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オレはオンナになりたいぜ!  作者: 工事中
遠山草汰の現在5
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遠山草汰の現在5―(1)

 ここ最近、葉子さんの夢ばかり見ている気がする。

 といっても、良い夢ばかりではなく、最近ではむしろ悪い夢の方が多い気がする。具体的な内容は少しも覚えていないのだが、目を覚ましたときの感覚で、それが良い夢だったのか、悪い夢だったのかが大体分かる。

 今日見た夢は、たぶん悪い方だ。

 何だかとても悲しくて切ない「別れ」を予感させるような夢だったと思う。

 などと、僕は朝から何を辛気臭いことを考えているのだろう。いくら葉子さんの容体が心配だからといって、それはさすがにないだろう。

 深林さんも昨夜は葉子さんの部屋に泊まって、つきっきりで看病してくれているのだ。何かあれば、すぐに知らせてくれるはずだった。

 時刻は七時を過ぎたばかりだ。向こうはまだ寝ているかもしれないので、もう少し経ってから様子を覗いに行くとしよう。

 それにしても夢といえば、昨夜の体験こそ夢のような出来事だった。それも途中までは、とんでもない悪夢としか言いようのない事件だった。いまという時間は、まさにその悪夢を越えて存在するのだと思うと、感慨もまた一入(ひとしお)だった。

 茨木強平――あの狂気の人間の魔の手から逃れられたことはもちろんだが、最後はやはり深林さんの手による救いが大きかったと言えるだろう。


 あの後、連絡を入れると、すぐに深林さんは車で駆けつけてくれた。

 満身創痍で死んだように眠る葉子さんの姿を見て、深林さんはかなりショックを受けたように見えた。あまり刺激が強すぎると、深林さんまで倒れてしまうんじゃないかと僕は心配になったが、彼女は「本当に馬鹿ね」と心底呆れたように言い放ち、葉子さんのもとへと駆け寄った。

 そして、やはり怪我の有様を間近で見たためか、恐る恐るといった感じで葉子さんの右手を自らの右手に取ると、たっぷり一呼吸置いてから、今度は左手を重ね合わせて、葉子さんの手を両手で包みこんだ。

「本当に馬鹿ね」

 深林さんはもう一度言ってから、葉子さんの手を抱くように自らの頬に触れさせた。

 その一連の動作は、葉子さんの怪我の具合を確認しながらというよりも、深林さんが自分自身の気持ちを確認しながら取った行動のように見えた。

 僕は、深林さんが葉子さんに触れるのに、いくら怪我の状態が酷いとはいえ、そんなに慎重になるなんて、二人の間の溝はよほど深かったのだろうなと改めて思いを馳せたが、それもいまこの瞬間に終わったのだと実感した。

 その後、二人で葉子さんを車の後部座席まで運び、僕が道案内をしながらアパートの部屋まで移動した。しかし、葉子さんのコートのポケットから鍵を取り出し、一一〇号室の扉を開けた時点で、僕は深林さんに追い返されてお役御免となった。

 僕は当然、「自分にも何か手伝わせて下さいよ」と食い下がったが、深林さんは、「悪いんだけど、邪魔にしかならないの」と素っ気なく答えるだけだった。

 確かに良く考えたら、葉子さんの着替えなどもあるだろうから、男の僕がいては邪魔にしかならないだろう。僕は煮え切らない気持ちながらも、仕方なく自分の部屋へ引き下がろうとした。

 すると、その途中で、深林さんが何かを思い出したように僕を引き止めた。パブロフの犬よろしく即座に深林さんのもとへと駆け寄ると、車の後部座席に忘れ物をしてきたから取ってきてほしいと頼まれた。たったそれだけのことだったけれど、僕は大いに張り切って、駐車場まで走って行った。

 ところが、ここで僕はまた一つ煮え切らない疑問を抱くことになってしまった。

 深林さんの車の後部座席には、確かにある物が無造作に放置されていた。さっきまでは葉子さんの体がこの場所を占拠していたため、深林さんもつい見落として忘れてしまったのだろう。

 だが、それがいったい何のために用意された道具なのかは、甚だ疑問であった。

 それでも、深林さんが必要だと思って持ってくるように頼んできたのだろうから、僕はそれに従うしかない。その道具を片手に持ち、今度は歩いて部屋の前まで戻る。そして、深林さんにそれを渡すときに思いきって質問をした。

「これ、いったい何に使うんですか?」

 すると、深林さんは何とも言えない意地の悪い顔をしてこう答えた。

「治療に決まっているじゃない」

 そのせいで僕は眠りに就くまでの間、ずっと考えることになってしまった。

 バリカンを使って、いったいどんな治療が出来るのだろうと。

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