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解放せし者

 ハッシュハッシュ・パラライザー作戦は中止を余儀なくされた。にとりからの連絡を受けた俺とチルノは、基地内部への侵入を放棄し、ファンタズムキャリアに飛んだ。

「ええい、しつこい!」

「チルノ、俺の後ろに回れ。…穿孔『バイオロジカルボア』!」

出入りする度展開されこちらの邪魔をしてくる弾幕を、例のスペルカードで強行突破する。スペルカードルールなど恐るに足らぬ。

「急げ!」

 弾蔵との戦い、それは既に弾幕『ごっこ』には程遠いものであった。

 放たれる妖力弾の密度・速度・破壊力の三拍子が、通常のスペルカードルールの規定を完全に無視している。『異変ではない』、彼がそう宣言した理由は察していたが、よもやここまでとは思っていなかった。

 しかし、『予期せぬことを予期する』を師匠に叩き込まれた俺がそんな程度で遅れを取るようなヤワな男だと思えば大間違いだ。

 ある意味では、俺はこんな戦いを望んでいたのかもしれない。異変が起きても解決手段は弾幕ごっこという遊戯、死傷者が出る例は極めて稀なこの世界――つい3週間前に起こった『永嵐異変』で大勢が死んでいるが、それは例外中の例外だろう――で、俺はかつてのような、一瞬の判断ミスが命取りになる戦いをせず、その腕を鈍らせるばかりだった。戦うことでしか自己の正義を実現できなかった俺には致命的だ。いつの間にか、俺は弾蔵の弾幕を避け、切り裂き、吹き飛ばすことで得られる、かつての自分が蘇っていく手応えに快感を覚え始めていた。

 コンバットハイ。加勢することもままならずに、俺と弾蔵の様子を遠くから眺めるチルノにはそんな感じに映るであろう。いつからこんな戦闘狂(バトルジャンキー)になったのか。

 そんな折に、チルノの持つ無線機が鳴り響いたのだ。


 ファンタズムキャリアの弾幕をこともなげに回避しながら、俺は基地からの脱出中の出来事を思い出していた。

 格納庫に辿り着くまでのルートは最短ではなく、歩哨を回避しやすい道を選んで通ったものである。ゲートまでの道だけはチルノは完璧に把握しており、彼女について強行突破する、はずだった。

 「小櫃ぅぅぅぅぅぅぅぅ!!まだだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!待てぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

そのルートが、物資や兵器の搬送用でなかったらどんなによかったか。その広さをいいことに、弾蔵が機動兵器『パラダイスフライキャッチャー』に乗り込み追随してきたのだ。俺とチルノを迎え撃つ仲間まで巻き込んで、マルチプラズマキャノンが火を噴き、リキッドニトロジェンガンが一閃し、高周波振動ウィングブレードが縦横無尽に振り回される。

 基地から出るまでチルノは飛ぶことができない。偶然発見した軽トラックの荷台にチルノを載せ、環境保全など露も考えずアクセル全開で爆走させる。意外に低燃費で助かった。

 だが、弾蔵の攻撃を避けながら走るのは至難の業、じりじり距離を詰められていった。

「うおっ!?」

焦りが出たのかハンドル操作を誤り、軽トラックがスリップ、コンテナに横向きに激突してしまう。

「死ねぇ!」

スタブクローの付いた重々しい足が、軽トラックごとこちらを踏み砕かんとする――

 が。

「早く逃げて!」

目前まで迫ったそれは、すんでのところで止まっていた。

「ルーミア!!」

支えていたのは、永遠亭にいたはずのルーミアだった。オリジンギアのロゴが入った黒い強化外骨格を身に纏っている。

「懐かしい名ね!ダークボールよりは聞こえはいい」

「どうしてここに?!」

「見ていられないわよ二人とも。弱くなったわね」

手足が再生したばかりの身体に鞭打ってここまで来たに違いない。字面こそ余裕そうだが、青い顔から無理をしているのが丸わかりだ。

 「死に損ないが!!」

弾蔵駆るパラダイスフライキャッチャーは後退り、胸部のマニピュレートシザースに内蔵された6連装20mmバルカンカノン2門を同時に作動、発砲してきた。ルーミアは結界を張って応戦する。

