【7】
手に持っていた果実酒の入ったビン。栓を抜いてがぶ飲みしながら部屋に戻る。
こんな姿を誰かに見られたら女王としての威厳がとか、そもそも女性として振る舞いに問題が…と言われるのは必須だろう…。
でも、そんな事も気にならないほど何もかも嫌気がさしていた。
怒りも悲しみも通り越して、そこにあるのは空虚な世界。
お酒を飲んでは手の甲で口を拭う。
それを繰り返しながら部屋に戻る。
次の角を曲がれば、私の部屋という所で何かにぶつかった。反動で尻餅を付く――はずが私の腰にはしっかりと転倒を防ぐ腕。
落として割ってしまうはずだったビンはあっさりと取り上げられていた。 一体、何が起きたの?
見上げるとそのこに闇夜と同じ、紫黒色の髪の青年が立っている。
しかも、その腕の中に居る事に気付く。
間近に見る朱鷺色の瞳は澄んだ朝焼けの空気のようだ。
「お怪我はありませんか?アトレイシア様」
「えーっと、無事みたい」
見られていた?
べ、別に構わないわ!いっそ、こんな下品な女の事なんか愛想尽きたと言ってくれた方が――そう、この目の前に居る男こそ、私の婚約者候補――ナディル。
「あ、あの…アトレイシア様、実は――」
「あ~、そ、それ飲みさしだけど、助けて頂いたお礼に差し上げるわ」
なかなか手に入らない高級酒ですのよ~、おほほほほ…と言って明らかに怪しい態度でこの場を誤魔化しつつ、自室へ入ろうとした時――。
「では、折角、アトレイシア様から頂いた物ですから、ご一緒に頂きませんか?」
「は?」
相変わらず、にっこり微笑んでいる朱鷺色の瞳。
あまりの爽やかさに呆気に取られるほど…。
どうして、こうなるの?
どうして、この男と深夜に自分の部屋でお酒なんて飲む事になったんだろう?
私がお酒をお礼として渡してしまったから?
それとも、前方不注意でぶつかったのがいけなかった?
そもそもサイラスの部屋なんかに行こうと思ったから?
いろいろ考えを巡らせても完全に酔いが回ってしまっている。
ナディルに勧められるままにお酒を飲み、日頃の愚痴をぶちまけている。
完全に絡み酒だ。
こんな女は最悪よね!
それなのに「大変ですね」「お気持ち分かります」「無理なさらないで下さい」とナディルは私を労う。
そんなナディルの優しい言葉に気分も最高潮となり、最後の最後まで愚痴を吐き切らないと気が済まなくなってきた。
「あの、バカ軍務官!!二股なんて掛けやがって!!!!」
調子に乗ってラスの悪口まで口にしてしまっていた。