【16】
私が予想していたよりも早くサイラスは私の部屋に来た。
せめて身支度でも整えて、と思ってたのに。
着替えも中途半端の上、髪は……そうだった、この短さでは何をする事も出来なかった。
呼び寄せるだけ呼び寄せておいて、私は何も話せなくなっている。
いい加減痺れを切らしたサイラスに「お話があるのでは?」と言われてしまった。
「ご、ごめんなさい…!その、謝罪を…」
「謝罪?何について?」
「え、その…今回の事とか色々…と言うか、諸々と言うか…」
私から顔を背けあからさまに大きな溜め息を吐く。
完全にあきれ果てさせてしまった。
でも、私の事はこの際どう思われても仕方ない。
私は謝罪よりももう一つの話がしたかった。
「サイラス。あ、厚かましいのは分かってるつもり。だけど、お願いが…。た、頼みたい事が――」
「言ってみろ」
眉間に皺を寄せて、榛色の瞳は真っ直ぐ私を捕らえている。
「次期国王の補佐をお願いしたいの。私はすぐにでも王位を返上したい。私みたいのが王だなんて…。やはり、無理なのよ」
「……カルティア殿からは聞いている。どうして“補佐”なんだ?」
その顔は怒りに満ちている。その理由は私には分からなくて…。
「え?“補佐”という役職では不満?それなら、えーっと…」
「シア!どうして“父親”にと言わない?」
「!!!!!」
「おまえが、子の父親はサイラスだと言えば、全て収まるだろう」
「ちょっと、待って!だって、どっちが父親か、私だって分かんな――」
「だから!!俺だと言え!!と言っている」
そ、そんな事言える訳ない!だってラスはイルミナ姫と…。
「イルミナの事か?あれは親が勝手に決めたものだ。今は白紙状態に戻した。第一おかしいだろう?俺が12歳も離れたガキなんかと!」
「………」
「俺にとってイルミナは小娘以下だ」
「!!!――そ、そんな事……」
サイラスはこの部屋に来て二度目の溜め息を吐く。
そして、腕を伸ばしてくる。その先には自ら短くした金茶色の髪。
「俺と、結婚してくれないか?」
そう言って真摯な瞳を向ける。
私は不覚にもその白銀の騎士に見惚れてしまう。
「わ、私のような女がいいなんて、絶対おかしいわよ!」
「そうだな、俺はおかしいんだ」
「ちゃんと診てもらったら?」
「そうする事にしよう」
私の鼓動がうるさくて、自分で何を言ってるのかはっきり聞き取れない。
「ラス――返事は――今は出来ない…。ナディルとも…」
「ナディルとも話すか…。だが、俺はもう待てない!あまりにも遠回りをしてしまったのだから」
遠回り。
私はずっと、おじさまを。 サイラスはずっと、私を。
長く曲がりくねった道を当ても無く歩んで来たのだ。
一度は重なった二人の道も一瞬にして離れてしまい。
今、また道が交差する。 そして、その道の先にあるものは――。
私は、暗闇しか見えていなかった。




