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終止符

 疲労のあまり丸一日眠りこけていた。月明かりを受けながら布団から起き上がると、全身が悲鳴を上げ抗議する。

「…長い戦いだった」

実際には2日足らずで終結しているのだが、経験した中でも最大規模のテロリズムだったのは間違いない。

 眠りから覚めた俺は、バイオロケーションで永遠亭内を探った。薬の調合をする永琳、人里で発生した怪我人達の看護を行なう鈴仙とてゐ、気絶している弾蔵とそれを見張る霊夢と輝夜、そして縁側にもう一人。

 俺は最初からそう決められていたかのように、縁側の女の元へ向かった。

「あら、意外に早かったわね。調子はどう?」

扇子を持った金髪の妖怪。彼女こそが、この幻想郷の創始者兼管理者、そして俺を西暦2129年の地球から引きずり込んだ張本人、八雲紫である。

「四肢に砂が詰まったようだ。正直動きたくないな。お前はどうだ?」

「これでも(弾蔵)より年上よ?私が遅れを取るはずないし、さして疲れてもいないわ」

 空を核融合炉から救出後、ファンタズムキャリアは予定通り魔法の森北端に墜落、小破した。船内から脱出した作戦メンバーを待ち受けていた光景は、弾蔵と紫との弾幕戦であった。

 精鋭『零式艦上戦闘機』や強攻『無制限潜水艦作戦』、解放『大東亜戦争』など、兵器を模した弾幕を用いる弾蔵に対し、紫は魍魎『二重黒死蝶』や境符『四重結界』、廃線『ぶらり廃駅下車の旅』などで応戦、勝利。しかし弾蔵は決着が着いたにもかかわらず尚も抵抗、紫の行動を能力で封じ、腰に差していた刀『雷斬』で以って斬殺を試みた。俺はすぐさまアームキャノンを発砲、雷斬を弾き飛ばし、欧我が雷槌『クエイク・オン・テスラ』を繰り出し弾蔵を絶入させた。山に戻る欧我と文、にとりと別れてから、空と弾蔵を永遠亭に運び、今に至る。

 今回の幻想郷拡張計画の死傷者は人里だけで300人以上。オリジンギアの秘密基地が自爆したとの情報も入ってきている為、推定1700人が死亡したことになろう。永嵐異変など目ではない。

「…宴会なんて、開けないわね」

胡散臭さを振りまく調子から一変、紫が暗く独りごちた。

「オリジンギアの隊員達への懲戒処分が決定した。弾蔵は『1世紀出て行く』そうだ」

「…そう」

幾ら妖怪の賢者と呼ばれていようと、その精神面については普通のヒトと変わらない――いや、精神攻撃に弱い妖怪のこと、普通のヒト以上に脆いのだろう。彼女には悪いが、俺は()()の真相を問うた。

 弾蔵の話は、実際に第一次月面戦争に関わっていた紫の供述で裏付けが取れた。地上と月との連絡を絶ったのは、他でもない紫本人であるということも。当時は紫の権威も今程強大ではなく、幻想郷建設を実質的に牛耳っていた先代の天魔――天狗達を束ねる頭領――の命令に逆らえなかったのだ。ただでさえ責任を感じていた上に、弾蔵が全世界を巻き込みかねない逆襲を計画する程に自分を恨んでいたことを知った彼女は弱り目に祟り目、犠牲者の数も馬鹿にならない。

 「…席を、外すぞ」

「……」

立ち上がり、縁側から廊下に入る。自分の足が踏み込む一歩一歩で床が軋む音に、背後ですすり泣く少女の泣き声が混じった。


 およそ2週間後。

 魔法の森の北端、丁度鬼や土蜘蛛達の活躍でファンタズムキャリアの撤去された墜落跡地が整備され、慰霊碑が建てられた。

 人里の復興作業と並行して造られたそれは、底辺1m、高さ6m以上の四角錐の玄武岩だ。その表面には、今回のテロリズムによる犠牲者の名が敵味方お構いなしに彫られている(ダークボールことルーミア、イールアイズことミスティア、スティンガーことリグル、ファングこと今泉影狼、スプリッターこと赤蛮奇は生存が確認された)。正確には、オリジンギアの隊員達は、大抵が自分の本当の名前すらわからないような者ばかりで、弾蔵直々に与えられたコードネームが寂しく綴られるのみであったが。ひょっとすると、弾蔵が彼らにコードネームを与えたのは、単に本名を隠す為でなく、彼が名も無き者達にアイデンティティを与えようとした優しさ故だったのかもしれない。

