だから、はやく『計画』を勧めないと
「あの二人に伝言、伝えて来た?」
紫桜帝は楽しげな笑みを浮かべて戻ってきた女官に尋ねる。
「はい、間違いなく。」
「そう。」
ふふっ、と、小さな笑い声を漏らす。
「なんだかんだ言ってあの二人は仲がいいんだよなね。」
「……。」
あれは仲がいいとかでは済まされないのではという言葉を飲み込み、女官は恭しく一礼した。
「主上。夜も遅いことです。早くおやすみになられてくださいませ。……お体にも触ります。」
「うん。わかっているよ。」
女官は紫桜帝の笑いを含んだ返答に、顔には出さないもののおそらくは呆れたように、もう一度礼をして退出した。
女官が心配するのも無理はないことだ。
……紫桜帝は生まれつき病弱であった。
それは体の弱い母親の遺伝であり、父親に似た弾正尹宮や母親の違う月影宮は全くそうではなく、至って健康である。紫桜帝にはそれが少し羨ましくもあったが、あまり強いとは言えない自分の体も、悪くはないと思わせる原因もあった。
『兄上……。大丈夫……?』
幼い頃、ちょっとのことで体調を崩しては寝込んでしまっていた自分のところへ、毎日のように、しかし彼の迷惑にならないかと不安そうに見舞いに来た妹の姿を思い浮かべ、人知れず笑みをこぼす。
月影宮の母親は、彼女と同じ、美しい翡翠の瞳をしていたらしい。
紫桜帝はその瞳が大好きだった。
「可愛かったなぁ。」
もちろん、今も可愛いのだけれど。
いつもはサバサバとした性格の月影宮が、自分が寝込むと途端に不安げにオロオロする姿を見られることが、幼い頃の紫桜帝の数少ない楽しみであり、また、今でも病弱と言える自分に対して、月影宮が絶えず心配してくれることは、帝という大きな責務に追われる彼にとって、大きな救いでもあった。
「だがら、はやく『計画』を勧めないと。」
愛する彼女のためにも。
紫桜帝は、そう、人知れず決意を固めるのだったーーーーー。
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宮たちの秘密の会合の翌日。
弾正尹宮から、急ぎの文を受け取った人物がいた。
「……肝試し、ですか。」
文の内容を見て、その人物は僅かに瞳を見開いた。
紺碧の髪に、夜空に赤をとかしたような、憂いを帯びた濃い紫色の瞳。
紫桜帝の儚げな色気や、中務卿宮の大人っぽい色気(弾正尹宮はまだまだお子様なのでそういうのはない)とはまた別の、妖しげで、どこか奔放な印象の、独特の雰囲気を持った青年であった。
言うならば、そう、まるで野に咲く、美しくも猛毒を持つ夾竹桃のようなーーーーー。
「彼も、面白いことを考えるものですねぇ。」
ククッと笑い、了解の意を示す文を書き、使いを送る。
「今回も、実に楽しいことが起こるような気がします。……今度こそ、手に入れて見せますよ、月の姫……。私の『目的』のために。」
彼の「秘め事」もまた、誰も知らない。
毎日更新するのは難しいですよね……。
うう、テストが迫ってる……。