【10】
成り行きでこうなりました、と言うには憚れるような…。
朝から妙に私の周りの者達は浮き足立ってるように見える。
侍女達もいつも以上にニコニコと機嫌良く給仕に徹しているように見える。
そして、朝食を取る私の前には何故か昨夜一夜を共にした男が同席している。
食べ終えたのかゆっくりとお茶を飲んでいる。
それに反して私は食事が進まない。
そこへ、誰よりも浮き足立って、いいえ、完全に浮いてるんじゃないかと思うほど喜色満面で政務官がやって来た。
「これはこれは、ご機嫌麗しく、陛下」
「おはようございます、ワルター様」
「……はよ…、ワルター」
先に、紫黒色の髪の青年は政務官に挨拶をする。
その後に私も…、顔に出てると思う、うんざりとした表情が。
それなのに、少しも気にする所か、さらに嬉々とした顔を見せ「ご婚約の公表は早めますかな?」とか「陛下のご成婚の日が待ち遠しい」とか一人勝手に且つ一方的に盛り上がってる。
こんな事だろうと思った。
カルティナの事“さすが”と思ったのに“やっぱり”だ。
あの侍従長!黙ってられなかったなーっ!
私が依然黙してるのに気が付いたのか、ワルターは「如何なされましたか?お食事が進まないようですが…」と訊いてくる。
「何も無いわ。ただ、少し胸がムカムカして、吐きそうで気分が悪いだけ」
思い切りつっけんどんに言い放つ。
当然でしょう!私は二日酔いで頭は痛いし、胃はムカムカして気分も悪い。
「そ、それは、いけませぬ!!陛下、薬師に!!いや、安静に!!今日の公務はお休み下さい!!」
今度は何?一人勝手に慌てふためいて…。
私は二日酔いなの!!横で大きな声出さないで欲しいわ。
頭にガンガン響くでしょう!!
「ワ、ワルター。……あまり大きな声出さないで頂戴…」
「申し訳ありません!!胎教によくありませんな!!」
だから、何なの?――ところで、タイキョウって、何?
「顔色も良くないですね。お部屋までご一緒いたしましょう、陛下」
今まで涼しげな表情を浮かべてお茶を飲んでいたナディルの申し出に「そうですな。そうされた方が宜しい」と、ワルターが勝手に答えている。
私は部屋に戻る。
本当に二日酔いで気分が悪く、歩くのさえ少しふら付いてしまう。
「大丈夫ですか?」
「だ……大丈夫じゃない。本気で吐きそ…」
「それは、いけませんね」
と、言っていきなり横抱きにされる。
ちょっと、何をするの――!と、反論したかったのに、唇は動かない。
優しく口付けをされている。
「なっ!!!!――!ど、どさくさに紛れて何をするーー!!」
「吐くなら、部屋まで我慢してください!ここで、醜態をさらすのは女王陛下として不本意でしょう」
と言って、もう一度あの柔らかい唇が降りてくる。
私は押し黙るしかない。しかも、なすがままになるしかない。
こいつ、嫌味なほど策士だ!
爽やかな朱鷺色の瞳はいつも柔和な笑みを湛えてるくせに、本性は腹黒い?
今まで、その笑みに騙されていた!
それなのに、興味が沸く――もしかしたら、私と同じ種類の人間?
表と裏のある私。
気高く心優しい女王としての私。
――と、気難しく我侭で癇癪持ちの女。
でも、 どちらも本当に私。




