隠匿された機関部
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シルバーヘッドこと欧我とセカンドこと文が大蝦蟇の池に奇襲をかけ、その隙にビツケンヌこと小櫃がオリジンギアの基地内部に潜入してから、既に2時間以上経過している。
リキッドことこの私にとりは、本来紅魔館に残り、鈴仙と一緒に霊夢を護衛する役になっているのだが、鈴仙の無線機が霊夢に踏まれてお釈迦になってしまい、替えの無線機を持ってくるべく欧我を伴いラボに向かった。護衛は引き返してきた文に交代して貰っている。
ラボの中を漁り、ようやく見つけた無線機をリュックサックに放り込んで、他に持っていくべきものはないかと確認する。すると、作業台の隅に置かれたままのファンタズムキャリアの設計図に目が留まった。
「…ふむ」
何となくそれを手に取ろうとした矢先、いきなり自分の無線機にコールが来た。
『リキッド、聞こえる?』
その声はマクスウェル、もとい素子のものだ。ファンタズムキャリア墜落まで船内に居座り無線連絡も作戦終了間際まで行なわないはずが、どういう訳か彼女はトーンの落ちた声で無線越しに話している。
「はいはいこちらリキッド。マクスウェル、どうかした?」
『ええ、一つ気になることがあって。ファンタズムキャリアの設計図はある?』
「うん、丁度手元に」
筒状に丸められたそれを作業台の上に広げて、四隅に文鎮を置いた。そこに展開されるのは河童の技術の粋を結集した最高峰の発明。
「気になることって何なの?」
『動力炉の下、丁度モノポールドライブを設置する場所の奥の方に、不自然な円筒形の空洞があるの、分かる?』
「…ん、これか?何だここ」
素子の言う通り、そこには設計段階では存在しなかったはずの謎の空洞が、まるで始めからあったかのように画かれている。
「こんなん図面に書いたかなぁ?」
『さっきブリッジから図面にアクセスできたんだけど、絶対おかしいわよね?』
「うん、おかしい。おかし過ぎる」
まさかこの図面も、ファンタズムキャリアの遠隔操作プログラムと同じく、開発段階から既に組み込まれていたのだろうか?弾蔵の能力を以ってすれば、そのどちらも私達に勘付かれることなしに行なえるはずだ。
『それと、小櫃さんや他の人達には言ってないんだけど、…』
「え?」
素子が隠し事をするとは珍しい。一体どうしたというのか。
『…さとりからの無線。4日前からお空の行方が分からなくなってるみたい』
お空。本名、霊烏路空。守矢の神二柱に八咫烏の神霊による核の力を与えられた地獄鴉。間欠泉地下センターで働いている。物忘れが激しいが、邪念のない素直ないい子だ。家出や職務怠慢などするとは考えられない。
「お空が?それは大変だけど…何の関係が?」
『関係ないと思いたい。でも、何故だか胸騒ぎがして…小櫃さんに指示を扇いで、間欠泉地下センターに向かってくれないかな?あ、くれぐれも小櫃さんには、お空のこと話さないようにね』
「どこかの誰かさんと違って注意深いから大丈夫だよ。ビツケンヌって言ってないし。クスクス」
『…むう』
不満そうに声を漏らす素子。言い返せないのだろう。素子は博識で聡明ではあるが、如何せん詰めが甘い。肝心なところでヘマをする。ファンタズムキャリアの設計・開発も、河童の援助あってのものである。
そもそも、キメラスタッグやファンタズムキャリアの構想自体は、素子が幻想入りする(つまりスカイフィッシュの本来の姿が知られぬまま、その存在がモーションブラー現象によるものと片付けられてしまう)より前から出来上がっていた。前者は一つの駆動系で複数の動作を行なえるシステム、後者はその巨体を制御するだけの莫大なエネルギー源がネックとなっていたのみであり、それぞれ電磁石を応用したマグネイズボールジョイントシステムと、モノポールドライブとグリマスチャージャーを組み合わせた半永久的エネルギー供給を素子が提案してからは容易に開発が進行した。
…私も人のことは言えないか。
「とにかく、今からビツケンヌに連絡するよ。丁度シルバーヘッドも用を足し終えたみたいだし」
「お待たせしました〜…」
奥の廊下から満身創痍の欧我が入ってきた。彼はここに来た途端何故か強烈な腹痛を訴え、その後およそ20分も便所に籠っていたのだ。ストレス性のものと推測される。
『それじゃ、作戦を続行するわね。オーバー』
それきり無線機は沈黙した。もたもたしていると弾蔵の手先にこちらの動向を知られかねないので、私は小櫃並にキビキビ動かねばならない。
「欧我、小櫃と連絡を取るからしばらくは…」
準備に時間を回して。そこまで口にすることはできなかった。
「動くな!」
「え?!」
「ひゅい?!」
突如、音高く扉が開き、2丁の軽機関銃を携えた妖怪がホールドアップを命じてきたからだ。セーフティーは解除され、いつでもこちらを蜂の巣にできる状態だ。
