疑問形で答えられても困ります
「あのね。実は今度宮中で『肝試し』をしようと思っているんだよ。」
「は?」
意味がわからないと言うように、弾正尹宮は眉根を寄せた。
「だからね、弾正、『肝試し』だよ。」
「いえ、そうではなくて。僕も『肝試し』ぐらいわかります。……どうしてそれを?」
「……?思いつき?」
「……疑問形で答えられても困ります。」
たまに、この帝は思いつきで宮中イベントを作ることがある。それは花見大会だったりと、多種多様であり、そのせいで家臣は多々振り回されているのだが……。
「どうしてまた『肝試し』なんかを?」
「うん……。なんでだろう?」
「……ですから、疑問形で答えられても困ります。」
「いいじゃないか、弾正?」
ククッ、と笑いながら中務卿宮は同意の意を示した。
「『肝試し』ねぇ?実に面白そうだ。私は紫桜に賛成するよ。」
「『肝試し』かぁ。わたしも賛成。面白そうだよ。時雨は?」
「……構いません。」
三人の返答に弾正尹宮は大きくため息をつく。
「……別に反対するつもりはないですけれど。」
「ああ、なるほど。弾正は幽霊、怖いの?」
的を得たりとばかりに、紫桜帝がからかうように言った。
「なっ!ち、違います!別にそんなわけでは……!」
「そういうことか。ふふっ、やはり君は可愛いね、弾正?」
「だから違うと言っているでしょう、中務卿っ!」
「弾正は情けないなぁ。年下の時雨は大丈夫なのに。」
「あ、兄上っ!!」
顔を真っ赤にして必死に否定する弾正尹宮。見かねた時雨が助け舟を出した。
「陛下。……肝試しって、何処でするんですか?」
「ん?ええっとね、実は王宮の近くに、今は使われていない廃宮……『後雨宮」という場所があるんだよ。そこで開催しようと思う。貴族たちをよんで度胸試しをするつもりだよ。その催しに、君たちも参加してくれないかな?宮たちが参加した方がみんなもやる気が出ると思う。それに、せっかくだから楽しもうよ。」
「なるほど。……今回は『任務』ではないと言うことか。」
「うん、違うよ。今回はちょっとした遊び。」
「……本当に?」
中務卿宮が探るような視線を紫桜帝に向ける。
「本当だよ。」
ニコッと、腹の読めぬ笑みでそう返す。
「……ほう?」
意味深な表情を浮かべる中務卿宮。
「兄上。その催しにはわたしも参加していいの?」
「もちろんだよ、宮。いつものようにおいで。」
「それじゃあ時雨と参加するね。」
「楽しみに待っているよ、僕の可愛い宮。」
中務卿宮も同意するように頷く。
「ならば私も参加しよう。弾正はどうする?」
「ああ、もう、わかりましたよ!参加しますよ!」
ヤケクソ気味にそう叫ぶ。こうして皆の参加が決まった。
「それじゃあこのことを彼にも伝えてくれる、中務卿?」
「了解。」
「ありがとう。それじゃあ……夜も遅いからお開きにしよう。……宮はこのまま僕といてほしいけれど。」
「あ、兄上。」
「ふふっ、冗談だよ。」
冗談、とは言うが、紫桜帝の目は半分本気であった。
こうしてその日は解散となったのであった。