【4】
あれは、私が伯父王の養女となり王位継承権が一位になったばかりの頃、高熱を出して臥せってしまった。
熱にうなされながらも、喉が渇きに目が覚める。 目の前には柔らかな白金の光が煌いていた。
「お…おじさま…」
「起こしてしまったか?――どうだ、気分は?」
「う~ん、最悪…」
私の答えを聞いて、ロイおじさまはフっと笑ってる。
熱が出て苦しいのにとても安心できる。このまま天に召されてもいいかも…と思うぐらい幸せな気持ちになる。
そんな風に思えるほどのおじさまの笑顔。
「睡眠不足と栄養不良だ」
「………」
――その通りです。
世継ぎにと望まれてから、休む間も無く猛勉強に猛特訓の日々。毎日クタクタで身体を壊してもおかしくない。
「弱音を吐く事は出来ないか?」
「だって…拙劣だと思われたくない」
「シア、ほどほどにと言いたい所だが、これから俺が定期的に健診してやろう。大切な次期女王陛下だ。ワルター殿にそう申せば納得もして下さるだろう」
「あ、ありがと…。おじさまが薬師で良かったわ」
「もう少し眠って、無理でも食べて薬を飲むんだ。分かったな」
「はい…」
私は素直に眠りに付く。おじさまの手が私の金茶色の髪に触れてるのを感じながら――。
* * *
おじさまが言ってた通り、定期健診はひと月に1回、時には数回ある月もあった。
私自身もこの生活にも慣れ、心を許せる者も多く得る事が出来始めていた。
そんな、ある日。
「ねぇ、おじさま」
「何だ?シア」
「訊きたい事が……二つあるんだけど」
「答える事の出来る範囲なら」
「父上は元気かしら…?」
「――相変わらずだ」
「そう……」
父上とは会っていない。私を手放したという自責の念からか、手放した事で自由を得たのか、王族から離れ薬師として生きる事を選んだ。
父上の事はロイおじさまから、母上の事は神殿を行き来してる元巫女から話を聞くぐらい。
「もう一つ、おじさま、結婚するって本当なの?」
「………」
「相手の方は同じ薬師だとか、しかもお子まで――」
「シア…、誰から聞いた…」
「結構、皆、噂好きなのよ。良い事も悪い事も全部私の耳に入ってくるんだから」
「――結婚はする」
「その方を愛しているの?母上より…」
「意地悪な質問だな」
と言って苦笑している。そんな顔していても綺麗な人だと思ってしまう。
「それでも、結婚するの?子供が出来たから?」
「一度でいいからと、関係を持っただけだ」
「――っ!!!!」
「10代の女の子に話す内容じゃないよな」
「あ、あのね…、おじさま。そ、それでいい訳?」
「俺も魔が差したんだな、きっと」
「――っ!!!!」
「あ、これも女の子に話していい事じゃないな」
し、信じられない!しかも、笑いながら女の子に話す内容じゃっないって!
「わ、私はおじさまが幸せなら、それでいいけど…」
「シアは優しいな。エレナだとそうはいかないからな」
「は、母上だと…どうなるの?」
怖いもの見たさと言うか、訊いてしまう。
「エレナはきっと――」
「きっと?」
「地の果てまで追いかけて、俺の事ボコボコにするさ」
「地の果て?ボコボコ?」
「俺は再起不能だな」
「さ、再起…不能…?」
母上って一体…。私の中の聖母のようなイメージがガラガラと崩れていく。
「あれでいて、エレナは結構嫉妬深い」
「それなのに…結婚するんだ。命がけだね」
「生まれる子には罪は無い。しかも、俺の子だからな」
まさか、この時、私が言った言葉がそのままになるとは思わなかった。
“命がけ”
本当にロイおじさまは母上の為に命すら惜しまない行動に出る――父上と共に。