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オレはオンナになりたいぜ!  作者: 工事中
日野葉子の過去2
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日野葉子の過去2―(4)

 その日も、私と幹生と真樹に、深林さんを加えた四人で下校をすることになった。

 深林さんが私たちの四人目の幼馴染になっていたかもしれないという真樹の主張は、昨日からずっと考える中でどうにか理解することができた。

 例えば――と私は三人から一歩後ろに引いて歩きながら考える。例えば、私と深林さんが逆の立場だったなら、どうなっていただろうか。もしも、幹生と真樹と深林さんの三人が幼馴染で、いつも一緒にいるところを、こうして遠くから眺めていたら――。

 やはり、とても羨ましく思うだろう。だからといって、その輪の中に飛び込もうとすることは、とても勇気のいることだ。

 いや、そもそも勇気なんて持ちようがないのかもしれない。その輪の中に飛び込むことなんて、多分思いつきもしないからだ。

それくらい、その三人の幼馴染という関係性は完成したものだった。

 その三人だからこそ意味がある。その三人だからこそ眩しく輝いて見える。そこに自分が途中参加することで、その完璧な輪を崩してしまうくらいなら、私はやはり遠くから見つめることを選択するだろう。

 でも、もしかしたら、いつか三人の方から私のことを見つけてくれて、手を伸ばしてくれるかもしれない。そんなことを夢見ながら――。

 もしも、私と深林さんが逆の立場だったなら、真樹は、私のことを見つけてくれただろうか。それは、つまり真樹は私のことを――。

「何を考えているんだ?」

 気が付くと、幹生が眼鏡のブリッジを右手の人差指でクイッと上げながら、私の隣を歩いていた。

「まあ、少しあり得ないことをね」

 と私は答える。

 そうだ。そもそも私と深林さんが逆の立場になっていた可能性など万に一つもない。それは、この高村幹生の存在があるからだ。

 私と幹生は、生まれた病院のベッドが隣り合ったときからの付き合いだ。だから、どんなに過去に遡ったとしても、私と幹生の二人は常にセットなので、三人組から外れることはない。

 むしろ小学校に入ってから知り合った真樹がイレギュラーだ。だとすれば、真樹と深林さんが逆の立場という可能性はあったかもしれない。

 ここで面白いのは、単純に真樹と深林さんの立場を入れ替えても、真樹が深林さんを見つけ出したように、深林さんが真樹を見つけ出すということはないというところだ。

 なぜなら、深林さんは気障男――森嶋とかいう奴に熱を上げているのだから。

 このことについて、私は世紀の大発見をしたかのような気分になり、幹生にまくしたてるように説明した。

 すると、幹生は私とは対照的に冷静な口調で、

「だったら、誰が真樹を見つけてあげるんだ?」

 と訊ねてきた。

「それは、もちろん私しかいないでしょうよ」

 私は、間髪入れずに答えた。

 一人ぼっちの可愛そうな真樹に、優しく手を差し伸べてあげる私――それはさぞ愉快で気持ちの良いことだろう。そう単純に思っただけのつもりだった。

 しかし、幹生は別の捉え方をしたようだ。右手で頭を抱え、「はあ」とわざとらしく溜息を吐いて言った。

「葉子、俺は時々、真樹に対するお前の言動に引っかかりを覚えることがあるんだが、いまがまさにそのときだ。果たして無自覚なのか、気づかない振りをしているのか。まあ、それはさて置いても、この際、俺が感じていることをハッキリと言わせてもらう。――葉子、お前は真樹に恋愛感情を抱いているよ」

 その長い前口上のせいか、有り得ない内容のせいか、私は幹生が何を言ったのか、しばらくの間、理解できなかった。そして、ようやく自分がとんでもない裏切りにあったのだということに気が付いた。

「アンタ、何言ってるのよっ」

 思わず大声を出してしまい、前を歩く真樹と深林さんが、何事かと振り返る様子が見えた。

 私は、とても二人に聞かせられる内容ではないと判断し、幹生を引き止め、前の二人から距離をとった。可愛らしく首を傾げる深林さんに、私は引き攣ったようなわざとらしい笑みを向け、何でもないのよと手を振った。

「アンタね、何あり得ないこと言ってるのよ」

 真樹と深林さんが、再度前を向いて歩き出したのを確認してから、私は声をひそめながらも幹生を罵倒するかのような勢いで言った。

「別にあり得なくはないだろう」

 幹生は相変わらず冷静だった。

「あり得ないでしょう。だって、私たち幼馴染なのよ」

 それは昨日、真樹も言ったことだった。深林さんが自分を恋愛の対象として見ていない以上は、自分が女になるか、男女という枠組みを越えた幼馴染という関係を築くことしか一緒にいる術はないと――。

「関係ないな」

 だが、今日の幹生はどこまでも反抗的だった。こんなことは、いままでに一度だってなかったはずだ。幹生は、幹生だけは、どんなときでも私の意に沿った言動をしてくれていたはずなのに――。

 まさかの裏切り行為に、私は言葉を失った。

 しかし、それだけでは済まなかった。幹生が次に発した言葉こそが、この日一番の、いや私の人生で経験した一番の裏切りだった。

「現に、俺は葉子のことが好きだから」

 気がつくと、私は幹生のことを張り倒していた。

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