変わらぬ歴史も変わる運命
またしても挿絵、というか写真です。脳内変換でお願いします。
「野符『GHQクライシス』!」
人里を突如襲ってきた大きく歪な機械人形を相手に、私は弾幕で応戦している。
「無駄よ。対弾幕コーティングの施されたこのキメラスタッグの装甲には、並大抵の弾幕は通用しない」
「何故だ、どうしてなんだミスティア!何でお前が奴の手先なんかに…!」
それに乗り込んでいるのは、私の教え子であるミスティア・ローレライだ。
「狭過ぎる世界の中で、歌を歌って満足してるだけの井の中の蛙だった私に、弾蔵は外の話をしてくれたわ。今ここにいることが馬鹿らしくなる位のね」
頭部と思しき箱状の部分に付いた筒から、今も目視不可能な程の高速で放たれる弾は、着弾するだけで大きな爆発を起こして周囲を巻き込む。木造ばかりの人里では火はあっという間に広がり、火消しに乗り出した自警団も、他の機械人形に追われて破壊消火が難航しているらしい。
「もう止めろ!今ならまだ引き返せる。早くそれから降りて…」
「ハッ!よく言うじゃない。どうせ降りたらすぐにお縄でしょ?…悪いのは貴方達よ。こっちは交渉しているのに、貴方達は私達の温情に唾を吐いた!」
そう、魔理沙がファンタズムキャリアに向かうのに続き、人里の住人達もまた、私や妖怪達を中心としたレジスタンスを結成、破壊に乗り出した。しかし弾蔵の言葉はハッタリなどではなく、どんな攻撃も全く意味を為さなかった。今人里が受けている襲撃は、その報復という訳である。
「何が交渉だ!あの船の存在は、最早恫喝というレベルを凌駕している!あんなものが外に解き放たれたら、直ちに各地で火の手が上がるだろう。平和は破られ、全世界が灼熱の戦争に焼き尽くされる…弾蔵とお前達、そしてファンタズムキャリアがその中心だ!」
弾蔵率いる彼らは、自らを『原初の歯車』と呼んだ。引き裂かれた世界を一つにし、止まってしまった歴史の歯車を回す為に最初に動き出す原初の歯車である、と。だが、今まで自身の能力をして歴史書を編纂してきた私からすれば、その歴史は直視に堪えないものとなろう。この幻想郷ですら、歴史の表舞台に出ることのなかった凄惨な恥部があるのだ。表も裏もなく、ただ一つの黒い歴史が刻まれるなど、私には耐えられそうにない。
その時、一筋の紅い閃光が、機械人形の装甲を貫いた。続くのは、少女の声。
「キュッとして、ドッカーン!」
それを合図に、機械人形は轟音と地響きを伴って爆散した。乗っていたミスティアは宙に投げ出されたが、すぐに体勢を整え着地する。
「部下への待遇がなってないわね。旗艦だけ強力にプロテクトをかけて、下っ端のはこんな劣悪な仕様…フランの能力位防げるようにしないと」
「湖の吸血鬼!」
現れたのは、紅い悪魔・レミリア・スカーレットと、その妹フランドール・スカーレット。
「どうフラン?『破壊』できそう?」
「…駄目、ファンタズムキャリアと同じ。こういうところはしっかりしてるみたいだね」
破壊、というのは恐らく妹の方の能力のことだろう。あの妖怪――源弾蔵がミスティアにかけたプロテクトが、フランドールの能力を防いでいるようだ。
「…こちらイールアイズ。誰か応答して」
おもむろに、ミスティアが懐から無線機を引っ張り出し、コールを始めた。
『…こちらスプリッター・レッグ。何かあったのか?』
「吸血鬼の襲撃に遭ったわ。ヘッドを幾つかこっちに寄越してくれない?」
『今ヘッド部隊はファングと共に命蓮寺を制圧している。動かすことはできん』
「仕方ない…スティンガー?」
『全部聞いてる。蜂は朝まで出せない。三光鳥に乗ってトライヘッドが向かったわ』
