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オレはオンナになりたいぜ!  作者: 工事中
遠山草汰の現在4
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遠山草汰の現在4―(2)

「わたしとあの人は高校の同級生と言ったけれど、実は出会ったのはもっと前で、小学校に入学したときだったの。あの人の幼馴染の二人もそう。女の子が一人、男の子が二人で、あの人たちはいつも三人一緒にいて、本当の兄弟のように仲が良かったなあ」

 遠い記憶に思いを馳せるかのように語る深林さんに対して、僕の方は、つまり亡くなった幼馴染というのは二人の男性なのだろうなと冷静に分析していた。一人は深林さんが言った「彼」だということは分かっていたが、もう一人の方も男性だったとは少し予想外だった。

「わたしは、あの人たちとは一緒のクラスになったことはなくて、帰り道がたまたま同じ方向だったから、いつも遠くからその三人のことを眺めて羨ましく思っていたの。良いなあ、わたしもあんなふうにいつも一緒にいられるような友達がほしいなあって。普通はどんなに仲の良い友達だって、ずっと一緒にいたら、お互いの嫌な部分が見えて、少し距離を置きたくなるときってあるでしょう。でも、あの人たちには、それがなかった。お互いの良いところも嫌なところも全部受け入れて、いつも一緒にいたの。昔から途切れることなくそうだった。だから、この関係はあの人たちが死ぬまで続くんだろうなって思っていた」

 そこで深林さんは一旦間を置くと、深く息を吐いた。その表情は穏やかだったが、声の調子に少しずつ緊張の色が含まれていくのを僕は感じ取っていた。

「そうしてわたしは、小学校、中学校、高校と三人と同じ学校に通うことになったのだけど、三人のうちの誰とも同じクラスにはならなかったの。それも珍しいことだよね。でも、高校二年生のときに、ようやくそのうちの一人と同じクラスになれて、凄く嬉しかったなあ。でも、結局自分から話しかけることは出来なかった。だって、何て言えば良い? 小学校のときから、ずっと友達になりたかったって? 既に三人組の中に、わたしが入り込む余地なんてないのに――。でも、あるとき向こうから話しかけてきてくれたの。それなのに、わたしったら、思わず素っ気ない態度を取っちゃった。話しかけるなら、もっと早くにそうしてほしかったなんて思ってしまってね。わたしって、本当に嫌な子だったの。きっと向こうもそう思っただろうな。明日からはもう話しかけてくれないだろうな。そんなことを思って、家に帰って自分の部屋で泣いちゃった。でも、それはわたしの思い込みだった。その人は、それからも毎日私に話しかけてきてくれた。それで、わたしったら、また調子に乗っちゃって、つい遠慮のないことや嫌なこともたくさん言うようになった。それでも、また次の日には話しかけてきてくれる。そんなことが最初は辛かったんだけど、だんだんとわたしは素直に嬉しいと思えるようになっていったの。きっと、その人は幼馴染の二人と同じようにわたしに接してくれているのだろうと自惚れて、気が付けばその人のことを一番の友達だって言えるようになっていた」

「その人が、葉子さんなんですか?」

 深林さんの口振りから、何となくそうじゃないかと思ったことを僕は口に出していた。

 だが、予想は見事に外れてしまった。

「ううん、日野さん――葉子とは、そのあとで友達になったの」

 ということは、深林さんと同じクラスになった人というのは、彼女が葉子さんに対して返して下さいと言った「彼」のことに違いないだろうと僕は思った。すると、今度は予想が当たったらしい。

 深林さんは、こう続けた。

「葉子は、彼のことが好きだったの。でも、彼女は不器用な性格で、いや不器用な生き方をしていたんだわ。そのことを誰にも言わず、自分自身に対してさえも認めようとしていなかった。小学校に入学してからずっとね。何だかそれが、三人に話しかけることの出来なかった自分自身と重なっちゃって。わたしが彼に話しかけてもらえた代わりというわけじゃなかったんだけど、今度は、わたしから話しかけようと思って。そしたら葉子、最初は戸惑っていたけれど、きちんと自分の気持ちと向き合うようになって、少しずつだけど、わたしにいろんなことを話してくれるようになったの」

 いつの間にか、深林さんが葉子さんのことを「あの人」とは呼ばず、「葉子」と親しげに呼ぶのを聞いて、僕は嬉しくなった。しかし、そんな二人が決別した理由とは、いったいどのようなものだったのだろうか。

 「彼」のことを一番の友達だったという深林さん、そして、「彼」のことが好きだったという葉子さん――二人ともそれなりの思いを「彼」に対して抱いていたことが分かったところで、僕は自分が抱いていた妄想も、あながち的外れではなかったのかもしれないなと思った。

 そして、葉子さんが一人の男性に対し、恋愛感情を持っていたということも衝撃的なことだった。もちろん、僕は葉子さんの口から例の事件について聞かされているから、彼女の男性に対する憎悪が、そのときから生まれたのだということは分かっていたつもりだ。それでも、なお俄かには信じられないことだったのだ。

 葉子さんに、そこまで一途に思われた「彼」とはいったいどのような人物なのか、僕は大いに気になってきた。

 でも、その彼はもうこの世にはいない。

 深林さんは、先を続けた。

「だけど、わたしはもっと広い視野に立って人の気持ちを考えるべきだった。人のことばかりではなく、自分に対して向けられていた気持ちに気づいてあげられていたら。そして、そのことを知っていた葉子に対しても、支えてあげるつもりが、まさか自分自身が一番の障害になっていたなんて思いもしなかったから――。もしも、あの頃、わたしがもっと周囲の人たちの気持ちを考えることが出来ていたら、あの悲惨な事件も未然に防げたかもしれない」

「ちょ、ちょっと待って下さい。その事件というのは――」

 深林さんの発した不吉な響きに、僕は思わず口を挟んでしまった。

 深林さんの言う事件というのは、葉子さんが言っていた四年前の事件のことなのだろうか。

 それは、確かにあれだけの事件だったのだから、当時葉子さんのそばにいた深林さんが知らないわけはないだろう。だが、まさかここでその話題が上るとは思いもしていなかった。

 僕は確認のために、自分が葉子さんから聞かされていた事件の概要を、深林さんに説明した。

 その間、彼女はいままでに見たことがないくらい沈んだ表情をしていた。

 やがて僕が話を終えると、深林さんは自らの顔を隠すように深く頷き、地面の一点を見つめたまま重い口を開いた。

「その話には、まだ続きがあるの」

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