【6】
この国の女王として、私の日常は政務をこなし、謁見をし多くの陳情を聞き、他国との関係を良くする為に働いている。
勿論、他にも色々有る訳だけど…。
今は、あの長雨の影響で下流地区の復興と援助の為の資金や労働力等、財政にも日々考え決定を下さなければならない。
私一人では無理。だからこそ良い人材、官僚、側近が必要だ。
だけど最終的には何が正しくて何が必要かを見分け決断しなければならい。
今夜の月はまるで夜空を支配する軍神のようだ。
そんな神々しい月の輝く夜は白金の光をつい思い出してしまう。
あの日の事を――そして、消えてしまった人達の事を。
今夜もそろそろ白銀の青年がやってくる時間だ。
たまには私の方から出向いてもいいかも、と思いこっそり一人で飲もうと侍女に用意させた果実酒の入ったピンを持って、深夜の城内を歩く。
悪巧みの天才だったラスのおかげで月明かりのみで、しかも誰にも会う事無く歩く事が出来る術を身に付けてしまっていた。
そして、目的の場所まで後少しと来た所で男女の話し声が聞こえてきた。
よく聞けば話し声と言うより喧嘩に聞こえる。深夜だけあって声は小さいが…。
少し先のドアが開いた瞬間、私は素早く身を月影に隠した。
そのドアは私の目的地で、出てきたのは――あれは、イルミナ姫だ。
続いて出てきたのはその部屋の主。姫の細い腕を掴み引き寄せ抱き締めている。
姫も抵抗などせず身を任せている。 それは一瞬の出来事だった。
解放された姫は踵を返し早足で去って行く。
姫の後姿が闇に紛れると、その者は振り返り部屋の戻ろうとした。
私はその者の前に自分の姿を月光に晒した。
私の顔を見て驚いてる榛色の瞳。
「シア…、どうして?」
それが第一声。
「どうして?って、こっちが訊きたいわよ。どうして?イルミナ姫がこんな夜遅くにラスの部屋から出てくるのかな~?」
意地の悪い声色で話しかける。
「私が知らないとでも?結婚するならああいう可愛い従順な女性が良いんじゃない?何より私より若いしね、あの姫君は」
「………」
「良い噂も悪い噂も、私の耳にはちゃんと入ってくるの。ま、この前言ってくれた事は正直嬉しかったけど、私なんか不釣合いよ」
「俺が、ダメだって事か?」
「違うわ。私が貴方に合わないのよ」
そう言って、私はサイラスの前から姿を消す。
所詮、噂は噂だと思ってたのに、真実だと知ってしまった。
“今度の恋人のイルミナ姫とご結婚されるそうよ”
“やはりご本命のようね。今回は…”
“仕方ありませんわ。あのように愛らしい方では…”
茶話会と称して貴婦人達が噂話を楽しむ。
給仕に控えている侍女達がまた同じ内容の噂に尾ひれや背びれを付けて噂話を広めていく。
やはり、心はぽっかりと穴が開いたまま、しかもさらにその穴は大きくなってしまった。
私は愚痴る。
何が“覚悟を”よ!! 本気で私狙いなら、追いかけてくれてもいいのに、と。