【8】
「二股――ですか?」
「そうなのよ!!私より5歳も若い姫が居たのよ!!そりゃあ、昔からあいつの周りにはいつも女の人は居たけど、全て終わってると思ってたのにっ!!」
12歳もの年の差なんて犯罪よ!!と、叫んでしまう。
「……クス」
「ナディル!!――何が可笑しいの?私が振られて喜んでるの?」
この男は絶えず柔和な笑みを浮かべている。
でも、今夜は特に朱鷺色の瞳は優しさに溢れている。
「勿論、喜んでますよ。僕は貴女の婚約者なのですから」
「婚約者?婚約者候補の間違いでしょう!」
「僕以外に候補者など居ないのに“候補”と言うのはおかしいとは思いませんか?」
「う~~ん、そうなのかな?――ところで、ナディルは此処へ何しに来たの?」
かなり酔ってきている。
怒ったり叫んだり悲しんだり、感情が一定せず話も脈絡の無い話ばかりになってきた。
とりあえず、この男の用件を訊いて、今夜の愚痴大会もそろそろお開きにした方が良さそう。
「私に用事があったんじゃないの?」
「夜這いに来ました」
「はぁ~?――え?――っ!!!!!」
酔いも回って愚痴も全て吐き、すっきりして気持ちよくなってるのに、一気に醒めてしまった。なのに、身体に残る熱の温度は上がる。
「う、嘘っ?じょ、冗談は――」
「女王陛下に嘘を付く事など出来ません」
「じゃ、じゃあ、冗談よね?」
「笑えない冗談は、お好きではないでしょう?」
「………」
「軍務官殿とのお別れも済まされたようですし、差し迫って問題は無いように思いますが…」
別れ。
そうよね。別れたんだよね。それも、私の方から…。
私は選ばれない。
皆、私を置いていくんだわ。
母上も父上もおじさまも、私の事を想ってくれてるなら、どうして、傍に居てくれないの?
連れて行ってくれないの? この気持ちの行き着く先はいつも同じ場所。
結局、私は選ばれない。
そして、ナディルの差し出す手を、私はただ見つめるしか出来なかった。