「死ね!」
妖怪はトリガーを引き、それこそホースの水の如く銃弾をばら撒こうとした。が、
「なっ、何故だ?弾が…?!」
弾が出ない。マガジンに弾丸が入っていない訳ではないはずだ。この妖怪が弾蔵の手先なら、そんな初歩的な過ちを犯すような輩を一体どうして放置しておこうか。
「あらあら、ここも厄の匂いがぷんぷんするわ」
一挙に形勢が逆転した。妖怪の背後に現れた少女もとい鍵山雛が、その後頭部にジップガンの銃口を突き付けたからである。
「?!貴様いつの間に…」
「すぐ後ろの私に気付かなかった上、敵の前で弾詰まりを起こすなんて、…貴方ってホント、『不幸』よね」
不敵な笑みを浮かべる雛。妖怪の視線が自分から逸れた瞬間に、破壊力抜群のウインク。ああなるほど、と納得できた。彼女は自身の能力を使い、妖怪に『災難』を起こしたらしい。流石私の友人。頼りになります。
「そいじゃ、洗いざらい吐いて貰おうか」
多勢に無勢と判断したのか、その妖怪は抵抗する様子も見せず、小さな椅子に腰掛け、壁にもたれたまま、むしろ余裕のある態度で供述を始めた。
彼の話は、およそ予想の斜め上を行っていた。
『プロジェクト・テリブルレイブン』、即ち『恐るべきワタリガラス計画』。そう呼ばれているものらしい。
ファンタズムキャリアは、あらゆる高度に於いて弾幕を展開し、圧倒的破壊力を以って敵を撃滅する飛行戦艦として設計された。だが、一つだけ解決できない難問があった。圧縮された魔力による攻撃だけでは、現代社会に与える影響カが小さ過ぎるのだ。弾蔵がこれに納得する訳がなく、あくまでファンタズムキャリアを外界侵略の切り札に仕立て上げようとした。そこで彼が考案したのが、お空を利用することだった。
ファンタズムキャリアの図面に画かれていた不明な円柱は、弾蔵が設計した超小型且つ高出力の核融合炉。お空は弾蔵の口車に乗せられて、ファンタズムキャリアの隠匿された機関部たる核融合炉の『燃料』になっているという。
たとえモノポールドライブがなくなったとしても、電力の供給源を核融合炉に切り替えるから、ファンタズムキャリアは沈まない。それどころか、発生した膨大な放射性物質を魔力と合わせて放つことで、その攻撃を受けた地域一帯を向こう300年間、草一本生えない程に放射能で汚染させることができる。
機体そのものの絶大な防御力に加え、現代の科学技術では撃墜・相殺が不可能な魔力を併用した核攻撃能力を得た今、ファンタズムキャリアは最早河童の夢などではなく、難攻不落の核搭載移動空中要塞に他ならない。まさに、悪魔の兵器だ。
「分かっただろう。貴様らは気付くのが遅過ぎた。直に核融合炉が起動する。八雲紫がこちらに付かない限り、幻想郷の崩壊は避けられん。放射能に塗れた死の郷になろう」
三日月のように口角を吊り上げて嗤う妖怪。彼は続けた。
「…総統は、貴様らのような井の中の蛙とは違う。自身の能力を用い、1世紀以上外界を旅してきた。そして気付いた。我々の住まうこの世界が、妖怪の賢者共がユートピアを騙って創り上げた箱庭に過ぎないとな。我々は、必ず実現するぞ。外界と分断されたその時から止まったままの歴史を、必ずや動かしてみせる。そして全ての世界を統合し、この世に王道楽土を築くのだ」
「ふざけるな!!」
彼が話し終えるか終えないかのタイミングで、激昂した欧我が怒鳴り、胸倉を掴み上げた。
「ユートピアを騙ってだって?ここは本物の理想郷だ!誰もが平和に、笑顔で暮らしていける、皆の楽園なんだよ!!お前達のやり方で創る世界に、本当に理想が実現する環境があるのか?!」
そのあまりの剣幕に、どうやら私は気圧されていた。眉間に深く皺を寄せ、目を吊り上げ、歯を剥き出して怒る欧我の姿は凶暴な獣そのものだ。
一方で、私は欧我の意見に大いに賛同していた。自分の中の臆病な部分のせいで、彼と一緒に妖怪を罵るだけの勇気が出ずにいたのである。
「…ふん。未熟な猿め。貴様らはそうしていつまでも幻想を語っていればいい。やがて取り残され、隅へ追いやられて朽ち果てるのがオチだ」
妖怪は吐き捨て、顎をずらすような仕草を見せると、うっ、と小さく呻き、そのまま動かなくなった。
「…口の中に即効性の毒か何か仕込んでいたのね。死んだわ」
「また自決かよ…何で…」
悲しげに、しかし冷静に状況を分析する雛。床に膝をつき涙を流す欧我。
「無駄なプライドだね。…二人とも、ぐずぐずしてる暇はないよ。すぐに皆をファンタズムキャリアに集めないと」
感傷に浸る時間など雀の涙もない。誤解したまま死んでいったこの妖怪の為にも、何としても弾蔵を止める。
ラボの扉を開け放つ。鳴り響く蝉の鳴き声は、解放への讃歌に聞こえた。
毒で妖怪が死ぬのか?とか思われるかもしれませんが、俺の特殊過ぎる価値観の都合上、無限者シリーズに於ける妖怪などはその生物的側面が強調されています。第8話『次の案』を参照ください。




