曲がらぬ思い
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俺とチルノは、オリジンギア秘密基地内部の格納庫を進んでいた。
「弾蔵はこの先か?」
「多分ね。あたいはバカだから、ちょっと記憶が曖昧」
彼女はそうは言うものの、その戦闘センスには光るものがある。単独での多人数制圧を念頭に置いた訓練を受ければ、コーカサスでもバウンティハンターとして通用するはずだ。
コンクリートが剥き出しの通路とは違い、格納庫はチタン合金製と思われる装甲板が貼り付けられている。表面は鈍く輝き、その真新しさを如実に示している。建造から日が浅いらしい。
足音を殺して歩く。この技術は7歳で習得したもので、今では全く意識せずとも行なえる。奇妙なことに、この基地の中では俺以外の者が飛べないようにプロテクトがかかっている。いや、俺だけがプロテクトの影響を受けていないだけだろう。
「ようやく捉えたぞ、四島小櫃」
不意に、聞き慣れない声が耳朶を打った。発覚したか!その思考が、俺を素早く反応させた。斜め前方へ飛び込み、肩から前転して声の方向へアームキャノンを向ける。
「会いたかったぞ、兄弟」
声の主の姿には覚えがあった。天狗の装束に『罪』の覆面。オリジンギアの頭、源弾蔵だ。
「お前に兄弟呼ばわりされる筋合いはない」
「捜す手間が省けたね。早速武器を捨てて貰おうか」
俺とチルノの言葉を気にも留めず、弾蔵は見せ付けるかのように腕を広げる。覆面に隠されてはいるが、バイオエナジーの流動で彼がほくそ笑んでいるのがわかった。苛立ちが募る。
「…氷鎧『アイシクルヘッジホッグ』!!」
先に動いたのはチルノだった。硬い床を蹴り、空中に躍り出ると同時に、全身が鋭い氷の棘の装甲に覆われる。棘と同じ位鋭い弧を描き、鉤爪が形成された凶悪な右手が振るわれ、
「無駄だ」
「ちっ!」
ガキン、と、結界に阻まれた。本体の爪が割れたのか、血が滴っている。
「それがお前の能力か」
「そうとも。あくまで予防の為の能力だがな。攻撃を防げるよう、基地内にも同じプロテクトをかけていたが…その様子では、お前に効果はなかったか」
俺がここまで進んでくる際、施設の一部を破壊している。バイオエナジーについてまだまだ不明な点も多いが、これで一つはっきりした。この世界の住人は、能力でバイオエナジーに干渉できない。
その問題についてはとりあえず頭の隅へ追いやり、自分の個人的な疑問を解消することにした。
「俺がここに来た理由は退治でなく、あわよくばお前を殺すことだと宣言した上で、質問がある。俺はこの大規模な武装蜂起に『裏』があるように思うのだが、その真偽を問おう」
幾つかの可能性が頭の中にあった。復讐、支配、抹殺、…そのどれも血生臭いものだが。
弾蔵はやおら口を開き、語り始めた。
「…あれは忘れもしない西暦851年9月11日、偶然にも世界貿易センタービルに飛行機が突っ込んだのと同じ日付だ。幻想郷建設賛成派の一部勢力によって行なわれた、月都からのマジックアイテムの奪取計画…後に第一次月面戦争と呼ばれる戦いがあった。作戦成功の鍵となっていた私の父と母が、それに参加していた。作戦は順調に進んでいくはずだった。はずだったんだ…!」
弾蔵の言葉から、冷静さが失われた。
「月の最新兵器を前に、腰抜けの妖怪の賢者共は逃走して地上からの支援を中止、月に向かった実動部隊は孤立無援のまま月都軍に壊滅させられた!!…幼い私は何もすることはできなかった。父も母も、裏切られたのだ。あれだけ尽くした仲間に!命まで捧げた思想に!…表の世界を追われた私は妖怪の賢者を見限り、地下に潜った」
弾蔵の話を聞いた俺は、その心中に、今までテロリストに対し抱いたことのない感情を湧き上がらせていた。哀れみだろうか、それとも同情か。そんなものは関係ない。
「私には能力がもう一つある。『過去を見る程度の能力』…お前は孤児だったという点で、私と同じなんだよ、兄弟」
彼は能力をまだ隠し持っていた。しかしそれは俺の超硬合金並みの意思と思考を突き崩すには値しない。
「それが俺を兄弟と呼ぶ理由か。お前のような輩と一緒にされるのは非常に不本意だ。それと現状、幻想郷解放軍第3小隊が人里の反撃に遭い、機能を喪失している。投降しろ。どのみち幻想郷拡張計画は失敗する」
「知ったことか。私にはまだファンタズムキャリアと能力がある。貴様ら如きに我々は止められん!賢者共が創ったこの箱庭を壊し、世界の全てを私が支配する。この箱庭以上の楽園を創造してみせる!!」
雄叫び、同時に覆面が外される。
現れた顔は、思っていたよりずっと精悍な造作だった。睥睨するは、憤怒と決意に燃える、光を反射しない真紅の両眼。今まで高位の妖怪達と顔を合わせる機会はあったが、さして格も高くない弾蔵のそれは、どの妖怪にも勝る眼光だ。
誰かに似ている。ふと思った。記憶の中を機敏に精査すると、ある映像に行き着いた。
かつて、バウンティハンターを志したばかりだった頃の自分の写真。
俺と同じ目をしている。
「…お前と俺には、もう一つ同じところがある」
「何?」
「それは、自分の意思を簡単には曲げないという点だ」
師匠はよく言っていた。『お前の目は光を反射しない代わりに、常に自分から輝いている。それは何もお前の虹彩を流れるバイオエナジーの色だけじゃない。強靭な精神の表れだ。光を反射しないのは、他の誰かに揺さぶられないからだ。自分から輝いているのは、自分の意思を持っているからだ』と。
「だが、」
弾蔵の話の途中で下がってしまった右腕を、もう一度構え直す。
「貴様のそれは悪に染まっている。見逃す訳にはいかん」
そう、俺はこの男に教えねばならぬ。悪を砕き、邪を退け、不条理に食らい付くことこそ、真に貫くべき道であると。我欲や復讐の為にのみ意思という力を働かせるのは、ただ自分のエゴを押し通しているだけに過ぎない。
最大出力のブースターが、俺の体を押し出した。
今までどうしてあんなにバリバリ書けたのか…