「駄目だルーミア、無茶はよせ!!」

「早く行きなさい!!幻想郷を救えるのは貴方達だけよ!」

 チルノの悲痛な叫びも空しく、結局俺達はルーミアを見捨てる形になってしまった。

 彼女は犠牲となったのか、はたまた生き残っているのか定かでない。しかしこれだけはいえる。彼女はこの幻想郷、そしてこの星に生きる全ての人種の為貢献したのだ、と。


 甲板に降り立ち、ゲートに体当たりする勢いで突撃。すぐ脇の艦内図をちらと見やり、その一瞬で暗記して動力炉に急いだ。

 炉、などという名がついているものの、それは便宜上の呼び名でしかない。ファンタズムキャリアの後端に存在する大部屋には、大容量の大型コンデンサーが規則正しく林立している。そしてその中心に、モノポールドライブを設置する台座が据わっているのだ。

「待たせたな。霊烏路空はこの下か?」

動力炉には既に作戦メンバーの全員が集結していた。彼女達が不安気に見つめる先には、一人の少女のバイオエナジーの流動が見える。幾ら空が地獄鴉で且つ八咫烏の神霊を宿しているとはいえ、発生するプラズマも熱量も全て閉じ込めていたのでは、流石に耐えることなどできまい。最悪の場合自己崩壊(メルトダウン)を起こし死に至るだろう。俺はここに来る途中で、核融合炉の停止及び空の救出を行なう為の作戦を立てておいたので、すぐに説明を始めた。

 「まず最初に、俺がバイオブレードで床ごと核融合炉を切り開く。切断直後から周囲には大量の放射線が発生するだろう。そこで、素子が磁力でα線とβ線を引き付け、鈴仙は波長を弄ってγ線を打ち消し、にとりは水を展開して中性子線を遮る。文の能力と霊夢の結界で全員に風のバリアを纏わせ、チルノと俺で核融合炉を冷却しながら、欧我が中に入って空を救出する。異論はないな」

この作戦は、一度始めればファンタズムキャリア墜落までの間に完遂せねばならぬ。しかし、電子機器による干渉が不可能である以上、こうした『荒っぽい』やり方を選択するより他はない。

 「準備はできているな?」

「いつでもどうぞ!」

「勿論よ」

「大丈夫です」

「さっさと終わらせましょ」

「行けるぞ盟友!」

「私もOKよ」

「よし、あたい最強!」

仲間達の頼もしい応えが返ってくる。ふっと笑みが零れた。

 ブレードを展開し、床に思い切り突き立てる。

「うぉぉぉあああ!!」

唸り、円形にブレードを動かした。

 西洋の(ソード)は、力学的エネルギーに任せて楔を打ち込み、対象を文字通り力任せに叩き斬る。一方東洋の(カタナ)は、楔の角度を変えて、さながらカッターナイフの如く精密に対象を切り刻む。

 バイオブレードはそのどちらにも属さない、最早刃物の範疇ではない謎の武器だ。対象が生物であればそのバイオエナジーに直接作用、細胞レベルでダメージを与え破壊する。非生物であればその分子構造の隙間に抉り込み、強制的に断裂させる。

 そのお陰で、断面は荒削りで綺麗にならない代わりにどんな硬質なものでも一刀両断できるのだ。

 切り開かれた瞬間から熱風が吹き出すが、霊夢の結界と文の風が極めて効果的にそれを防いだ。放射線による被曝も、素子と鈴仙、そしてにとりがシールドする。船内に墜落を報せる警告音エマージェンシーコールが鳴り響いているが、チルノの隣で新しいスペルカード、即凍『インスタントギガブリザード』を発動して炉を冷却する俺の怒号にかき消された。

 「今よ欧我!空を救出して!」

「わかってる!」

文の声に、欧我が炉の内部に飛び込んだ。

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