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夢想天生と無双転生

 博麗の巫女。

 それは異変解決を生業とし、幻想郷の結界をスキマ妖怪と共に管理する、幻想郷になくてはならない存在。本人には直接会っていないが、人里に保管されていた資料――幻想郷縁起に、当代の巫女である『博麗霊夢』についての記載があった。

 泥棒魔法使いこと霧雨魔理沙曰く、彼女は自分の友達で、修行もほとんどしないのに高い能力を持っているらしい。いわゆる天才というものだろう。

 そういった情報から俺の頭の中で事前に構築した人物像は、今まさに自分の目の前でお祓い棒と御札を構える腋の出た巫女と清々しい程に一致している。具体的には、『努力をしていない』というのが見え見えだった。恐らく戦闘中は霊力で無意識に強化しているのだろうが、華奢な体は常人と同程度にしか力を出せないはずである。

 かく言う俺も総合的身体能力は常人を超越こそすれ、力に於いては妖怪のそれに遠く及ばない。だが俺は、もしもこの巫女が激昂し弾幕ごっこのルールも無視した戦いを挑んできたとしても、自分にはこの世界のどの種族も持ち合わせない、決定的なアドバンテージがあると確信している。

 とはいえ。

 やはり無用な戦闘は避けるべきだ。

「帰れ。これは異変ではない」

「馬鹿言うんじゃないわよ。こちとらあんたらのせいで迷惑しているの。邪魔するなら外来人でも容赦しないわ」

「俺も鈴仙も無関係だ。危険がないことを人里に知らせに行くだけだ」

「あっそ。じゃあ早くそこ通してよ」

その言葉に、俺の思考は敏感に反応した。仮に俺と鈴仙が道を空ければ、霊夢は間違いなく素子に戦いを挑むだろう。素子は敗け、ファンタズムキャリアは巫女の権限で封印されることになる。――きっと、モノポールドライブと共に。

「…鈴仙、先に永遠亭に行け。この巫女を()める」

「え?む、無理よ!いくら小櫃でも博麗の巫女なんかに勝てっこない…」

「安心しろ。必ず勝って帰る。()()()の続きがしたいだろう?」

俺の返答を聞いた鈴仙は若干頬を染め、小さく首肯して竹林の方角へと飛んで行った。案外うまくいくものである。

「のろけはその辺にしてくれない?さっさと終わらせてお茶が飲みたいから」

苛立ちを口にする霊夢。バイオエナジーの流動を見たが、この巫女は思ったことをかなりずけずけ言うタイプのようだ。表情も、自分の感情を隠すつもりなど微塵も見受けられない。

「そうだな。俺も早く仕事に戻りたい。短時間で終わらせよう」

博麗の巫女との弾幕ごっこ。そう考えると、胸の内に不思議な高揚感が沸き上がってきた。その奇妙な感覚に任せ、

「一つ、警告しておく」

彼女に言い放つ。

「俺はお前のラストワード『夢想天生』を制限時間無しで使われても、その状況を打破できる。いや、その程度ではぬるい…徹底的に完封し叩きのめす」


 夢想天生。

 霊夢の持つ『空を飛ぶ程度の能力』の真髄ともいえる究極奥義。あらゆるものから完全に“浮く”ことで、外的要因からの一切の干渉を受け付けなくなる。すなわち彼女に触れることができなくなり、この技を弾幕ごっこで使われたなら、設定された制限時間中彼女の発射する弾幕から逃げ回るしかない。

 しかし、俺は地底での考察に於いて、この技の最大の特徴たる『無敵状態』が自分の前に全く意味を為さないことに気付いている。それこそが俺のアドバンテージ。アームキャノンを扱うのは俺だけだからだ。

 博麗の巫女は代々ヒトが務めてきた。ヒト以外が博麗の巫女になることは有り得ない。つまり、博麗の巫女がヒトという一種の生命体であるという大前提から逃れられない以上、『生命の根幹そのものへの直接攻撃』から逃れる術などありはしないのである。

 そういった点を抜きにしても、俺にはそもそも弾幕ごっこ自体が滑稽な程に生ぬるい。放たれる弾幕は見栄ばかり張っていて実用に適さない。機関銃でも持ってこいとでも言いたくなる(実際、自分は機関銃の掃射を避けてきた)。超音速で飛ぶ致死性の小さな弾丸と、プロ野球選手が投げるような速度で飛ぶ手加減された分かりやすい弾丸と、どちらがいいか、である。

 「神技『八方鬼縛陣』!!」

ここまでの戦闘で、既に霊夢は6つスペルカードを使用している。霊弾、御札、レーザーのそのどれも恐るに足らず、彼女が勝手に一人で疲れているだけで、今ならば臍で茶を沸かせそうだ。

「…さて、」

戯れはこの位に留めておこう。俺の友人を不当に傷付けようとしたこの愚かな巫女に、少しお灸を据えてやらねばなるまい。

「…覚悟しろ。メガトン級の一撃だ!!」

アームキャノンのディスプレイを開き、スペルカードを選択。『承認』の文字が表示され、ディスプレイ収納と同時に銃口が展開されていく。真上に高々と掲げトリガーを引き絞れば、マルチシューターマシンで圧縮されたバイオエナジーがキャノンに収まり切らずにはみ出し、それが驚異的な速度で膨れ上がって、直径6mはあろうかという巨大な球体を作り出した。

「爆誕『バイオロジックスーパーノヴァエクスプロージョン』!!」

スペルを宣言し、大きく振りかぶり光弾を投げつける。

 着弾したと思しき爆発によって、辺り一面が強烈な光に包まれた。

 この時、俺は確信した。この世界に転生し、第二の人生を歩み始めた俺は、真に目指すべき『人類最強』へ、ゆっくりと、しかし着実に進んでいることを。

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