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【5】

好きだけど、手の届かない人。


好きだけど、諦め切れない人。


好きだけど、告げる事すら――。


子供の頃からずっと好きな人は、母上の恋人。 親子ほど歳も離れてるのに、愚かにも恋焦がれてしまっている。


何もいらないから、一緒に居たい。


結婚しても、私は貴方の傍に居たい。


例え、辛くても苦しくても――やっぱりこの想いは変えられない。







  *    *    *







「上の空だな」

「…え?あ、ご、ごめんなさい。ど、どのページ?」

「もう、今日は終わりにしよう」



そう言って、本をパタンと閉じる音。今日は兵法を――先生のサイラスは怖い顔してる。



「だから、ごめんなさいって」

「こういう日は剣でも振って憂さ晴らしでもするか?」



憂さ晴らし? 私ってそんな鬱陶しい顔してる?



「サ、サイラス!」

「思いっ切り身体を動かせば、発散出来るだろう?」



そうかもしれない、少しぐらい怪我をしても午後から定期健診があるし、おじさまに診て貰えば――でも、今日で最後かな?


明日にはおじさまは結婚してしまうのだから。


そして、定期健診の時間。



「シア…。君も女の子なんだから少しは――」

「女?私は女じゃないわ!“王”よ!!次期国王なんだから、これぐらいの傷なんて平気!!」



おじさまは私の顔を見て呆れてる。腕には包帯が幾重にも巻かれ。そして、顔にも切り傷が…。



「何が、女じゃないだ。傷が残らない軽いものだからいいけど。サイラスもサイラスだ。何を考えて…」

「いいの!!どうせ、王になれば、好きな人とは一緒にはなれないもの。傷が在っても関係無いでしょう!決められた相手と結婚して子供さえ産めばそれでいいんだから!」



おじさまは呆れ顔から、厳しい顔に変わってる。


でも、私の言ってる事は本当の事。目の前に居る想い人とは天地が逆さになっても結ばれる事なんて絶対無い。


「アトレイシア!人生は一度きりなのだから、後悔だけはするな」

「あら、その言葉そっくりそのままおじさまに返すわ」

「どういう意味だ?」

「特に意味なんて無いわ。――ただ、地の果てまで追いかけることの出来ない母上に代わって、私が貴方を追いかけてもいいわ」



これが最初で最後の私なりの告白だった。


追いかけたい、地の果てまで。


貴方の行く場所なら、全てを投げ出しても追いかけてみせたい。


そう、母上が貴方を想う気持ちと同じ想いを持って――。


白金色の髪を掻きながら、少し困った顔を見せる。



「参ったな~。シアだとボコボコだけじゃ、済まないな」



でも、菫色の瞳が少し揺れた?私にはそんな感じに見えた。



「おじさま、私は――おじさまが幸せなら――」

「そうだな。シアが幸せならそれでいい。エレナもアルスも俺も同じ想いだ」



おじさまがそっと優しく額に口付けをしてくれる。私はただ、深緋色の瞳をゆっくりと閉じる事しか出来なかった。



今となっては、これは遠い日の懐かしい思い出。



いい加減、忘れてしまえばいい惨めな思い出。

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