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人騒がせな発明品披露

 7月。人里に奇妙な噂が流れていた。

 正午を過ぎおよそ半刻後頃になると、妖怪の山の上空を巨大な翼を持った何かが旋回しながら空に昇っていき、日によって色々な方角に飛び去っていくのだという。

 恐らく、その正体は俺のことであろう。つい最近、バイオブースターを応用して自分の背中と尾てい骨の辺りに翼を作り出す『バイオウィング』を編み出した。妖怪の山に発生する上昇気流に乗れば、高度2000mまで舞い上がり、幻想郷のどこへでも楽々と移動できるのだ。誰にも邪魔されない空の旅。天気さえ良ければ、雨燕のように飛びながら眠ることも可能である。翼の端から端まで13mもあり、翼面荷重はかなり小さい。

 今日もまた、うだるように暑い人里に薬を売りに来た。鈴仙も一緒だ。

 そういえば、地底での俺の一言が余計な期待を持たせてしまったらしく、鈴仙は暑いのに俺にくっついて歩く。汗がベタベタと気持ち悪いので早いところ離れて欲しいのだが、いかんせん彼女という扱いなので無理に引き剥がせば鈴仙の性格上落ち込みかねない。

 いや、むしろこの状況を楽しんだ方がいいのかもしれない。リアル充実、いわゆるリア充という奴だ。そう、鈴仙と俺は恋人同士で、鈴仙は文字通りベタベタなのだ。…別に汗でベタベタしていることとかけている訳ではない。そもそも、こうも鈴仙が愛してくれているのに、どうして俺は彼女に何一つしてやれないのか。プレゼントか何か贈ろうか?

 「…ん?」

ふと、妖怪の山の方角に目を向けた(目は閉じたままである為正確にはこの表現は正しくないが)。発生させていたバイオエナジーの力場に、僅かながら乱れを感じたのだ。その乱れは端の方からゆっくりと広がっている。何か得体の知れない巨大な物体が、上空を飛行しこちらに向かってくるようだ。

 目を開き、視覚情報を取り入れる。

「なっ…?!」

その時、俺やその周りにいた者達は、皆驚きの声を上げていた。

 幻想郷に突如として現れたのは、空を覆い尽くさんばかりの空中要塞だった。

 ――幻想郷では、時に不可思議な事件が起こる。

 ある時は、赤い霧が空を覆い。

 またある時は、春が訪れずに冬が続き。

 満月が隠され、夜が明けないこともある。

 何者かによって引き起こされる、こうした怪事件、怪現象。幻想郷ではこれらが、『異変』と総称される。


 永遠亭に引き返して薬を置き、すぐに空中要塞に向けて飛んだ。

 艦上にこれでもかと装備された砲塔は、しかしまだ動き出してはいないようで、すぐ近くまで近付いてきても何の反応も示さなかった。不審に思い甲板に降り立つと、そこには意外な人物が待ち構えていた。

「ようこそおいで下さいました、小櫃さん、鈴仙さん!」

「素子?それに翔子まで?」

素子と翔子だった。

「この船は私とにとりが設計・開発した空中要塞『ファンタズムキャリア』です!」

「何が目的なの?」

鈴仙が素子を強く睨みながら詰め寄る。二ヶ月前の騒動のせいだろうか、鈴仙は素子をあまり良く思っていないのだ。

「はわわ…い、異変とかじゃないですよ。モノポールドライブの研究中に偶然ある素粒子を発見して…これはテストです」

「テスト?この船にはモノポールドライブが載っているの?」

「はい、機体の動力源は全てそこから賄っています。偶然発見した素粒子…私とにとりの頭文字をとって『NM粒子』と名付けたのですが、ちょっと特殊な性質がありまして…あ、よろしかったら中にどうぞ」

 素子に案内され、俺と鈴仙はファンタズムキャリアなる船の内部、ブリッジにやって来た。素子の用意したパイプ椅子に座り、翔子の用意した茶を飲みながら、説明を聞いている。

 発見された未知の素粒子、通称NM粒子は、金属の分子構造の隙間に入り込むと、重力子の影響を軽減するようになるという。この船は見かけよりずっと軽いのだ。搭載されたモノポールドライブは、空気中の魔素を吸収するシステム、グリマスチャージャーを動かし、飛行と弾幕の展開に魔力を使用するらしい。河童はマジックアイテムの作成は不得意である為、開発にはパチュリーも一枚噛んでいるとのことだ。

 とにかく、ファンタズムキャリアは幻想郷に危険を及ぼすものではなかった。かなり短期間で完成されたようだが、そこはやはり河童の技術力ということだろう。

 「では、俺は人里の住人達に危険がないことを知らせてやった方がいいか?」

「あ…やっぱり騒動になっていましたか?ごめんなさい、よろしくお願いします。翔子のお母さんにもよろしく伝えて下さい」

「了解した。鈴仙、早く行くぞ。仕事は残っている」

「とんだ杞憂だったわ。何の為にここまで飛んできたのやら」

鈴仙の言葉は字面ばかりは呆れた風だが、顔は安堵の笑顔で満たされている。仕事をあまりほったらかしにしたくないのは俺も同じことである。

「素子ちゃん、私動力炉が見たい!」

「え?あんまり面白いとは思えないけれど…」

「いいのいいの!」

仲の良い二人の少女を尻目に、俺と鈴仙はファンタズムキャリアを後にした。


 …が。

「あんたらもこの異変に関わってるの?」

問題は、時にあらぬ方角からやってくるものである。

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