日野葉子の過去3
病院のベッドの上で、一人考える。
――何も思い浮かばない。
そもそも何を考えれば良いのか分からない。本当は何も考えたくないのかもしれない。
ただ、そのまま考えるふりだけは続けた。そうすることで、襲い来る感情の支配から逃れることが出来たからだ。
私は、ときどき自分のことが分からなくなってしまう。
基本的に一人でいることがダメなのだ。自分自身とまともに向き合うことが怖くて仕方がない。
一人でいると、例の聞き慣れた女の声が、私に話しかけてくる。彼女は、私のことを責めるように訊いてきた。
(なぜ自分を犠牲にしてまで、深林静花を助けたの?)
私は、その問いに答えない。
すると彼女は、急に優しい声を出し、質問の仕方を変えてきた。
(正義感?)
いいえ、違う。
(友達だから?)
それだけじゃない。
(他にどんな理由があるっていうの?)
私はやはり答えない。
(もしかして、欲求不満だったのかしら?)
彼女はからかうように訊いてきた。
馬鹿言わないでと一蹴する。
(じゃあ、どうしてよ?)
私はそれでも答えない。
(教えてくれても良いじゃない。どうせ私はあなたなんだから)
だからよ。
(どういう意味?)
あなたが、私だからと言ったのよ。あなたはあのとき、私の耳元でこう囁いた。
――何も見なかったことにして逃げなさい、と。
私はそれが許せなかった。ここで静花を見捨てれば、真樹はいずれ私だけのものになるなんて、そんな恐ろしいことを一瞬でも思った自分自身が許せなかった。
せっかく静花が、私自身に認めさせてくれた真樹を好きだって思う気持ちを、私はやはり自分自身の足で踏みにじるところだった。
私は真樹のことが好き。だから、分かる。
静花にもしものことがあったら、真樹が深く傷つくということが。あなたはそこに付け込もうという考えだったのかもしれないけれど、私はそんなことは認めない。私は真樹を守りたい。そのために、静花を守ったのだから後悔なんてしていない。
もしも、あなたが私のオンナの部分だというのなら、私はオンナを捨てても良い。
それでも、私は真樹を愛していける。
あなたなんて必要ない。
私の中から消えなさい。
私はありったけの憎悪を込めて、もう一人の私に命じた。すると、彼女の存在は、確かに私の中で薄らいでいった。だが、彼女は断末魔の声など上げることはなかった。
(残念ね)
そして、最後にこう呟いた。
(あなたがどんなに強がっても、あなたは女でしかない。それは呪いのようなものだから)