 犠牲者の親族、友人、同僚など、人妖問わず無数が参拝の列を作った。無論、ハッシュハッシュ・パラライザー作戦のメンバーも、である。

 稗田阿求の視察及び参拝の後、その場所は幻想郷縁起に『クラッシュサイト(墜落跡地)』と名付けられ記された。周囲には弾蔵の能力を応用した特殊な結界が張り巡らされ、規模の大小に関わらず内部でのいかなる紛争・戦闘及びそれを引き起こす行為も行なえなくなる。外部からの攻撃も完全にブロックされるクラッシュサイトは、ある種安寧の地となり、争いを好まぬ者達が集うようになった。

 俺と欧我は、『幻想郷を救った英雄』ともてはやされた。鈴仙、文、チルノ、素子やにとり、そして何より霊夢が何故そう呼ばれないのかは最後までわからず終いだったが、俺はオリジンギアの基地に単独潜入した点、欧我は核融合炉に自ら飛び込み空を救出した点が評価されたのだろう。俺への数多くの恩賞の中でも、当代の天魔からは、事前のアポイントで山の一角を借用できるよう手配された。

 天魔曰く、弾蔵は鴉天狗で、山を追われたかつての同僚だという。源の家系は先祖代々呪われており、本来翼として形成される部位が翼の形にならず、蜥蜴の爪のような――恐らくは遺伝子異常による『先祖返り』で、鳥類の祖先たるデイノニコサウルス類の前肢を彷彿とさせる――形状になってしまうらしい。閉鎖的な天狗のソーシャリティーが、弾蔵を孤立させ、その荒んだ精神(こころ)をことさら蝕んでいったのだ。幻想郷と外の世界を救っただけでなく、彼が自分の誤りと過ちに気付くきっかけを与えてくれたと、天魔はそう言ったが、それは勘違いだ。

 「のけ者は、どこに行ってものけ者だ」

クラッシュサイトに結界の敷設を終え、博麗神社から外に出て行く時、弾蔵はそう言い残した。きっと、自ら選んだ1世紀の追放期間で、彼の怒りも悲しみも癒えることはないだろう。貫くべき道を誤った者には、過ちを認めず他者のせいにして暴れ回るか、自棄になって野放図に走るか、或いは全てから逃げ出すかしか残されてはいない。だから多くの人が、嘘と建前で塗り固めた船に乗ってのらりくらりと生きるのだ。それが、何より悲しい。


 弾蔵の件が一段落した後で、毎年恒例という夏祭りが開かれた。自粛するよりも楽しんだ方が犠牲者も浮かばれるのでは、という里長の機転のようだ。鈴仙と出かけた俺は、射的で跳弾を駆使して景品の4割を掻っ攫ってから、好物の一つであるチョコバナナを買い、二人で分け合って食べた。道中欧我と文を見かけたが、取材の邪魔をする気にはなれず、遠巻きにスルーした結果、二人は全くこちらに気付かなかった。

 鈴仙が型抜きに興じている時に、ふと思い立ち、今一度二人でクラッシュサイトを訪れてみた。

 クラッシュサイト周辺は開けて見晴らしが良い。遠くで打ち上がる花火は少し遠いが、誰にも邪魔されることはない。

「…綺麗だな」

「そうね…」

丈の低い草むらに座り込み、満天の星空を眺める。ふと視線が交錯し、そのまま何の脈絡もなく、しかし極々自然に、双方の唇が重なった。

 源弾蔵と彼が率いるオリジンギア、鋼鉄雲ファンタズムキャリアはこの世から完全に姿を消し、『幻想郷拡張計画』という一大事件は外界に知られることなく幕を閉じた。だが、頭上に広がる広大な宇宙からすれば、それは星の一瞬の瞬きにも値せぬ程に小さな出来事だったのやもしれぬ。

 …静寂が広がる。

 それならばきっと俺の生も、連綿と続いてきた生の連鎖も、取るに足らないものであろう。それでもいい。俺はどんなに矮小な存在であろうと、自分の信じる正義を貫き、自分のできる範囲で世界をより良くしていきたい。

 「…I carry through my justice, for the best, to the better.」

「え?」

「気にするな、わかるまい」

私めの展開するビツケンヌワールドの一つが終幕しました。


このサイトで小説を書き始めてもう2年以上になりますが、完結したのはこれが初です。アクセス履歴を励みにがんばってきた甲斐があった…

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