遠山草汰の現在5―(3)
「だから、わたしが忠告したのに」
そう言って顔を覗かせたのは、下手糞な床屋を演じた深林さんだった。
何が「才能あると思いません?」だ。酷いことこの上ない。だが、こちらは正真正銘女性のようである。
「何の言い訳もない。本当に済まないと思っている」
そう言って頭を垂れるのは、葉子さん(?)、正真正銘男性であるようだ。
僕はといえば、そんな衝撃の事実をいきなり突きつけられても、何とも言いようがなかった。
腹立たしいような感情は確かにあった。しかし、この二週間、いろいろなことがあり過ぎて、何が嘘で何が真実なのかを一度整理しないことには、怒りたくても何を根拠に怒って良いのか分からないというのが正直なところだった。
それに、何といっても葉子さん(?)の顔のアザは、紛れもなく本物の痛みの痕だ。僕は何度も助けてもらったし、一緒に過ごした時間は、僕の十八年間の人生の中でも特別なものであることに変わりはなかった。
そのことを告げると、葉子さん(?)はますます頭を垂れて、謝罪と感謝の辞を述べるだけだった。どうやら、向こうも頭の整理を行わないことには、これ以上話を進めることが出来ないようだった。
そこで僕たち三人は、場所を移して、話し合いの機会を設けることにした。場所は、葉子さん(?)の希望で、車で一時間弱の隣町の海岸岬ということになった。
その場所は、深林さんにとっても特別な思いを寄せる場所であるようだ。しんみりと目を閉じて、何かに思いを馳せたかと思うと、次に目を開いたときには、車の運転を快諾してくれた。
「ありがとう、静花。それから草汰君も、オレの我儘を聞いてくれて本当にありがとう」
「いえ、僕も本当のことを知りたいだけなので。そのためならば、あなたの喋りやすい場所でする方が良いでしょう。それよりも、ひとつだけ、いまこの場で教えてもらえませんか?」
「ああ、何でも聞いてくれ」
「それでは、これからあなたのことを何と呼べば良いのでしょうか?」
そう訊ねると、男は「そういえば忘れてたな」と照れたように頭を掻いて、ハッキリと自らの名を謳い上げた。
「オレの名は、朝原真樹だ。今後ともよろしく」




