朝日と共に去りぬ
少々短くなってしまいました。
形勢は、明らかにレミリアが不利だった。スターサファイアの能力か、或いは機械人形自体の性能かは分かりづらいが、レミリアの得物たる真紅の槍――グングニルの高速の連撃をものともせずにいなし、逆に彼女の体に幾つもの傷を付けていく。
しかも変形したことによって両肩部に移動した二つの大筒は、その両方が物体を凍らせる『液体窒素銃』という訳ではなく、片方は火炎弾や追尾性ビーム等複数の形態で圧縮された電離気体を発射する、サニーミルク曰く『マルチプラズマキャノン』であるらしい。レミリアは既に左足に火傷を負い、その上高圧で放たれる液体窒素のレーザーに右腕を切り落とされている。断面が半分凍結し、再生が追い付いていない。
「高貴な吸血鬼様が聞いて呆れるわね?」
「所詮は500歳児ってところかしら」
「そらそら!もたもたしてるとエナジーボムランチャーが炸裂するわよ!」
上、下、右、左と、容赦なく続く凶撃の嵐を、レミリアは紙一重ですり抜けようとするが、巨体に見合わぬ俊敏な動きから繰り出されるそれら全てを捌き切ることは叶わず、みるみる彼女はボロボロになっていった。
「ちっ、狙いが定まらない…!」
私も彼女から渡されたサンライズを構え援護しようとした。だがどうしても彼女を巻き込んでしまう射線になり、迂闊に手が出せない。棘の生えた巨大な橇を思わせる尻尾も途轍もない破壊力を秘めており、撫でるような自然さで家々を次々に薙ぎ倒して見せる。
「私達三人のVR訓練の成果は伊達じゃないのよ!」
「三光鳥、変身!」
「モード・デーモン!」
そうこうするうちに、またしても機械人形が姿を変えた。上体を持ち上げると、胸部の装甲に似せられた別の頭部が首をもたげ、他の二つがそのすぐ後ろで液体窒素銃とマルチプラズマキャノンと一緒に合体する。逆脚になっていたのが、関節の向きが変わり、背中の刃物は腋の下を通って前に出て腕となり、元の腕は上向きに翼の如く広げられる。
「悪魔、ね…それは私への皮肉のつもりかしら?変形したところで、何が変わるというのっ?」
レミリアがグングニルを構え、空中から強烈な突進攻撃を見舞う。しかし、
「ぐうっ?!」
「かかったわね」
ぎざぎざした凹凸のある胸部の鋏二振りに捕縛、鋭利な尻尾と腕を突きつけられてしまった。
「レミリアッ!!」
「西方では鬼を退治する代わりに吸血鬼を狩ってきた。鬼退治ならぬ、吸血鬼狩り…」
「妖怪の骨肉がどこまで持つかしら?」
レミリアは鋏に締め上げられながら、こちらに向けて叫んだ。
「今よ慧音!サンライズを撃ち込みなさい!」
「そんな…そんなことをしたら、お前は…」
「貴女にできるかしら?上白沢慧音!この女も死ぬわよ!」
サンライズがパチュリーの作った日属性魔法具であるとすれば、着弾時に発生する熱量は太陽の力そのもの。日の光に弱い吸血鬼がそんなものを浴びればどうなるか、それは火を見るより明らかだ。
「私は…」
サンライズを構える腕が震える。
「私には…」
引き金が汗で滑る。
「駄目だ、私には撃てない…!」
そんな私の意思に反して、気が付くと私の指は勝手に引き金を引いていた。
「なっ…」
サンライズの銃口から放たれた光弾が、機械人形の頭部に吸い込まれるように直撃し。
視界が、白一色に塗り潰された。
「ぐああああああああああぁあっ?!」
「きゃあああああああぁぁあぁ!!」
「うわあぁぁぁああああああっ!」
爆音と同時に響き渡る三人分の断末魔。その中に、レミリアのものは入っていなかった。
色彩を取り戻し始めた視界の中に最初に現れたのは、
「大したことはなかったわね」
「そうですわね」
腰に手を当てて機械人形の前に仁王立ちするレミリアと、紅魔館のメイド長・十六夜咲夜だった。
「どうだった?私のドッキリ。…とんだ阿呆面よ慧音」
理解が追い付かない私に彼女達は歩み寄り、告げた。
「小櫃から伝言よ。『迷うな、恐れるな、諦めるな。迷いは悪を助長し、恐れは悪に屈服させ、諦めは悪を許容する。信じた道を、迷わず、恐れず、諦めず進め』。日傘を持ってきていないから、私達は帰るわ」
夜明けの近付く空に飛び去る二人を尻目に、私は小櫃のことを考えた。
彼は迷わない。誰よりも純粋に自らの道を歩み、悪を滅ぼさんとする。四十にして惑わず、という言葉があるが、彼はその半分にも満たない年で天命さえも自覚しているかのようである。
「私は…」
それに引き換え自分はどうだ。教え子が悪に寝返った程度で狼狽え、自己を見失ないそうになっている。こんなことでは、教師失格だ。
「…待っていろ、教え子達。私が教育してやる!」
小櫃のようにはなれないかもしれない。それでも、私には私の意地がある。私は自分の教え子がまだいるであろう命蓮寺へと、サンライズ片手に走り出した。
これ以降は写真を使うこともないと思います。




