僕が君との約束を破ったことがあったかい?
「いらっしゃい。」
少し無作法なほど賑やかに入手つしてきた宮たちを部屋の主……紫桜帝は穏やかに迎え入れた。
「御機嫌よう、兄上。」
「うん。」
にこやかに声をかけてきた妹宮を見て、紫桜帝はとろけるような甘い笑みを浮かべ、その体をぎゅっと抱き寄せた。
「ごきげんよう、僕の宮。会えて嬉しいよ。」
琥珀色の瞳が熱っぽく月影宮を見つめて来る。
しかし、それはいつものこと。
動揺することなく月影宮は嬉しげに返した。
「私も兄上にお会いできて嬉しいよ。」
「!宮……。」
感極まったように、紫桜帝が妹宮を抱きしめた。
「……兄上……。」
そんな二人を頭痛をこらえるようにみやる弾正尹宮。
「まぁいいじゃないか、弾正。さみしいのならば、私も君にやってあげようか?」
「だから寝言は寝て言ってください、中務卿。」
「それは残念。それじゃあ私は時雨君とさみしさを紛らわせよう。」
「……触らないでください、変態宮。」
「うん、新しい呼び名だね!」
こちらはこちらで実に楽しそうである。
「ねぇ、宮。」
妹宮を膝の上に抱きながら紫桜帝はいつになく優しげに言う。
「今度、僕と一緒に夜桜を見よう?」
「夜桜?」
「うん。……二人っきりで、ね?」
優しく、しかし少し不安げな問いかけだった。断られることを恐れているような、そんな言葉。
「いいよ。……でも兄上、夜風は身体に障ってしまう。わたしは兄上が身体を壊してしまったら悲しい。」
「ああ、宮は優しいね。……大丈夫だよ、愛しの僕の月。ここのところは体の調子がいいから。」
「本当?」
「うん。」
「ならいいよ。無理しないと約束してくれるならば」
「もちろん、約束するよ、宮。僕が君との約束を破ったことがあったかい?」
あっという間に二人だけの世界を作り出す二人。(もっとも、月影宮にそのつもりはなく、作っているのは主に紫桜帝)
「お二人とも、その辺にして置いてください。」
淡々とした様子で、しかし少し咎めるように言う時雨の言葉にやっとの事で紫桜帝は月影宮から視線を変えた。とはいえ、身体を離しはしないが。
「ああ、うん、そうだね。」
おっとりと頷き紫桜帝は早速本題切り出した。
「僕が今日君たちを呼び出した要件はね……。」