イールアイズやらスプリッターやら訳が分からないが、スティンガーと呼ばれた声は聞き覚えのあるものだった。
「その声はリグルか?リグルなのか?」
『ちっ、出たよ低身長頭突き教師が…PADSでも使って黙らせてよウナギ。私はクライオ呼んでくるから』
「ウナギ言うな」
彼女に私の声が届くことはなかった。今まで言われたこともないような罵詈を聞かされ唖然とする私に、レミリアは言った。
「生徒からの悪口を受け止めるのも教師の責任よ。ほら、これ」
そして私に、取っ手と引き金の付いた黒い筒状の物体を渡してくる。
「これは?」
「サンライズ。パチュリーが作ったマジックアイテムよ。ロイヤルフレアの140倍以上の属性値を持つ光弾を発射する、日属性武器。弾幕ではないから、キメラスタッグの装甲も容易く溶かし去るはず」
「何故、こんなものを私に?」
私の質問に、彼女は僅かに俯き、答えた。
「…パチュリーがね、嘆いていたの。ファンタズムキャリアの開発に自分が関わらなければ、こんなことにはならなかった、ってね。――お願い。私と彼女の代わりに、小櫃達と敵を討って」
言い方は悪いが、それは普段の彼女の態度からは想像もつかない程に真摯な、そして誠実な願いだった。
視界の隅で、人里を焼く炎に照らされながら夜の闇へと消えていくミスティアを、無数の蝙蝠が追跡している。フランドールはレミリアと事前に打ち合わせていたのか。
「さて、お出ましのようね」
いつも通りの自信たっぷりな顔に戻ったレミリアが呟くのと、そのすぐ近くをレーザー状の液体が一閃するのと、ほぼ同時だった。
「…?!」
見れば、それが通った跡が白く凍り付いている。こんなことができるのは、私の知りうる限りチルノだけだ。
「命中精度に若干難があるな」
ところが私の予想は大きく外れ、新たに出現した機械人形からの声は彼女のものでなく、
「だからミサイルを使えって言ったのに」
「いいじゃない、液体窒素銃は弾切れしないし」
サニーミルク、ルナチャイルド、スターサファイアの三人組だった。
亀と蠍を合わせたような胴の下に、赤く塗装された金属製の腕に支えられて大筒が据わっている。そこから滴る液体が先のレーザーと同じものであれば、この機械人形が犯人ということになる。
「こちら幻想郷解放軍第3小隊所属パラダイスフライキャッチャー。エリアH21-Cに於いて、危険因子の発現を確認。これより強制撤去に入る」
「三光鳥、変身!!」
「モード・レプタイル!!」
彼女達の声に合わせ、機械人形はその容姿をあれよあれよという間に変えて見せた。縮めていた後脚を一気に伸ばし逆立ちしながら、前脚の下を通っていた巨大な刃物を腹側に向けたかと思えば、今度はそれを支えに脚を浮かせ尻尾と前脚を入れ換える。そのまま前脚で立ち上がると、最早前脚は『前』脚ではなくなった。後脚は翼に似た形状の刃物と鉤爪の付いた腕となり、『背中側』となった刃物四振りが畳まれ、体の後ろで隠れていた別の白い頭が露になる。
「酒呑童子ものしたこの機動兵器に勝てるかしら?」
酒呑童子――それは即ち伊吹萃香のことだ。鬼の腕力、それに加え『密と疎を操る程度の能力』を持つ彼女すらこの機械人形に勝てなかったと、三妖精改めトライヘッドはそう言っているのだ。私は空いた口が塞がらなかった。
「運命は近付いているわ…慧音、スカーレットデビルからの最後のプレゼントよ!」
それを気にも留めず叫んだレミリアの宣言で、吸血鬼対機械人形の戦いの幕が上がった。
実際に作ったこのバイオニクルも、ちゃんと完全変形するんですよ。凄いでしょ。(おい