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裏切り者の処遇

 竹林の中というのもあるが、朝早くから打ち水をした永遠亭の庭は、人里の広場より大分涼しい。そして日陰の縁側はさらに体感温度が下がる。

 俺はその縁側で、今後の動きについてもう一度思案を巡らしている。

 ファンタズムキャリアに侵入し、人質達を解放できたとして、弾蔵の居場所が特定できないと意味が無い。恐らく弾蔵の『遮り妨げ害する程度の能力』は、ハッキング用プログラムの送信元を逆探知することも防いでしまうだろう。そもそも、そのプログラムが開発の時点で既に組み込まれていた可能性もある。後者であれば、弾蔵はにとりや素子と関係の深い人物であるに違いない。あるいは、人里で見た映像は事前に録画されたもので、弾蔵が人質の中に紛れているかもしれない。源弾蔵、というのが本名とも限らない。

「…これでは『将軍』失格だな」

「あら、いつから人民軍が結成されたのかしら」

 背後の部屋の障子が開き、中から永琳が現れる。携えるは包帯と特製の薬剤。

「永琳か。どうだ、ルーミアの様子は」

「爆発の衝撃で四肢は飛散、重篤な内臓出血を起こしていたけど、さすがは妖怪ね。まだ意識はあるわ。妖怪特有の強い自然治癒力を、新陳代謝の異常活性化で爆発的に高める薬を投与しておいたわよ。後はしばらく私の栄養剤を飲んで安静にしていれば、二日と待たずに全快するでしょう」

素子がプログラムの作成を終えて香霖堂の外に出ると、重傷を負ったルーミアと、血塗れの欧我、そして奇怪な機動兵器の残骸に出会した。一時は弾蔵側についたルーミアの処遇について揉めたが、取り敢えずは永遠亭で治療を受けさせることにした。

「素子は、ルーミアとの面識は?」

「あの様子だと無いみたいね」

「ほう、なら問題なさそうだな」

俺はやおら立ち上がり、障子に手をかけた。

「どういうこと?」

「尋問だ」

それだけを女医に言い残し、病室に足を踏み入れる。中には計4人。鈴仙、欧我、素子、ルーミアだ。

 「生きているか、裏切り者」

「この程度で死ねたら苦労しないよ…と言うかウサギさん、この人達に面会時間を教えてやってよ。いつまでも質問攻めじゃ、治る傷も治らな…ぐぅっ?!」

床に臥せったままのルーミアの首を、ありったけの力で締め上げる。かつて自分が彼女にされたように。たとえ相手が自分の家族・友人であったとしても、俺は其奴が自身の目的の為に他者を顧みないのならば容赦しない。地の果てまで追いかけ撃滅する。元々俺がバウンティハンターになったのも、世の中に蔓延る‘悪’を、自己の正義の実現によって滅ぼす為だった。故に、俺は信頼と油断を履き違えない。盲目になることなど以ての外である。

「小櫃さん?!」

「止めるな素子。ルーミア、源弾蔵はどこにいる?」

「ぐ…うう…」

「喋るな。思い浮かべるだけでいい。奴の能力で、ばらさないようプロテクトがかかっているだろう」

これは実を言うと、俺の訓練でもあった。スキャニングを利用し、相手の考えを読み取る練習だ。地霊殿で出会ったさとりの能力は、犯罪捜査に大いに役立つ。俺が技術でそれを習得すれば、この先俺を助けてくれるだろう。

「……」

バイオエナジーの流動パターンから、「水」「近く」「研究施設」と読めた。まだまだ未熟でアバウトだが、これから積極的に使用し磨いていこう。

「…ふむ」

「かは…げほっげほ…何するのよお兄さん…」

「水、近く、研究施設…」

ルーミアを無視して、その場にいた全員に伝えた。

「日が沈んだ後ファンタズムキャリアに向かうぞ。夜影に乗じて侵入、人質を救出し次第各自水のある場所を徹底して調査することとしよう」

「水のある場所…玄武の沢かしら?」

「他にも霧の湖、大蝦蟇の池、守矢神社の裏…」

「とにかく、今は腹ごしらえだ。もう正午過ぎだし、皆空腹だろう?ほら、いつまでめそめそ泣いているつもりだ小僧」

 俺が声をかけた先には、畳にうずくまって号泣する欧我の姿があった。自決したルーミアを酷く心配して、命に別状がないと知った時から男泣きを始めてしまった。

「うう…ルーミア…」

「…駄目だな。まるで話を聞いていない」

「そっとしておいてあげなさい。PTSDになるよりずっといいわ」

「…そうだな」

心的外傷後ストレス障害。略してPTSD。人間が精神的に強いショックを受けた後、その出来事に関連する事物を異常に忌避するようになったり、その当時の記憶が欠落したりする、心理的防御現象。かつてコーカサスの暁風荘に住んでいた頃、同居していた沖田源三という老人が患っていたらしい。バイオエナジーの流動パターンを見る限り、欧我はただルーミアの無事を喜んでいるだけのようであったから、その心配はなさそうだ。

 そんなことよりも、まず最初にここにいる全員の原始的欲求を満たさねばならぬ。献立をあれこれと考えつつ、俺は部屋を出て台所へ向かって歩きだした。

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