴方のお名前は何とお呼びすればよろしいですか?」


 額に汗を噴きながら聞いてきた。


「わしか? わしは雄二ゆうじや、赤野雄二あかのゆうじや」


 それを聞いた三人は、面食らった様に驚くと、


「ゆうしゃ様、赤の勇者様ですね!」


 ひどく興奮したザビエル禿げが、勝手に俺の手を取りブンブンと握手してきた。後ろの二人も、おおーっ! と感嘆の声を上げながらキラキラした目で見てくる。


「おう! わしが赤野雄二様よ!」


「おお! ワシガ様、赤の勇者ワシガ様」


 少しおかしな呼ばれ方が気になるものの、その反応に気を良くした俺は胸を張って宣言すると、まるで神様を崇める様に三人がかしこまり、片膝をついて頭を垂れた。


「ところで勇者様、貴方様は幻族たる竜人であらせられますか?」


 しばらくして頭を上げたザビエル禿げが、よく分からん事を言ってくる。


「なんだ? その竜人って、わしゃサンダーライガーかっちゅうの! ありゃ獣神か? さっきも人間じゃっちゅーたやろが」


 面倒臭くなってぞんざいに答えると、


「ですが、その体は明らかに人間の物とは思えません」


 言われて体を見ると、さっき被った血が肌に吸収されて、真っ赤な色素が定着してしまっている。さらには皮膚が鱗の様な物に覆われ、爪なども獣の様に分厚く鋭くなっていた。


 雄二はしらなかったが、異世界転移したての不安定な状態に、魔力の詰まったドラゴンの血を全身に浴びて、更に大量の経験値によりレベルアップしたため、この世界で言う所の竜人に進化していた。


「なんだか鱗が気持ち悪いのう、よく分からんが凄い力が湧いてくるぞ!」


 竜人となった俺の全身を、熱い力の素が滾り、巡る。それはザビエル禿げ曰く〝魔力〟というものらしい。


 何やらけったいな世界に来てしまったが、こんな力が手に入って『ラッキー!』という気もして来た。まあ後でおっぱいには、勝手に呼び出した責任ってもんをキッチリとってもらうけどな。


「ところで、さっきからお前らの情報が脳裏に浮かぶんだが、こりゃどうした訳かいの?」


 視界に入る全ての物の情報が脳裏に浮かぶ。おっぱいなんぞはスリーサイズまでハッキリと認識できた。


「もしや、それは伝説に聞く、限られた竜人のみが持つと言われる〝龍眼〟ではありませんか? 極めれば全ての事物を見極めると言われるユニークスキルでございます、一度ご自身を見てみて下さい」


 ザビエル禿げに良く分からん事を言われて体を見下ろすと、自分の情報がツラツラと湧いてきた。


 〝赤井雄二、異世界竜人、35歳、B型、173cm、76kg、装備:異世界のバット、異世界のジャージ、異世界のパンツ、異世界のクロックス〟


 更に見続けると、


 〝投打:右右、ミートA、パワーS、走力B、肩力C、守備力A、「強振○」「パワーヒッター」「龍眼○」「チャンス○」〟


「パ◯プロやないか〜いっ!」


 パワーアップした雄叫びに、取り囲む三人がビックリした。それからは……




「なんやこら! ワシにメンチ切るなんざ百年早いんじゃ!」


 来るモンスター、来るモンスターをボコる。


「ま、待ってくれ!」


 喋れる魔法使いモンスターの制止に、


「誰が喋っていいって言った!」


 瞬時に飛びかかると、フルスイングでカッ飛ばした。


 この世界には魔王なる不埒者がいるらしい、何故か勇者として祭り上げられたワシは魔王の住むという暗黒城をガンガン攻略して行った。


 強振とパワーヒッターで会心の一撃を、龍眼で攻撃の見切りを、チャンスで間の良い攻撃を、バシバシ決めてサクサク攻略して、暗黒城内のダンジョンを制覇して行く。もちろんお供はおっぱい、剣豪、ザビエル禿げの三人だ。


「よく来たな、我は魔王軍四天王の一人、最強伯爵である」


 と名乗った奴を場外ホームランすると、目の前には禍々しい巨大な扉。


「これはっ! 悪名高き〝地獄の門〟この先に魔王が居る筈です!」


 興奮したザビハゲがまくし立てる。門の扉に手をかけると、一気に開ききった。その先に居たのは……


 ピッチャーマウンドから見下ろす魔王の姿。


「まっていたよ、私のライバル! 君を召喚したのは実は私、そこのおっぱいの魔法に合わせてね!……私も異世界人なんだ、その昔に召喚されたのさ。鍛え上げた壁投げ練習の腕を買われてね! 今度は私が呼び出す番、さあ三球勝負だ!喰らえっ!」


 こうして魔王の座をかけた殺人野球が幕を開けた。



 -----The End-----

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