異世界来たら焼印付いた
注意! 全話冒頭部分で終わります!
大学の講義を終えてから、24hスーパーでレジ打ちのバイトをして、アパートに帰り着いたのは深夜二時を過ぎていた。スーパーでもらった弁当を食べて、シャワーを浴びると、何も考えずに布団に入る。スマホを充電しながら何時もの様にケータイ小説のサイトにアクセスすると、お気に入りの更新分を読んでいる内に、いつの間にか眠りに落ちていた。
夢の中でスマホの音声入力時の様な女性の声が聞こえてくる、その声は明らかに、俺に二択を迫って来た。
〝魔導師〟or〝操剣師〟どちらを選択されますか?
真っ暗な世界に、〝魔導師〟と〝操剣師〟のアイコンが煌々と点灯している。
これはあれか、選べって事だな、う〜ん、ファンタジー物では魔法も剣も好きなんだが……どっちかというと〝剣〟だな。
そう思い〝操剣師〟にタッチすると、明滅して消えた。
「操剣師 LV:1 定着」
女の声が響くと、全身の血流が速くなる様な感覚を覚える。けっして悪くない、どちらかと言うと気持ちいいくらいだ。もしかしてこれが世に聞く〝夢精〟ってやつか? そう訝しんでいると、
〝長剣〟or〝魔短剣〟どちらを選択されますか?
今度は剣の選択か……短剣の〝魔〟が気になるな、じゃあ〝魔短剣〟で。
再度明滅した後、
「盟約剣 *** 定着」
ズシリと右腰に重量を感じる。手探りであらためると、寝間着のジャージに革ベルトが巻かれ、大振りのナイフが吊り下がっているのが分かる。あれ? 寝てるつもりが起きてるな、まあ暗闇の中では、寝ても立っても変わりはないが。
その後も急かされる様に光るアイコンを選択し続ける。
〝鑑定〟or〝幸運〟
〝隠匿〟or〝気配察知〟
〝通訳〟or〝念話〟
〝精神強化〟or〝身体強化〟
〝美貌〟or〝壮健〟
と選択が続き、最後に、
〝アイテム・ボックス〟or〝無限水筒〟
で散々悩んだ挙げ句、無限水筒を選んだ所で、一瞬の閃光の後……
当然の様に草原の真っ只中に立っていた。左手に重量を感じて見下ろすと、何故か哺乳ビンを持っている。
『え? 哺乳ビン? なんだこれ?』
一瞬後にトンデモなく混乱する俺の頭に、
〝異世界転移完了、名前=糸田礼二改めバイト・レジウチ。職業=操剣師LV:1。保有スキル=幸運、気配察知、通訳、精神強化、壮健。装備品=盟約剣***、古びたジャージ、襟のびTシャツ、穴あきパンツ。保有アイテム=無限哺乳ビン。以降これ以前の記憶は消滅します〟
頭の中にスマホ女の声が響くと、
〝プツン!〟
と後頭部に破裂音がしてブラックアウトした。
男は草原に突然出現すると、立ちくらみでも起こしたのか膝を折る。と、次の瞬間には〝ガッ!〟と大地を踏みしめて仁王立ちに周囲を見回した。
訳の分からないながらに、何故か精神は安定している。左手に持った哺乳ビンを、右手を腰にやってグビリとやると、甘く温い人乳がモワリと口に広がった。
「うむ、まずい!」
声高に宣言すると、右手でむず痒い股間をかこうとして、腰のナイフに当たる。
『うむ、武器だな』
身につける唯一の武装を改めようと、ナイフの柄を握ると、
〝ジュッ!〟
という音と共に、手のひらに鋭い痛みを感じる。
「あじゃっ!」
咄嗟に手を見ると、ナイフの柄に付けられた金属飾りの形に、羽を広げた鳥の様な火傷が出来ていた。
〝盟約剣***との契約履行、第一の封印【操】が解かれました、以降 盟約剣 操**に変更されます〟
頭の中に女性の声が聞こえる、と同時に鋭い痛みは嘘の様に消えて、火傷は古傷の様に色素沈着した。
グーパーしても毛ほどの痛みもない。そしてもう一度ナイフを握ると、自然と留め具の緩んだ鞘から一気に引き抜く。何故か、先程見た時より長く重くなったそれは、ボウイナイフと呼ばれる物に良く似ていた。
その事に満足すると、何故か分からないが心惹かれる方角に歩きだす。遠くに見える緑が心地よさそうに風に揺られているせいだろうか?
彼は知らないーーこの後狼に襲われる事をーーその際に投擲したボウイナイフを自在に操れる能力に気付く事をーーその先に盗賊に追われる貴族の娘が居て、助けると共に惚れられる事をーー送り届けた街で冒険者ギルドに加盟する事をーーカードを作る事をーーランクFから、メキメキと頭角を現して、ランクSとなる事をーー獣人戦士の奴隷を持ち、巨乳神官を仲間にする事をーー彼は知らない。
〝いや〜ないわ〜、哺乳ビンとかないわ〜〟
〝いやいや、そこはほれ、ちょっとした変化球っていうかさ、もう飽き飽きしてるじゃん? なんかリアクション見たかったっていうか〟
〝じゃあ失敗やんけ、ノーリアクションでグビリですやんか、しかもその後のテンプレ感! いかつすぎっしょ〟
〝だって! 幸運あげちゃうんだも〜ん! 折角、操剣師なんて変わり種用意したのにさ、霞むわ〜、そっちこそないわ〜〟
天界で口喧嘩があったとか、なかったとか……
-----END-----