【9】
毎朝、起床の時間になると、決まって侍従長のカルディナはやって来る。
そして、今朝も同じ時間にドアがノックされ「おはようございます。女王陛下」と言って入室してくる。
カルディナは私が女王になる前は行儀作法の先生だった。歳も母上とかわらない。
優しく厳しい人で、第二の母上と言った感じの人だ。
当時の私はじゃじゃ馬だったからかなり困らせてたにも関わらず、根気よく指導してくれ、今では頭の上がらない人の一人。
いつもならカーテンを開け朝日をこの部屋一杯にしてくれるのに、今日に限ってベッド際まで来ては静かな落ち着いた声で「起きて頂けますか?陛下」と耳元で囁かれてる。
「…お、おは…よ…。カルティナ」
「おはようございます。陛下、とりあえずこちらのお召し物に袖を…」
そう言って、カルティナが手渡してくれたのは、昨夜私が着ていたゆったりとした夜着……という事は――。
な、何も、着てないっ!!!
え?え?え?って、目覚めたばかりでは思考は上手く動かない。
カルティナはいつもと同じ微笑みを浮かべ事務的な態度で「こちらは、お隣の方に」と言って綺麗に皺を伸ばし手馴れた手付きでたたんだ男物の洋服を渡す。
となり……?
「!!!!!!」
本気でビックリした時って、声も息も出来ない。ただ、嫌な汗がじわ~っと出てくるだけ。
「それとも、陛下。お隣の方がお目覚めになるまで、もう少しお休みなりますか?」
私は、ぶんぶんっと首を横に振るだけ。
さ、さすが、カルティナと言うべきか?慌てる事も無く冷静な対応だ。
最初から最後まで完璧な侍従長だと感心してしまう。
そして、お隣の方――紫黒の髪の青年が眠っている。
昨夜の事は酔っていたとは言え、全て憶えている。
私は、この男と一夜を過ごしてしまったのだ。