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【12】

あれから、ひと月以上経ったけど、あからさまに激変した事も無く極めて平穏を装っている。


サイラスとナディルとも、いつもと同じ毎日だ。


サイラスとの事もあのまま放置。


ナディルとは時折一緒にお茶をしたり、会話をするだけ。



ある朝、鏡の前に座り、侍女が髪を結いあげてくれる。


もう一人の侍女が髪飾りを手にしてやって来た。



「その髪飾り、どうしたの?」



髪飾りを鏡越しに見つめてしまう。


赤い宝石の付いた飾りだ。


華美過ぎず、かと言って野暮ったくも無い、洗練された感じがしてひと目見て気に入ってしまう。



「これは、陛下へのプレゼントです」

「――誰からなの?」

「ナディル様からです」

「えっ?」



侍女は既に私の金茶色の髪に飾り付け「お似合いです」と感嘆の声を上げている。



「陛下、あとドレスの仮縫いもあるのですが…」

「仮縫い?」

「はい、ご婚約の公表の日にお召しになるドレスです」

「!!!!!!」



この結婚話、私の知らない所でどんどん進んでいる。


止める事が出来ないなら、当日ぶち壊してやろうか!という復讐心にも似た気持ちが芽生えてくる。


侍女達に請われるまま、ドレスに身を包みお針子達は「ああでもない、こうでもない」と言ってはデザイン通りに仕事をそつ無くこなす。



「お色もデザインも素敵ですわ~」



侍女達もお針子達もは口々に褒め称えている。


「この色、誰が選んだの?」私が尋ねると「ナディル様です」と声が返ってくる。



「………」



私自身似合う色だと思う。


でも、この色は敢えて避けてきた色だ。


侍女達がざわめきだした。


何か?と思うと一人の侍女が「ナディル様がお見えなのですが…。どうなされますか?」と、私は「お通しして」と答えるとその侍女は少し苦笑する。



「お披露目まで内緒にされては?」

「ナディルが選んだドレスよ。今さら内緒も何も無いでしょう?」

「し、失礼致しました」



侍女は頭を下げ、この部屋に居た者達は全員下がっていく。


代わりに入って来たのはナディル。



「やはり、よく似合いますね」

「ありがとう。でも、私はこの色、嫌いなの」

「……陛下?」

「貴方は、私を誰かと重ねているようね」

「………」

「私は、母上ではないわ」



そうだ、この色はよく母上が身に纏っていたドレスの色と同じ。


光沢のある淡いベージュのドレス。


私はドレスを脱ぎ捨て、着替え始める。異性の前であろうが、お構い無しに。



「私と母上を比べて、さぞかしがっかりした事でしょうね!」

「アトレイシア様……、僕は」

「いい加減にしてっ!!私は母上とは違って上品でもなければ聡明でもないわ。まして、貞淑でもないっ!!!」



こんな事、今までに数え切れないほどあった。


母上と比べられる事なんて。自分でも母上でさえ、私達は似ているといつも口にしていた。


金茶色の髪も深緋色の瞳も何もかもお揃いだった。


外見年齢が同じになったの良い事に、私は私でないような錯覚に落ちていた。


本当に母上の真似をし、振る舞っていた。


それは、すべて母上の身代わりにこの身を『魔獣』とその契約者に差し出す為に…。



「誰も、誰も、私を見ない!私を選ばない!」



半ば放心状態で、この言葉を搾り出すように叫ぶ。


赤い宝石の付いた髪飾りを引き千切るように外し、床に叩きつける。長い乱れた髪が背中に流れる。


私はテーブルの上にある裁縫道具の中から裁ちバサミを手にし、狂ったように自ら豊かな母上ゆずりの髪を切り刻んでいた。


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