【20】
ある日の午後、ティーセットを下げに侍女が一人、そして、その後に侍従長が機嫌が良いのかホクホクとした顔で入ってくる。
「お喋りな侍従長は、何しにこちらへ?」
逆に、私は機嫌悪くじろっと睨む。
でも、カルティナは“貴女の考えてる事なんてお見通し”と、そういう目で見てるのか少しも態度を変えない。
「アトレイシア様、少し気晴らしにお散歩でも如何ですか?」
…散歩?」
「適度な運動も大切です」
「ふ~ん。一人で行っていいの?」
「ええ、気晴らしですから。お一人の方が宜しいのでは?」
「じゃあ、1時間ほど、出てくる」
カルティナ、今度は何を考えてる?
疑心暗鬼になってる。
部屋を出る寸前に「神殿の中庭の花々がとても綺麗で見頃ですよ」と付け加えられる。
つまり、そこに行けって事?
罠だと思いながらも、自然と行き先は中庭へ。
あの日以来、あの場所には足を向けてないのは事実。
久しぶりに行くのもいいのかもしれない。
「現実を見てきなさい」――カルデナはそういう風に言ってるのだろうか?
花が咲き乱れるあの中庭は、思い出のお気に入りの場所。
なのに、同時に切なさと時間の流れが止まってしまった場所。
忘れるにはまだ時間が要る、思い出にするには残酷だ。
その二人が消えた場所に立ち、空を見上げる。
――ねぇ?仲良くしてる?幸せよね?
「――シア」
ふと、愛称で呼ばれ振り返る。
思った通り、白銀の騎士が立っている。
「ラスもカルティナに言われてここまで来た?」
「………」
私は、出来る限りの笑顔で話す。
私の問いに答えないという事は肯定?
「おまえ、一人のなのか?」
「そうよ。気晴らしと適度な運動の為に散歩」
近付いてきたサイラスは私の手を取り、自分の腕に私の腕を組ませる。
腕を組み、寄り添い歩く姿は恋人同士のように見えるだろう。
「一人で歩けるわよ」
「俺の目の前で派手に転倒されてもかなわん」
「…ひどい。そこまでドジじゃないわ。これでも気をつけて歩いてるのよ」
私の歩調に合わせ、支えるように歩いてくれるラス。
「――シア」
「ん?」
「早く答えをとは言わないが、答えてくれる気はあるんだろうな?」
「……あるわ。でも――!」
影が止まる。
その影の持ち主はこちらを見てる。
「――ナディル!?」
「も、申し訳…っ!!カ、カルティナ様に、あ、あの…邪魔をするつもりは…!」
侍従長の名が出てくる。
なるほど!ここ場に、この3人が偶然に出くわすなんて有り得ない。
カルティナが仕組んだものだ。
「あの女~」と心の中で悪態を付く。
慌ててこの場を立ち去ろうとするナディルを呼び止めようとしたが、それよりナディルの前に立ちはだかるフードを目深に被った一人の男が立っている。
この花咲く中庭には似つかわしくないその姿に誰もが動く事が出来ない。
が、いち早く反応してるサイラス。
腰に帯びた剣をいつでも抜ける体制で前で出る。
「待ちなさい!ラス!!」
不審な男のフードから僅かに見えた黄赤色の瞳。
「…シュ――!!」
「その名を口にするな!我を呼んで良いのは、あの方のみだ」
喉元まで出かかった名を私は飲み込んだ。
「どうして、ここに?」
ラスもこの男が誰であるか気が付いたようだが、まだ緊迫した空気が漂っている。
その男は口元を歪め笑う。
「さしずめ、気が変わったという所だ」
「?」
「我の炎でおまえの望みを叶えてやろうと思ってな」
「!?」
「行くが良い!おまえの望む所へ!」
「!!」
今になって、どうして?「死ぬ急ぐな!」って言ってくれたのは嘘なの?
子供の事も気に掛けてくれてたじゃない!!
それなのに!
瞬く間に赤い炎は私を包む。
炎は、足元から螺旋状に空へと昇っていく。
私は何処へ?
母上のところ?
父上のところ?
おじさまのところ?
それとも、骨も灰も残す事無く死者の国へ?
い、嫌ぁーー!!
もう、行く所は無いと知ってしまったの!
「――シアっ!!!」
「アトレイシア様っ!!」
「き、来てはダメーーーっ!!!」
炎に包まれる私を行かせまいと私の腕を身体を必死に捉まえ抱き締めてくれる。
「やめて!!!燃えてしまう!!!貴方達まで!!!放して!!!ラス!!!ナディル!!!」
私の言う事が聞こえないの?
お願い!!
私は貴方達まで失いたくないっ!!!




