これは一本取られたな
月影宮と時雨が自分たちの住まいに戻った頃……。
弾正尹宮、中務卿宮両者もそれぞれの院に戻るため、暗い回廊を歩いていた。
「全く、あなたのせいでこんなに遅くなってしまったじゃないですか、中務卿。」
「私のせいというよりも、仲睦まじい宮と紫桜が主な原因だと思うけれど、あの二人のせいとはいはないところを見ると大概君も『シスコン』なのではないかな?……兄を溺愛することはなんて言うのか、知らないけれど。」
「……兄上と同じにしないでください。」
先ほどの兄妹の会話を思い出したのか、弾正尹宮はげんなりとした表情を浮かべた。
「姉上はともかく、兄上は……。あれはどう考えても問題ですよ……。兄上には女御殿や更衣殿もおられるのに……。」
「彼は自分の皇后たちに本当の意味で興味は示さないよ。婚姻自体も形だけのもの。形だけはやるべきこともちゃんとやっているとは思うけどね。」
「……下品ですよ、中務卿。」
「初心だね、弾正。……紫桜が強い興味を示し、執着するのは『彼女』だけさ。」
「それはそれで問題なのですが。というか、かなりの大問題です。兄上は仮にも帝なんですよ?」
「大丈夫だと、私は思うよ。紫桜の本来の目的を推し量ることはできなくとも、彼ならば一人で叶えてしまうだろう。……たとえそれがどんな目的でもね。」
「兄上は、『あの人』のためならそれこそどんな手段も使ってしまうから怖いんですよ……。」
「まぁそれは否定できないよね。」
中務卿宮は肩を竦め、庭に咲く桜の木を仰ぐ。
「さて、と。弾正?」
「……?なんですか?」
「今から私の院へ来るかい?さっきの続き、しようか。」
「っ!?」
「さっきは宮に邪魔されてしまったからねぇ?」
「あ、あなたは時雨が……。」
「ああそうだよ。私は彼のことを愛している。しかしね、弾正。私はとても浮気性なのだよ。」
暗闇でよくは見えないものの中務卿が艶っぽい妖艶な笑みを浮かべているであろうことは簡単に予想できる。
「ふ、ふざけないでくださいっ!」
ドンッ、と、弾正尹宮が中務卿宮を突き飛ばす。
が、突き飛ばすために伸ばしたはずの腕を簡単に取られてしまう。
「っ!!」
「捕まえた。」
「な、中務卿!冗談もいい加減に……。」
「お楽しみのところ、申し訳ございません、宮様方。」
「っ!?」
声の方に視線を向けると、そこには紫桜帝付きの女官が立っていた。
こんな体制の二人を見ても声色を変えないことからして、おそらくは古参の女官だろう。
「……主上よりご伝言を承りましてございます。『お遊びも程々に』、と。」
「なっ……。」
「これは一本取られたな。」
唖然と目を見開く弾正尹宮と苦笑を浮かべる中務卿宮。
そんな二人をよそに、あくまで淡々と礼をすると女官は去って行った。
「仕方ない。今日は諦めるよ。」
「は、はぁ!?」
中務卿宮の力が弱まり、慌てて拘束から逃げ出した弾正尹宮に微笑みかていう。
「今日の続きはまた今度。それじゃあ気をつけてね、弾正?」
「え、な、中務卿?」
あっさりと身を引いた中務卿宮を唖然と見送る弾正尹宮。
「ッッ!!今度なんて、絶対にありませんからっ!!」
切実なる渾身の叫びがこだましたーーーー。
遅れました〜…>_<…
今回は宮様2人組のお話です。
なんだかどんどん話がおかしな方向に行ってしまいますねっ(汗)